父・池添兼雄師から子・学師へ 受け継がれるスズランの血ヤマカツケンザン/吉田竜作マル秘週報
順調にいけば6月の阪神開催でデビュー予定
記者がまだこの世界に入る前の一競馬ファンだったころ、オグリキャップのマイルCS→ジャパンC連闘(1989年)で見せた根性の走りに涙したものだ。ハードに使うことは「動物愛護」の名の下にバッシングを受ける要因にもなるが、この世界に入ってわかったことがある。それは誰もが“飯の種”でもあるサラブレッドに、並々ならぬ手間と愛情を注いでいることだ。
「自分の稼ぎをくわえて帰ってきてくれるんだから。自分以上に大切に扱うのは当たり前だろう。動物というのは手をかければ必ず返してくれるんだよ」とは名伯楽と呼ばれた松田博元調教師の言葉。大なり小なり、この精神はホースマンに息づいている。
「坂路の申し子」と言われたミホノブルボンがクラシック準3冠(皐月賞、ダービー制覇、菊花賞2着)を達成した92年当時は、まだ坂路調教のノウハウすらなかった。管理していた故戸山調教師は自らの経験則で「鍛えられるギリギリ」を攻めていたのだろう。そこには多くの失敗と成功があり、その経験が後進に伝えられてきた。
「坂路3本乗り」を取り入れたキタサンブラックは、その象徴ではなかろうか。同じ清水久キュウ舎でジョーストリクトリを担当する宮下助手の証言はなかなか興味深い。
「普通はあれだけ乗ったら疲れますよね。実際、キタサンブラックにしても追い切った後なんかは疲れているようにも見えるんですが、何日かするとさらに元気になるというか、パワーアップするんですよ。そういう馬でないとあれだけの調教はこなせませんし、やはり特別な馬なんでしょう。僕の馬も強く調教した時期があったんですが、すぐ疲れてしまって…。少し楽をさせたことで調子が上向き、ニュージーランドTを勝てたのかと思っています」
キタサンブラックの場合、ミホノブルボンのように早い時期から猛稽古をこなしてきたわけではない。清水久調教師はあくまで馬の個性と成長を見つつ、それに合わせて負荷をかけてきた。キタサンブラックは順調に負荷を上げられたのだろうし、ジョーストリクトリのような馬がいれば逆に負荷を落とし、“ギリギリ耐えられるところ”を探ってきたのだろう。こうしたことは、やはり先人の伝えた経験があってこそできたことなのだ。
現在はトレセンでのトレーニングと同じくらい「外キュウとの連携」の重要性が語られるが、それでも競馬というスポーツの基本は「人間がサラブレッドを鍛える」ことにあると思う。言葉の通じない動物同士が信頼関係を育むからこそ、様々なドラマが生まれ、脈々と受け継がれるのだ。
ということで最後に最新POG情報を。2歳女王ヤマカツスズランに端を発する池添兼キュウ舎ゆかりの血統馬ヤマカツケンザン(牡=父クロフネ、母ヤマカツオーキッド)は、実子である池添学キュウ舎に受け継がれた。
「この血統はサイズがないと走らないみたいだけど、この馬は今、530キロくらいあるからね。背中もいいし、芝も合いそう。距離も持つと思うよ」とは藤原助手。順調にいけば6月の阪神開催でデビュー予定。父から子へと受け継がれた経験がどう生かされていくのか、注目してほしい。