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【座談会】第1回『取材する側・される側──それぞれの本音と建て前』――「競馬メディアのあり方」を問う

  • 2017年06月19日(月) 18時01分
おじゃ馬します!

▲左上から福永祐一(JRA)、柏木集保(日刊競馬)、左下から野元賢一(日経新聞)、赤見千尋、吉岡哲哉(競馬ブック)


関係者は必ずしも本音を語れず、取材陣は突っ込んだ質問を避ける。解説者のほとんどが元競技者ではなく、騎乗に正解はあるのか断言できない。複雑な難しさがついてまわる競馬取材の現場―― しかし、『競馬を盛り上げたい』思いは、関係者もメディアも同じ。『では、どうすればいいのか』騎手、トラックマン、評論家が一堂に会して徹底討論!

出演:福永祐一(JRA)・柏木集保(日刊競馬)・野元賢一(日経新聞)・吉岡哲哉(競馬ブック)、司会:赤見千尋

(構成:不破由妃子)



どの新聞も同じことしか書いてない、違うのは印だけ


赤見 今日はお忙しいなか、みなさんありがとうございます。それにしても、錚々たるメンバーですね! まずは、みなさんの取材に関するスタンスやポリシーを伺っていきたいと思っているのですが、このなかで福永さんは唯一、取材を受けるお立場で。

福永 はい。僕らが発信する情報をもとに、予想をして馬券を買ってくれる人がいるからこそ成り立っている競技だと考えているので、できるだけ正確な情報を伝えたいとは思っています。ただ、やはりパワーバランスがあって、僕らは一番下の立場なので…。正直に言い切れないことも多々あるというのが本当のところです。

赤見 思うことをそのまま伝えるというのは、なかなか難しいですよね。

柏木 レース前の情報に関しては、週の半ばに公式発表のような形で取材を受けることが多いですか?

福永 そうですね。各新聞社に担当の記者の方がいて、週中の囲み取材で話した内容のなかから、使える話を使ってもらうみたいな感じです。

吉岡 日刊紙の記者にバーッと囲まれたりしたとき、そのなかに知らない顔が混じっていたりすると、本音を話せなくなったりしませんか?

福永 それはありますね。囲み取材のなかには、当然雑談も入ってくるので…。実際、(話のなかの)「そこを使ったか!」というような記事もあって(笑)。やはり、ある程度の信頼関係が必要なのは間違いないです。

柏木 週中の囲み取材自体、美浦では減ったよね。

吉岡 そうですね。なぜかというと、調教師が記者を集めて、そこで一斉に発表をするというスタイルがかなり浸透してきて、情報を一元化するようになってしまったからです。もうね、人も少ないんで。みんな一緒に取材していますからね。

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▲柏木「週中の囲み取材自体、美浦では減ったよね」吉岡「調教師が記者を集めて一斉に発表をするという、情報を一元化するようになってしまったから」


赤見 ああ、なるほど。

柏木 僕は、スポーツ紙の野球の記事なんて読まないよ。なぜなら、どの新聞を見ても、内容は同じだから。でも、競馬の専門紙もその域に陥ってしまっている危険があるでしょ。たとえば、競馬ブックを買っても日刊競馬を買っても、同じことしか書いてない。

吉岡 コメントは完全にそうなってしまいましたね。

野元 違うのは印だけ(笑)。

柏木 そういうこと。複数紙存在する意味がない。

騎手にはレース後に話す義務がある、ただほんの少しでもあいだを置いてくれたら


吉岡 取材の話に戻すと、検量室前でレース後にコメントを取るじゃないですか。ジョッキーの方って、馬から下りる前に調教師と二言、三言会話をするでしょう。その際にけっこう本音が出たりするんですよ。でも、それは書いてはいけないという暗黙のルールがあると思うんですが、日刊紙のなかには書いてしまう記者がいる。そこには紳士的なルールがあって然るべきだと思うんですよ。レース直後は、ジョッキーのみなさんも興奮しているから。

福永 そうなんですよね。だから僕は、ひと呼吸置いてから記者の方々の前に出て行って、コメントするようにしています。

野元 僕は広義でいうと日刊紙側なので、コメントを日々生産する立場ではないのですが、確か2012年のダービーで岩田騎手が勝ったとき、やはり馬上での調教師との会話が印象に残ったんです。そのときの会話について、のちに行われた矢作調教師の公式会見で「さきほどこんな話をされていましたが、あれはどういう意図だったんですか?」と聞いてみたら、「調整過程でいろいろあった」と。

赤見 岩田さんとのあいだで…ということですよね。

野元 そうです。厩舎スタッフと岩田騎手のあいだで、いろんなことがあったと。割とざっくばらんにお話ししてくださったんですけど、我々はそういう取材の仕方をしなければいけないのかなという気はしています。

福永 そこが競馬の面白い部分でもありますからね。ただ、しがらみがあるので、僕らの立場ではなかなか本音を話せない部分もあって。

柏木 そうだよね(苦笑)。私は最近、インタビューをする機会はないんだけど、オブラートに包んだ公式発表だけでは、ファンが知りたいことが伝わらないという危険性はあるよね。

赤見 負けたときのコメントには、ジョッキーそれぞれに性格が出ると思うんですが、正直、GIで人気で負けたら、あまり喋りたくないですよね?

福永 そうですね(苦笑)。でも、話さなければいけないと思っています。たとえば、スプリンターズS(ビッグアーサー12着)で負けたときも、あれだけの大本命馬で負けたわけですから、僕には話す義務がある。さっきも言いましたけど、レース直後ではなく、ほんの少しでもあいだを置いてくれたら…とは思いますけどね。

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▲レース後にビッグアーサーの質問に答える福永騎手(写真はセントウルS優勝時、(C)netkeiba)


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▲福永「大本命馬で負けても僕には話す義務がある。ただ、ほんの少しでもあいだを置いてくれたら」


野元 我々としても、レース後のコメントは第一印象の裏取りのようなもので、「こうだったのではないか」という仮説をもとに聞いてみたら、思いもよらない答えが返ってきたりとか。生のレースを双眼鏡越しに一度見ただけで、全体のイメージが形成されていない状態で検量室前に下りていって、ワーッと聞くわけですからね。それで、やっぱりなと納得したり、そうだったのかと考えを改めてみたり。

吉岡 確かに、質問する側もレースを完全に把握できていない状態で聞くので、トンチンカンなことを聞いてしまうこともよくありますよ。

福永 お互いに難しいんですよね。レースが終わって本当にすぐですから。

吉岡 たまには「ノーコメント」って言いたいときもあるでしょ?

福永 いや、僕の場合、それはないです。

赤見 福永さんは、必ず冷静にコメントをしてくださいますよね。

福永 それはジョッキーの義務だと思っていますからね。

吉岡 昔は、レース後はカーッとなってしまって、なにを聞いても答えてくれないジョッキーがいっぱいいましたからね。

野元 もし、そういうことがあったら、我々としては自分が見たこと、感じたことを書くしかない。結果的に間違ったことを書くことになってしまうかもしれないけれど、話してくれないのならそうするしかないので。

吉岡 そう考えると、今のジョッキーは優しい人が多いですね。いじわるをされたり、まったく話をしてくれなかったり…、よくありました(苦笑)。

福永 昔はよく、調整ルームに記者の人が謝りにきている場面に遭遇しましたよ。

野元 週の半ばの大事な取材でも、「馬に聞いてくれ」とかいう調教師さんもけっこういたそうですからね(笑)。

(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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