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地方競馬は“ジョッキー”が濃い!/大恵陽子

  • 2017年05月08日(月) 18時00分
「地方って、スゴい。」

▲NAR特設サイト「地方って、スゴい。」との連動コラム


「競馬が、濃い。」をコンセプトに、コラムや動画で地方競馬の面白さを伝えるSP企画の第3弾! 今回のテーマはズバリ、ジョッキー。今もなお第一線で活躍を続ける還暦トリオから、ママになって帰ってきた女性騎手、JRA騎手である息子が尊敬してやまないプロフェッショナルなど…地方ならではの“濃いジョッキー”を大恵陽子さんがご紹介!(取材・文・撮影:大恵陽子)



 ――還暦、ママさん、片目のジョッキー。競馬のみならずスポーツの枠で捉えても信じられないスゴいジョッキーが地方競馬には存在する。

宮下瞳騎手〜ママでも1着〜


「地方って、スゴい。」

▲女性騎手の最多勝利記録保持者が"ママさん騎手"になって復帰!


「ママでも金!」

 柔道・谷亮子元選手の有名なフレーズ。

 地方競馬には“ママでも1着”を目指すパワフルな女性がいる。名古屋競馬(愛知県)で女性騎手最多勝記録を持つ宮下瞳騎手(39)。彼女は約6年前、同じ競馬場で騎乗する夫・小山信行騎手との間に子供を授かったのをきっかけに騎手を引退した。女性騎手のトップとして走り続け、韓国に長期滞在し異国の地でも結果を残した直後だった。

「一生懸命やりきった感があって、引退を決めても寂しさは全くなかったです」

 引退して2人の男の子に恵まれ、主婦業に専念する日々だった。ところが、長男の「ママが馬に乗っている姿を見たい」という言葉に突き動かされた。深夜0時30分の起床から夜8時の就寝まで厩務員としての仕事、ママや主婦としての仕事、さらに騎手免許を再び取得するための試験勉強と休む間もなく駆け抜けた。そうして昨年8月、ママになった宮下騎手は見事騎手免許試験に合格し、復帰した。ハードな毎日でも生き生きと過ごせるだけの大きな決意があったことだろう。

 宮下騎手だからこそできたのではないか、と思える昔のエピソードを師匠の竹口勝利調教師が語った。

「おかずが7品くらい入ったお弁当をずっと作ってくれていたり、うちの亡くなった愛犬のお墓に花をずっと供えてくれていたんです。彼女は一途で完璧主義。昔からそういう子でした」

 ちなみに、兄・康一騎手(兵庫県、園田・姫路競馬)もまた一度引退しながら復帰した。そのブランクはなんと11年! 地方競馬史上最長ブランクから復帰し、重賞制覇も遂げた。(2016年2月5日梅桜賞モズキンボシ)

「まだ(宮下)瞳が復帰してから一緒にレースに乗っていなくて、早く一緒に乗りたいですね」

 ブランクを乗り越えた兄妹対決が待ち遠しい。

森下博騎手・石崎隆之騎手・的場文男騎手〜還暦トリオ〜


「地方って、スゴい。」

▲左から森下博騎手(川崎)、石崎隆之騎手(船橋)、的場文男騎手(大井) ※森下騎手、石崎騎手の写真はNAR提供


「あっ、マリオだ!」

 あるジョッキーレースで真っ赤な勝負服に赤いキャップをかぶった大井競馬(東京都)の的場文男騎手(60)を見た若手ジョッキーがそう冗談を言った。30歳近く年下の後輩の冗談に怒るのではないか……と心配した。ところが的場騎手は「ピョコンッ!」と効果音を口ずさみながらジャンプした。

