複雑な難しさがついてまわる競馬の取材現場。どうすればよりよい環境が整うのか。現状の問題と課題、未来への提言を、現役騎手、トラックマン、評論家が一堂に会して徹底討論するこの企画。では、他の業界の取材現場はどうなのか? 「プロ野球」「サッカー」「海外競馬」の3ジャンルを比較検証します!
(文:野球雑誌『週刊ベースボール』編集部 小林光男)
365日休みなく、常に記者が球団を取材
プロ野球取材の現場には数多くの取材者が訪れる。新聞(一般紙、スポーツ新聞、夕刊紙)、テレビ、ラジオ、雑誌。そして近年ではネット系のメディアの記者もプロ野球を取材し、情報を発信している。このなかで、球団に最も密着しているのはスポーツ新聞になるだろう。12球団、NPBにも担当記者がおり、さらに遊軍と呼ばれる担当を持たない記者が担当記者の休日などをカバー。それこそ、365日、常に記者が球団を取材しているといえる。
巨人、阪神など人気球団ともなれば、スポーツ新聞の担当記者も複数いる。その数は球団系列のスポーツ新聞ともなれば、ほかのスポーツ新聞よりもさらに増える。スポーツ報知なら巨人、デイリースポーツなら阪神の担当だが、監督担当、主力担当、野手担当、投手担当、そして二軍担当……。まさに総力で取材に当たっている。
▲試合後、記者は選手と歩きながら取材することもある【写真=BBM】
新聞記者は試合後、選手を囲み取材するが、そこには複数の記者がおり、聞けなかった選手の声に関しては他社の記者に教えてもらったりする。ゆえに練習前などの取材で、いかに独自のネタを拾うかが勝負になるが、独自の、斜めからの視点を持っているのは夕刊紙か。時に辛口で、面白おかしく球団、選手を扱っていく。それも行き過ぎると球団から“指導”が入る場合もあるが、そういった意味ではさまざまな視点からの報道にプロ野球はあふれているといえる。
われわれ雑誌メディアは企画力、そしてインタビュー取材が“命”となる。当然、練習中に球場で選手をつかまえて話を聞くこともできるが、長時間拘束することはなかなか難しい。そこで、球団に取材申請をし、練習前、試合後などに時間を取ってもらうのだ(幾ばくかの謝礼も派生する)。通常30分くらいだろうか。その限られた時間の中で読者の興味を引く話を引き出そうと力を入れるのだ。
“野球賭博問題”で痛感したメディアの役目
インタビュー取材には基本的に広報が同席する。話の流れの中で、ごくたまに首脳陣や選手を批判するようなニュアンスの言葉が出てくることもある。だいたい、その瞬間に「これは使えないな」と心の中で思うものだが、取材終了後、広報も「あの部分はカットで……」と言ってくる場合が多い。
中には選手から取材中に「ここはオフレコですけど」と切り出してくることもある。そういったときの話こそ、面白い場合が往々にしてあるのだが、もちろんそれを活字にすることはできない。これはどこの世界でもそうだろうが、“オフレコ”を“オンレコ”にしてしまえば、選手との信頼関係が崩れてしまうからだ。
特に注目を浴び始めた選手をインタビューする際、いかに本音を引き出すのかが勝負になる。プロ野球の場合、脚光を浴びれば取材される量が圧倒的に増えてくる。毎日、新聞の番記者に密着され、さらにプロ野球を専門的に扱っていない媒体からのインタビュー依頼も多くなってくる。毎回、同じようなことを聞かれ、辟易して口が貝になってしまう選手は非常に多いのだ。
そこで、専門誌として、より専門的に、さらに今まで聞かれなかった質問をし、新たな魅力を引き出していくことを考えてインタビューに臨むことが多い。そこがわれわれの勝負だ。基本的にインタビュー原稿をチェックされることはない。ただ、なかには言葉に敏感な選手もおり、掲載前に原稿の提出を求められることもあるが、それもごくまれなことだ。
基本的にウソや間違ったことを書かなければ、球団からクレームを受けることはない。長い間、プロ野球とメディアは持ちつ持たれつの関係で歩んできた。ただ、球団と慣れ合って、厳しいことを書けなくなるのは問題である。
例えば2015年から16年にかけて、“野球賭博問題”が起こった。これは野球メディア以外の報道がきっかけとなった。果たして、プロ野球を取材している者は、その前兆を感じることはできなかったのか。プロ野球界が間違った方向に歩まないように、“監視”するのも当然メディアの役目である。
▲週刊ベースボール編集部 小林光男