◆ムキにならず、ゆったり走れるかどうか
かつて“坂路の重鎮”として知られた松元省一元調教師は「機械はアテにならん」と言い放ち、坂路の自動計測装置を一切信用しなかった。
どうやって時計を計っていたかというと、坂路モニターに映るハロン標識ごとに赤線を引っ張り、そこを目安に自分でストップウオッチを押して計測していたのだ。「頑固な人だな」と思いつつも、「表示エラー」があるたびに、省一師が妙に誇らしげな表情をしていたのが、今、思い返すとなんともかわいらしい。
2012年に坂路の計測システムがバーコードからICチップ方式に変わり、表示エラーは格段に減ったが、それでもまれに計時不能は生じ得る。そんな時でも、大抵は登坂した“痕跡”として馬名だけはモニターに表示されるのだが、先週9日にフェブラリーSに向けた1週前追い切りを行ったインカンテーションに関しては、馬名すら表示されない不思議な現象が起きた。
見間違い? 幽霊? いや、調教班は併せ馬で登坂したインカンテーションをハッキリと目撃している。JRAによれば「ICチップを入れる場所によっては、ごくごくまれに、こうした現象が起こり得る」そうだ。タイムが一切不明だったとなれば、実際、騎乗していた人間に感触を聞くまで、である。
「時計的には一緒に併せたキングブレイク(古馬1000万下)とほぼ同じタイム(4ハロン51.6-13.0秒)だったと思います。動き? 元気はすごくいいんですよ」とは自ら手綱を取った羽月調教師。ただし、続いた言葉は「ちょっとムキになる面がありますね。そこそこ速いラップで行ってたのに、行きっぷりが良過ぎて…」。
前走の東海S(12着)も元気が良過ぎたために、ゲート内でバタついて出遅れ、さらには1角では他馬と接触して、まともにかかってしまったインカンテーション。フェブラリーSで“復活走”を見せるには、そうしたメンタル面の改善が必須となる。
おそらく今度はしっかり計測されるはずの最終追い切りで、ムキにならず、ゆったり走れるかどうか。まずはそこが要チェックポイントとなる。(栗東の坂路野郎・高岡功)