 ノリが若い。気持ちが若い。馬上で体を大きく上下させるアクション同様、60歳という年齢など感じさせなかった。

 南関東(浦和、船橋、大井、川崎)には的場騎手よりも年上のジョッキーがさらに2人いる。川崎競馬(神奈川県)の森下博騎手(62)と船橋競馬(千葉県)の石崎隆之騎手(61)。還暦トリオは今年3月1日に3人ともが勝利を挙げるなど年を重ねた今もなお活躍を続ける。南関東はジョッキーも馬も激戦区。かつて南関東所属だった内田博幸騎手や戸崎圭太騎手がJRAに移籍し活躍する姿からもレベルの高さが窺える。騎乗数を確保することさえ大変で、若手騎手の中には騎乗機会を求めて高知競馬などに武者修行に出る者もいる。そんな中、的場騎手は32年間にわたり年間100勝以上を挙げている。通算勝利は6995勝(2017年5月7日現在)。7000勝へ向けカウントダウンをする「マトメーター」なるパネルまでもが大井競馬場には出現している。

 来年は還暦トリオにいくつかの楽しみができそうだ。一つは通算勝利数の日本記録更新。現在は佐々木竹見元騎手がマークした7151勝が日本記録だが、的場騎手がこのまま勝利数を積み重ねれば来年くらいに歴史的瞬間が見られるかもしれない。

 もう一つは最年長〇〇の更新。最年長騎乗記録、最年長勝利記録ともに山中利夫元騎手が保持(騎乗記録:63歳0カ月、勝利記録:62歳9カ月)しているが、森下騎手が来年3月以降に勝利し5月以降も騎乗を続ければ両記録を更新することとなる。

 彼ら還暦トリオと比べれば若く感じる……と言っても十分スゴい54歳(当時)で全国リーディングを獲得した川原正一騎手に、長く一線級で活躍する秘訣を聞いたことがある。

「僕は年だなんてこれっぽっちも思っていないんだよ。周りに若い子が多いこともあるからか、気持ちはまだまだ若いつもり」

 マリオ風の的場騎手の姿とリンクする。尊敬の念を込めて“還暦トリオ”と呼ぶが、当人たちは私たちほど年齢を気にしていないのかもしれない。

宮川実騎手〜片目のジョッキー〜


「地方って、スゴい。」

▲落馬事故によるハンデをものともしない抜群の騎乗センス!


 時速約60km、前後左右の馬と触れそうなほど密集した馬群で、ジョッキーは瞬時の判断を次々に下していく。両目を使っても一般人には難しいことを高知競馬(高知県)の宮川実騎手(35)は片目でやってのける。そして、馬券において信頼の置ける成績を残してくれる。

 片目の視力が失われたのは、2009年5月の落馬事故だった。失意のどん底で師匠から「昔、隻眼で騎乗していた騎手がいたらしい」と聞き、光明を見出した。懸命のリハビリを乗り越え、地方競馬全国協会立会いのもと模擬レースに騎乗。レース騎乗に支障なしとの判断が下され、復帰が決まった。

 右目を頼りに騎手復帰した日には多くの騎手仲間から祝福の声が届き、当日の10レース中8レースは彼の復帰を祝う協賛レースで埋め尽くされた。馬上の姿を再び見た地元ファンの中には涙する者もいた。

 宮川騎手は当時をこう振り返る。

「復帰する時は、視野が気になることがないわけではありませんでした。でも、それを言い訳にはできません。やるからには、自分が乗れなかったらいい馬に乗せてもらえないので乗り越えていこうと思いました」

 片目での復帰から7年。何気なく高知競馬のレースを見ていると「うわ〜、また宮川騎手が来たっ!」と幾度となく口にする。昨年地元リーディング3位。JBCにも騎乗した。兄の浩一元騎手は「(宮川)実の騎乗センスはすごいっ!」と感服する。

 こうして隻眼の騎手として取り上げられるが、そんなことを抜きにして宮川騎手は間違いなく高知を代表するトップジョッキーの一人である。

吉原寛人騎手〜地方競馬のM.デムーロ〜


「地方って、スゴい。」

▲激戦区の南関東でも活躍する重賞ハンター!


