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【ダービー回顧】レイデオロの本当の活躍はこれからが本番だろう

  • 2017年05月29日(月) 18時00分


◆深い関係を築けたから出来た絶賛される騎乗

 1週前の21日にソウルスターリング(父フランケル)でオークス初制覇を達成した藤沢和雄調教師(65)が、今度は19頭目の挑戦となったレイデオロ(父キングカメハメハ)でとうとう「日本ダービー」の栄冠を手にすることに成功した。

「馬優先主義」で知られる藤沢和雄調教師は、「3歳のこの時期に東京2400mを激走して結果を出せる馬は少ない」とし、オークスや日本ダービーの意義や価値を認めながらも、春のクラシックで燃え尽きてしまうことをよしとしなかった。そのため1988年の開業以来、オークス挑戦は30年目にして8頭目であり、日本ダービーは19頭目の出走だった。

 通算101勝となったJRAの重賞勝ちの中で、「桜花賞」は2004年のダンスインザムード、「オークス」は今年2017年のソウルスターリング、「日本ダービー」も今年のレイデオロ。3歳クラシックの勝利はわずか3勝だけという特異な成績である。ソウルスターリングは桜花賞が3度目の関西遠征となったためか、不満足な成績に終わった。レイデオロは2歳時に3戦連続して2000mに出走し、ホープフルSを激走した結果、3歳の今年は描いた通りの体調で皐月賞に出走できず、クラシック制覇に向けた少々の方向転換はけっして順調ではなかったはずである。

 しかし、それでもオークス、日本ダービー制覇に成功したのは、長年の経験で培われた長期展望がベースの調教の積み重ねがもたらした、これまでのエースよりちょっとだけ早い時期の、やっぱり完成途上の栄冠である。ソウルスターリングは、桜花賞を目ざし、さらにオークスを勝つことがすべてではなく、レイデオロも皐月賞に挑戦し、日本ダービーを制することが究極の目標ではない。

 チャンピオン牝馬を目ざすソウルスターリングの未来はこれからであり、ビッグレースの主役となるレイデオロの本当の活躍は、藤沢和雄調教師のビジョンのなかではこれからが本番だろう。また、来年の厩舎のエース格や、スター候補生が、ソウルスターリングやレイデオロと同じような手法で同じようなステップを踏むとはかぎらない。さらに藤沢イズムの進展があるはずである。定年制があるからあと5年間。入厩馬の資質が大きいが、あと2〜3頭、オークス馬や、日本ダービー馬を育て上げるのは、けっして無理ではない。レイデオロの祖母レディブロンドも、母ラドラーダも自分が手がけた牝馬。そして母の父は、自身の手がけた最高傑作の1頭シンボリクリスエス(種牡馬として微妙な評価は代を経て再浮上中)。藤沢調教師の初の日本ダービー制覇は、きのうやきょうの喜びとは刻まれたものが異なるだろう。

 優れた資質をもつ競走馬の未来展望、その馬に対するビジョンという観点では、C.ルメール騎手(38)の存在は大きかった。ソウルスターリング【5-0-1-0】の全6戦はすべてクリストフとのコンビであり、レイデオロ【4-0-0-1】の全5戦も全部C.ルメールである。

 C.ルメールや、M.デムーロは、JRAの騎手免許を得たとき、もっとも喜んだのが「期待の馬につづけて乗れる」ことだった。それは欧州の競馬サークル育ちだからだけではなく、最初から日本風の心情があったから日本の競馬に傾斜したのかもしれない。現在の日本でも、同じ馬にずっと主戦として乗れるとは限らない。その点では、最初から生産牧場=オーナー、調教師と深い関係があったのがソウルスターリングであり、レイデオロだった。ずっとレイデオロに乗っていなければ今回のような特殊なペース「前半1分15秒7-後半1分11秒2」=2分26秒9。そんな流れの日本ダービーで、「ルメールの腕が大きかった」と絶賛される鮮やかな騎乗はできなかったかもしれない。また、1週前のオークスで、「1分14秒0-1分1分10秒1」=2分24秒1というそっくり同じような超スローペースの東京2400mに乗っていなければ、高速の芝コンディションでありながら、超スローに陥った2400mをこなせなかったかもしれない。

 ルメールは、もちろんデムーロも日本で成功した他の外国人騎手もそうだが、レースやコースによって日本のレースではさまざまなペースが入り乱れ、なおかつ、道中で緩急のペース変化が求められることを理解したとき、日本のレースが好きになった一面がある。

 今回の日本ダービーで、ルメールはレイデオロの能力が最上位に近いことを(ずっと自分で乗っていて)知っていたから、スローな序盤からさらに向こう正面で「…12秒8-13秒3-12秒5→」とラップが落ちた地点で少しのムリもなく、1週前のソウルスターリングと同じポジションに押し上げることに成功し、すぐにレイデオロが(レース前はあんなに気負ってカリカリしていたのに)納得して落ち着いたから、もう勝負ありである。

 戸崎騎手のペルシアンナイト(父ハービンジャー)は同じように動いたが、ハービンジャー産駒は総じて緩急のペース変化がもっとも不得手であり、直線、2段加速が利かなかった。

 四位騎手のスワーヴリチャード(父ハーツクライ)は、このペースならもっと早くスパートする手もあったかもしれないが、追いつきかかった坂上でレイデオロに突き放されたから、現時点では四位騎手の口惜しいコメント通り「完敗」。究極の仕上げは実を結ばなかった。

 1番人気のアドミラブル(父ディープインパクト)は、デキは前回よりずっと良かったと映ったが、多頭数のダービーでは前回のような破天荒なスパートは、M.デムーロ騎手でもちゅうちょしてしまうということか。青葉賞でスパートした残り1000m地点、青葉賞は推定1分25秒4の通過。そこから最後「58秒2-34秒6」。走破タイム2分23秒6。今回は超スローのため、自身の残り1000m通過(1400m地点)は推定1分29秒0。そのあとは「推定58秒2-33秒3」。それで2分27秒2。

 レースは数字のゲームではない。しかし、これが日本ダービーでなければ、青葉賞より3コーナー通過が推定4秒1も遅いペースで、「流れがすごく遅かった」というデムーロがスパートを待つことはなかったろう。18頭立ての外から動くというのはもともと苦しいが、日本ダービーだったからかもしれない。デムーロ騎手も、固め勝ちするルメール騎手も、好不調の波が大きいことは知られるが、ミルコは残念ながらここ1〜2週あまりさえていなかった。

 武豊騎手のダンビュライト(父ルーラーシップ)は、好枠を利して巧みに流れに乗ったが、ペースの一気に上がった最後の直線は「11秒5-10秒9-11秒4」=33秒8。こういう高速ラップだと、ダンビュライトは伸びているのにバテたように映ってしまうから苦しい。その武豊騎手が初めてダービージョッキーとなったのは、10回目の騎乗だった29歳時。

 アルアイン(父ディープインパクト)の松山弘平騎手(27)は正攻法で堂々と乗ったから立派だが、勝負どころで慎重になりすぎ、他に進路を奪われた。好漢=松山弘平は、もう4回目の騎乗なので日本ダービーの重みを十分に理解している。だから、無軌道にガサツになど乗れなかった。大丈夫、日本ダービーは昔からおじさんのレースなのだ。藤沢和雄調教師の笑顔を見なさい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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