◆原点復帰した和田竜二騎手 桜花賞で断然人気のソウルスターリングが3着に沈み、皐月賞では牡馬を押さえて1番人気になったファンディーナが7着にとどまり、このトライアルでは圧倒的な支持を受けた
ホウオウパフュームは8着。レベルが高いとされた今年の注目牝馬は、なんと波乱の主役になっている。
フローラSを快走した
モズカッチャン(父ハービンジャー)は12番人気。2着に粘った
ヤマカツグレース(父ハービンジャー)10番人気の伏兵だった。
桜花賞組がトライアルに出走せず、直接「オークス」に出走するようになった現在、フローラSに出走してオークスに向かう馬は必ずしも強力なメンバーではないから、フローラSはもともと波乱のトライアルでもある。
最近20年間に範囲をひろげると、今年のモズカッチャン、ヤマカツグレースと同じように、このトライアルを「6番人気以下」の伏兵として3着以内に快走した馬は計18頭もいる。
そのうちオークスに出走した15頭の本番での成績は、2000年マニックサンデーから、昨2016年アウェイクまで「8、15、9、3、15、13、16、15、17、12、11、16、5、8、12」着である。
トータルして【0-0-1-14】。2003年、トライアルを14番人気(単勝165倍)で勝ったシンコールビー(父サクラローレル)が、スティルインラブの勝ったオークスを、9番人気で3着した例はあるが、フローラSを人気薄で好走しオークスに出走した馬は、苦戦の連続。
直前ステップがフローラSで、本番オークスで3着以内に好走した馬はこの10年間だけで9頭もいるから、桜花賞からの直行組が主役とはいえ、フローラS組を軽視することはできない。
ただ、冷たいようだが、フローラS組でオークスでも買えるのは、昨年のオークス2着チェッキーノ(フローラS3番人気で1着)、2010年のオークス馬サンテミリオン(フローラS1番人気で1着)が示すように、トライアルの時点からオークス候補の1頭とされ、その通りに結果を残して本番に挑戦した馬だけである。
今年の場合、人気馬が危ない結果に終わるケースが連続しているから、これまでのパターンを当てはめるのは危険だが、桜花賞を人気薄で台頭した上昇馬は、2008年のエフティマイア(桜15番人気2着→オ13番人気2着)が代表するようにオークスでも侮れない。でも、さらに遅れてフローラSで台頭したモズカッチャン、ヤマカツグレースは本番で期待できるだろうか。また、人気で3着止まりだった
フローレスマジック(父ディープインパクト)は反撃できるだろうか。1番人気で凡走したホウオウパフューム(父ハーツクライ)は、「秋に向けて…、さらに成長するのを待ちたい」というトーンになった。
勝ったモズカッチャンは、2月の小倉芝1800mの未勝利戦を上がり34秒2で楽勝して注目されたが、前走の中山芝1800mの500万条件が1分51秒8(上がり36秒6)の辛勝。かかり気味に行ってしのぎ切ったしぶとさは評価されたが、時計勝負には合わない印象が残った。難しいハービンジャー産駒の初コース、初の左回り。人気の圏外になったが、好位のインで流れに乗ると、先に抜け出したヤマカツグレースを坂上から一気に差し切ってしまった。好調の波にのる鮫島一歩厩舎は、これでハローユニコーン(忘れな草賞)、マナローラ(デイジー賞)と合わせ、オークス3頭出しもありえる。評価の落ちかかっていた種牡馬ハービンジャーも、クラシック路線の注目レースでワン・ツーは大きい。母方はマイラー色が濃いが、距離適性で評価が下がるなどということはないはずである。
コンビの和田竜二騎手(39)は一昨年あたりから別人のように変わり、テイエムオペラオーの和田竜二に戻った。これは叱られないと思うが、ムチの乱使用が禁止されて本来の姿に戻ることができたジョッキーが何人もいる。和田騎手もそのひとりであり、ムチに頼りすぎて姿勢を崩し、星を落とすなどというケースがウソのようになくなった。大切な原点復帰である。
オークス騎乗は今回実現すると3度目になる。そのうち1回は2000年、5番人気のカリスマサンオペラでフローラSを2着しての出走(13着)だが、今年のモズカッチャンの方がはるかにチャンスは大きいはずである。
同じハービンジャー産駒のヤマカツグレースは、現5歳牡馬ヤマカツエース(金鯱賞2連勝、中山金杯など重賞5勝)の半妹。1800m→2000mと距離延びて先行力が生きてきたあたり、すんなり流れに乗れる素直な気性が持ち味か。初コースながらこの馬がもっとも落ち着いていた。確勝の形になって差されたあたりパンチ一歩の印象だが、大駆けはない一方、逆に崩れないタイプだろう。種牡馬ハービンジャーの送る産駒は、まだまだとらえどころがないのである。
3着フローレスマジックは、戦ってきた相手からするとここは勝機だったが、追い比べでなってやや詰めが甘かった。クビが高いというわけでもないが、なんとなく浮ついたフットワークになってしまうあたり、まだ芯がはいっていないということか。それだけに変わる余地はあるが…。
人気のホウオウパフュームは、軽やかな柔らかいバネが目立ち、いかにも切れる牝馬らしい身のこなしだったが、今回はちょっと上品すぎ、馬体重のわりに迫力に欠けるように映った。
道中の追走に無理はなく、もまれたというレースでもないから、直線の追い比べで見劣ったのは残念。この頭数だから、一番外に回るのはロスが大きすぎる。だから、その手はないだろうが、外から来られたときにフットワークが小さくなった気がした。奥村武調教師がコメントしたように、いまムリをするわけにはいかない、というローテーションになるだろう。
桜花賞の終了した直後、この組はオークスの有力馬ではないかもしれない、というちょっと物足りなさが生じた。だから、ここでホウオウパフュームに注目が集まったのは当然だが、別路線のエース格と期待されたホウオウパフュームが現時点では力及ばずとなった結果、また、やっぱり桜花賞の上位組を再評価しなければ……と、オークスの勢力図は元に戻りかけている。才能豊かな牝馬はそろったが、どうもみんなたくましくないのが、今年の特徴になりつつある。