◆逃げ馬マルターズアポジーにぴったりくる
スタートを決めて機先を制する、正にその通りの関屋記念、マルターズアポジーの逃げ切りだった。あまりにも鮮やかなスタートだったので、他の先行馬は取り合えず様子を見ることになっていた。どれだけのスピードでとばしているのかといっても、そんなに速くはない。前半の4ハロンが46秒6で後半が45秒6、途中からじわじわペースアップするという、武士沢騎手の絶妙な手綱さばきで、意のままに走らせているように見えた。
行くのがこの馬の持ち味と承知していたから、戦い方に迷いはない。これまで戦った全てのレースでハナに立っていて、少しでも競り込まれたときに苦戦していたから、とにかくどう突き放すかがポイントだった。逃げるだけでは通用しない関屋記念で、逃げて勝利する唯一のモデルともいっていいマルターズアポジーの走りだったが、全てが好スタートこそに勝因があったと言えた。
「踏み出せばその一足が道となる。迷わず行けよ、行けばわかるさ」という言葉があるが、逃げ馬マルターズアポジーにはぴったりくる。もうひとつ「才能とは、自分自身を、自分の力を信じることだ」という言葉を重ねて、これからのマイル戦線での活躍を楽しみにしていきたい。
「迷わず行く」といえば、エルムステークスを勝ったロンドンタウンの戦い方にもそれを感じた。これまで早目に行きすぎて末脚をなくしていて、持っている決め手をどう引き出すかがポイントだった。好枠を引いていたのですんなり3番手の内につけて流れに乗せ、大本命テイエムジンソクが逃げ馬をつかまえに動いたタイミングを見計らって、ためていた脚をきっちり出すことに成功していた。レコードタイムをマークできたことで、ダート界の新星誕生と言いたい。
この場合の「迷わず行く」は、どうためを利かせて戦うかの戦い方であり、「素直にスピードのある賢い馬」と言う岩田康誠騎手の言葉から、一度つかんだこの感触を自分のスタイルとして確立し、ダート界の頂点をめざす一頭になっていくだろう。「踏み出せばその一足が道となる」を、この2頭がどう見せてくれるか。これからの見どころがはっきりしている。