▲トライアル完全連対&史上最年少優勝、不思議な空気感を放つ“中野省吾騎手”に迫る (C)netkeiba
8月26、27日、JRA札幌競馬場で行われるワールドオールスタージョッキーズ(以下、WASJ)。今年初出場の地方・船橋競馬所属の中野省吾騎手(25)は、衝撃的な戦いぶりで地方競馬代表の座を勝ち取った。選考レースであるスーパージョッキーズトライアル(SJT)では騎乗馬が抽選で決まるにも関わらず全4戦で完全連対を果たし、過去最高ポイントかつ史上最年少で優勝した。一方で「休日にはラタトゥイユを作ったり、何かしていないと自分磨きができていない気がする」というちょっと不思議な空気感を放つ。騎乗論からプライベートまで、独特な「中野ワールド」に迫る。(取材・文:大恵陽子)
「勝つ算段はできています」とレース前に堂々の宣言
「僕、ずっとこれが欲しかったんです」 SJT優勝を決めると、そう語った。25歳の中野騎手はデビュー9年目、重賞1勝(2015年埼玉新聞栄冠賞カキツバタロイヤル)。さらなる重賞タイトルよりもSJT優勝、つまりWASJへの出場権が欲しかった理由とはいったい何だったのか。
「海外で騎乗したいんです。そう考えだして2年くらいですかね」 世間から見ればまだ25歳と思えるが、本人の中では「もう25歳」。どこまでも成長し続けたい思いがあるのだという。
ここで、完全連対を果たしたSJTの戦いぶりを簡単に振り返りたい。
まずは6月5日盛岡競馬場で行われた2戦。初戦はダート1600m。5番人気アクティブボスでスタートをキレイに決めると6番手からレースを進め、直線ではグングンと伸びて4馬身差の完勝だった。
「ポジションとか気にしないでおこうと思って、新聞の位置取りの欄は見ないようにしていました」▲盛岡1戦目、5番人気のアクティブボスで4馬身差の完勝 (撮影:大恵陽子)
続く盛岡2戦目は芝1700m。中野騎手にとって芝レースの経験はこれまで2回。今年3月、弥生賞で地方馬キャッスルクラウンに騎乗した時と同日3歳未勝利戦のみで、共に12着だった。ところがこのレースでは7番人気マキシマイザーで3番手から進め2着に粘った。
騎乗馬が抽選で決まるジョッキーレースにおいては1勝を挙げることができても、他のレースで掲示板を外すということはベテラン騎手でさえ多々ありうる。ところが25歳の若武者は、両レースともで連対を果たし、盛岡ラウンドをトップ通過した。
それを虎視眈々と見つめていたのは同ラウンド3位通過の永森大智騎手(高知)。昨年、SJTの後半2戦で連勝し、逆転優勝を決めている。また一昨年には藤田弘治騎手(金沢)も後半2連勝から大逆転優勝している。優勝し、JRAの舞台に行けるのはたった1人。1ポイントでも負ければ意味がない。中野騎手は園田ラウンド当日、相当緊張していたと振り返る。
「WASJに出られるかもって思うと、うわーって思って緊張感が出てきました。これ以上ない緊張でしたね。でも、それが心地よくて気持ちよかったです」 そんな緊張とは裏腹に、レース前に「勝つ算段はできています」とファンの前で宣言すると、初騎乗となる園田競馬場で2戦ともを勝利で収めた。
園田1戦目ダート1400mでは5番人気マンテンスマイルで後方2番手から4コーナーでは内の騎手と鐙がぶつかりそうなくらいギリギリの所を周り、アタマ差だけ交わしたところがゴールだった。2戦目ダート1700mは4番人気ゴッドバローズで2番手先行から直線で抜け出し完勝。
▲園田1戦目、管理調教師も驚いた5番人気のマンテンスマイルでの勝利 (撮影:大恵陽子)
▲園田2戦目、4番人気ゴッドバローズで勝利 (C)netkeiba
それぞれのレースで騎乗馬を管理していた調教師は2人ともゴール後、目を丸くさせた。そして異口同音にこう呟いた。
「うちの馬がまさか勝ってくれるとは。上手いなぁ……」
2頭とも近3走は5着が精いっぱいだった馬。それを一気に勝利に導くのだから驚いてしまう。