 JRA騎手となる前のM.デムーロ騎手は、来日する度に大レースを勝って帰った。ネオユニヴァース、ヴィクトワールピサ、エイシンフラッシュ。

 金沢競馬(石川県)所属の吉原寛人騎手(33)もまた、南関東にやって来ては重賞レースを勝って帰る。これまで南関東の競馬場で重賞22勝。南関東所属馬と盛岡など他地区へ遠征し重賞を勝ったこともある。2015年7月には大井競馬所属のユーロビートに跨り、マーキュリーC(JpnIII、盛岡競馬場)を勝利。JRA馬を相手に吉原騎手にとって嬉しいダートグレード競走初制覇となった。

 しかし全てが順調だったわけではない。ダートグレード初制覇となった1ヶ月半後、大怪我に見舞われた。

 名古屋競馬場で行われた重賞・秋桜賞をケンブリッジナイスと共に先頭でゴールを駆け抜けた直後、同馬が転倒。吉原騎手は馬場に大きく叩きつけられるように落ちた。現場の話を総合すると、落馬直後、吉原騎手はピクリともしない同馬を案じたが、すぐに彼自身も激痛にうずくまったという。ケンブリッジナイスはこの後、無事に立ち上がり関係者とともに記念撮影に収まった。一方の吉原騎手は「がんばれー!」というファンの声の中、救急車で運ばれてICUへ。鼻骨骨折と背骨を圧迫骨折していた。それからわずか2ヶ月後、驚くべき回復力でレースに復帰した。

 異なる環境に順応したり、度重なる長距離移動に屈せず結果を残すには、体力はもちろん精神力も求められることだろう。まだ手にしていないGI/JpnIの称号を手に入れるため、金沢のデムーロは不屈の闘志で全国を駆け回る。

鮫島克也騎手〜54歳、息子2人はJRA騎手〜


「地方って、スゴい。」

▲JRA鮫島兄弟の父は佐賀競馬のプロフェッショナル!


 佐賀競馬場に内ラチは存在するが、それに沿って走る馬は多くはない。ほとんどの馬は内ラチから数メートル空けて走る。というのも、内側の馬場が深くパワーを要することが多いからだ。佐賀競馬場攻略には馬場読みが大きな鍵となる。

 この地のトップジョッキーの一人・鮫島克也騎手(54)は、息子2人がJRA騎手。良太騎手(30)、克駿騎手(20)がJRA馬とともに佐賀競馬場に騎乗しにくることもある。兄・良太騎手はこう話す。

「僕も弟も、佐賀競馬場では勝ったことがないんですよ。親父のおかげで地元の人気馬に乗せていただくこともあるんですが、人気薄の親父の馬が勝ったりしちゃうんですよね。馬場状態について事前に聞いた通りに乗ったつもりでも『あと1頭分外だ』とか言われちゃったりして」

 雨や砂の補充状況などによって内外の有利不利は変わる。微妙な変化を馬上で読み取り、馬の能力を最大限に引き出す技術は、さすが佐賀のトップジョッキー。狙った獲物は逃さない“キングシャーク”の異名を持つ男である。

 今年3月のはがくれ大賞典では4コーナーで逃げ馬の内を突いて勝利。4月のル・プランタン賞では初騎乗の7番人気馬を直線で大外に持ち出しグイグイ追い込んで3着に持ち込んだ。

「努力家でトレーニングを欠かしません。54歳になり体力的にも精神的にもしんどくなる面があると思いますが、親父に衰えを感じません」(良太騎手)

 父の背中は、年を重ねても偉大なままだ。
 地方競馬では勝負服の色柄は騎手毎に決まっている(門別競馬など一部例外あり)。気になる騎手の勝負服を覚えればレース中どこにいるか見つけやすく、イン突きが得意など特徴を掴みやすい。

 ぜひお気に入りの勝負服をたくさん見つけてほしい。

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