◆あとはありのままの姿であれと徹し切るだけ
心を定め、こうと決めたことにひたすら邁進する。もちろん、時と場合に応じてどうするかは自在に変えねばならないが、ここであれこれ迷っては効果がない。当然ここまでくるには、なんとかしたいの思いが強く知恵をしぼるのだが、一度こうと決めたら全てをそこに懸け、あとはありのままの姿であれと徹し切るだけ。言うは易しいが実行するには覚悟がいる。だが、普段から人一倍知恵をしぼり、働きをつみ重ねてきたものであれば、十分に手の届くことではある。
アイビスサマーダッシュとクイーンステークスは、そのことを立証していた。
新潟の直線1000米戦は、スピードがあっても道中、もうひと伸びする脚がないと苦しい。ラップを見ると、最後のひとハロンはその前のひとハロンより1秒はかかる。どのレースでもそうであり、いかにゴールを目前にして各馬が苦しんでいるかがわかる。この最後の場面で踏ん張れないとき、少しでも切れる馬にチャンスがめぐってくるのだ。
格上挑戦をしたラインミーティアの西田雄一郎騎手は、春の1000米戦に3度騎乗してこの馬の切れ味はオープンでも通用すると確信していた。勝ち負けは考えず、胸を借りるつもりで、ひたすら末脚を発揮することだけに徹したと述べていた。持ちタイムで上をいくフィドゥーシアが飛ばしていたが、最後のひとハロンで急激にスピードを落とし、ゴール寸前でクビ差交わされてしまった。どの馬も苦しいのだが、直線競馬の達人、西田騎手に導かれて引き出された3ハロン31秒6の上りタイムに屈したのだった。
一方のクイーンステークスのアエロリットは、さらに成長した姿を見せていた。横山典弘騎手の大逃げには、久しぶりに快感を覚えたが、これは意識的にやったのではなく、あくまでもアエロリットの思いのままの走りに逆らわず、馬の意思を尊重した結果であり、馬の気に乗るという騎乗の極意を見せてくれた。この3歳牝馬の成長ぶりは、その馬体重の大幅増加にあらわれていたが、横山騎手は最初から馬には逆らわないと決めていた。
どう心を定めてレースにのぞんでくるかを予知するのはムズカシイが、最後の決め手はここにあるのだと再確認させられた。