カデナ(写真提供:東京スポーツ)
吉田竜作記者が背負う「POG日本一」の冠は、走る馬をいち早く見つけることに由来するものではない。1頭の馬を丹念に追い続ける、その積み重ねがPOGに存分に生かされているからだ。そんな男が牡馬クラシック開幕戦となる第77回皐月賞(16日=中山芝内2000メートル)の下馬評に敢然と異を唱えた。果たして出走予定18頭の中でまさに今、最強の馬とは!?
「今回の方が状態は間違いなくいい」
今年の3歳牡馬は本当に言われているほど弱いのか? ここを明確にしなければ、皐月賞の正解にたどり着けることはなかろう。
昨年暮れの朝日杯FSを制し、2歳王者の座に就いたサトノアレスは、トライアルのスプリングSであっさり4着に敗れ、無傷の3連勝とまだ底が割れていないレイデオロは、暮れのホープフルS以来のぶっつけ本番。確たる“軸”として計算が立つ馬が不在の中で、勝ったり負けたりを繰り返し、重賞タイトルを持つ馬は史上最多となる11頭(別表)を数える。うち複数のタイトルを持つのは京都2歳S→弥生賞を連勝中のカデナのみだ。こうした状況が「3歳牡馬はレベルが低い」という声を生み、その声に絶大な“説得力”を与えてしまったのが、カデナが重賞連勝前に喫した百日草特別の敗戦ではなかったか。
この500万下特別でカデナは牝馬のアドマイヤミヤビの後塵を拝する2着。この事実が出発点になり、カデナがその後に勝てば勝つほど、「あの馬に勝ったアドマイヤミヤビはすごい」と評価が上がる一方で、敗れた当のカデナは「重賞を勝ったといっても、牝馬に負けているし…」と懐疑的な声が出がちだ。
しかし、敗戦を結果として捉えるだけで、敗因を分析する作業を省いてしまっては意味がない。では、なぜ百日草特別でカデナはアドマイヤミヤビに敗れたのか?「まともに前が壁になってしまって…。追えたのはゴール前のほんのちょっと」とは中竹調教師。そう、0秒1差の敗戦は「不利があったから」という明確な解答が用意されている。
さらに踏み込むなら、その後の重賞連勝はカデナの「成長力」によるものが大きかったことを強調する必要があろう。
1週前追い切り(5日)は栗東坂路で古馬オープンのジャストドゥイングを追走。「実戦から遠ざかっているから、動けないものと思っていたら、思いのほかスイスイ行っちゃってさ。追いついてこれないと思った」とは先導役に騎乗した白倉助手の弁。しかし、福永に追われたカデナは懸命に差を詰め、ゴール板では鼻面を並べるところまで迫ってみせた。刻んだ時計4ハロン51.6秒は自己ベストだ。
「脚が上がるくらい目一杯にやっておきたかったからね。これなら十分。前回は“ゆるゆるの仕上げ”。今回の方が間違いなくいい」と中竹調教師が満面の笑みを浮かべるほど、ハードに攻められたのは「カイバを食いこめるようになり、どんどん実になっている」牡馬らしい成長を見せているからこそ。そう、百日草特別当時のカデナと、京都2歳S、弥生賞当時、そしてこの中間のカデナでは、全く別馬と言っていいほど、上昇曲線の真っただ中にあるのだ。
以前の中竹キュウ舎なら、ここまで管理馬を追い込むことはなかったように思う。坂路で力のいる時間帯に乗る代わりに、併せ馬はめったに行わないのが特徴。それが今回のこのハード調教だ。「併せ馬? 確かにウチはあまりやらないよね。今回は(福永)ユーイチが“併せた方がいい”と言ってきたのもあって」と白倉助手。福永もまた“本物”になってきた「今のカデナ」に大いに手応えを感じているのだろう。
いずれにせよ、下馬評が「過去のカデナ」を大きく反映したものなら、中竹調教師、福永が春の牡馬クラシックに無縁というのもまた昨年までの話。今年の皐月賞を論じるに必要なのは「今、現在の力」なのだ。このあたりが話題性十分のファンディーナの挑戦によってかすむようなら…。カデナからの馬券は、予想以上においしいものになるかもしれない。