7月10、11日の両日、北海道苫小牧市で行われた「セレクトセール」(日本競走馬協会主催)は今回が20回目。第1回が行われた1998年と言えば、金融危機の足音が迫り、競馬界の業績低迷が始まった時期である。日本経済の「失われた20年」という強い逆風を克服して成長を続けた市場は、今回も記録破りの活況となった。近年ではもはや、好況の原因を見つけるのが難しく思えるほど。景気動向や競馬の業績と関係なく上がり続けるからだ。
▲2017年の売却総額は史上最高記録の173億2700万円、売却率も驚異の90%に迫る水準に (C)netkeiba
1歳、当歳とも驚異の落札率
まずは今回のセレクトセール(以下SS)の成績を整理しておく。2日間の売却総額が173億2700万円(1歳86億3450万円、当歳86億9250万円=税抜き、以下同)で、史上最高記録を更新。売却総額は前年比16%増で、昨年は一歩届かなかった150億円の大台をあっさり突破した。それ以上に驚異的だったのが売却率で、1歳は89.3%と90%に迫る水準。当歳も86.4%で、両部門とも史上最高。売れなかった馬は上場462頭中わずか56頭だった。
1億円以上の高額落札馬は1歳15、当歳17の計32頭でこれも史上最高。最高価格馬は当歳部門の「イルーシヴウェーヴの2017」(父ディープインパクト、牡)の5億8000万円で、近藤利一氏が落札。5億8000万円は国内歴代2位で牡馬最高記録。1歳部門は「リッスンの2016」(同)が2億7000万円で、落札者は里見治氏だった。
新たな買い手として注目を集めたのは「DMM.com」で、当歳部門で全体2位の3億7000万円でジェンティルドンナの全妹「ドナブリーニの2017」を落札したほか、キタサンブラックの全弟「シュガーハートの2017」も、1億4500万円で落札した。
▲「DMM.com」が3億7000万円で落札したジェンティルドンナの全妹「ドナブリーニの2017」 (撮影:田中哲実)
高額馬が続出して平均価格も1歳が約3997万円、当歳が約4575万円でともに史上最高。1歳部門もあと550万円で4000万円の大台に届くところだった。全20回の通算成績を見ると、落札頭数が5905頭で、落札価格は1856億8375万円。来年の21回目には、通算6000頭、2000億円の大台に届く可能性が高い。
見る側からすると、2日間の市場はとにかく長かった。1歳も当歳も午後4時を過ぎると売買不成立馬が増え、会場の雰囲気も冷めるのが常だったが、今回は声のかからない馬はごくわずか。価格帯の高いゾーンで競り負けた買い手が、低い価格帯に“侵入”し、全体を押し上げた。圧倒的なブランド力を持つノーザンファームの生産馬は「脚が真っすぐなら買えない」と言う声が出るほど高騰が続いた。
実際、売り主別の売却高ランクでは、ノーザンレーシングが48億4800万円、ノーザンファームが43億750万円で、両者で全体の52.8%と半分を超えた。社台グループ全体では142億6550万円で全体の82.3%を。SSが「社台グループのセリ」であることを示す数字だ。
ディープインパクト産駒の高値はもはや年中行事だが、今回目立ったのは非ディープ産駒の高騰ぶり。15頭が1億円の大台に乗り、内訳はハーツクライ5頭、ロードカナロア4頭、キングカメハメハ3頭などだ。特にロードカナロアはまだ9歳。初年度産駒が新馬戦で早々に勝ち上がり、高齢化が進む国内の種牡馬地図の中で、新勢力として浮上した。
変わりそうで変わらない「青田買い」
今回、近藤利一氏が当歳の最高価格馬を落札した点は意味深長だ。実は第1回の最高価格馬も同氏が1億9000万円で落札した「ファデッタの98」(父サンデーサイレンス=競走名アドマイヤセレクト)だった。