ワグネリアンはディープの正統後継馬/吉田竜作マル秘週報
◆評価を難しいものにする“好み”という偏り
POGには“これ”という正解がない。記者たちは主に、調教師に2歳馬(時によっては1歳馬)の話を聞く。もちろん、そのトレーナーのお薦めを教えてもらうが、そこには当然、その人の好みが入ってきてしまう。
橋口弘次郎元調教師(橋口慎介調教師の父)は、大柄で胴に伸びがあって、脚が短めというタイプの馬の名前を真っ先に挙げた(ダンスインザダーク以降は、その傾向に少々変化が見られた)。池江泰郎元調教師(池江泰寿調教師の父)もディープインパクトが出るまでは、大型馬を推す傾向があったと思う。松田博資元調教師は「いかにも」という見栄えのするタイプよりは地味で丈夫そうな馬だった。「馬代金の3倍稼げそうな馬(これだけ稼ぐとランニングコストを吸収した上で儲けが出るラインだそうだ)」との見立てだ。
馬体のサイズ=能力ではないのは当然だが、この“好み”という偏りがデビュー前の評価を難しいものにする。例えば土曜(16日)の野路菊S(2歳オープン、阪神芝外1800メートル)に出走を予定しているワグネリアン(牡=父ディープインパクト、母ミスアンコール・友道)。デビュー戦はヘンリーバローズが圧倒的な支持を集めて、ワグネリアンが2番人気。しかも、記者の記憶が確かならば、パドックに出た途端に2頭のオッズがグンと開いた。多くのファンがヘンリーの鹿毛の見栄えのする馬体(488キロ)を評価し、ワグネリアンとの差をつけたということだろう。
最終的な単オッズはヘンリー=1.7倍、ワグネリアン=4.0倍。レースはハナ差だったが、ワグネリアンがキレッキレの末脚でヘンリーに快勝した。馬場から引き揚げてきて水をかけられていた同馬を目撃したが、腹回りは折れそうなくらいで、ゼッケンが浮いて見えた。馬体重こそ450キロあるものの、陣営の誰もが「線が細い」と評する、きゃしゃな馬体。「角居キュウ舎の馬が走るんでしょ?」と友道調教師も戦前は白旗ムード?だったのも分かる。
ただ、小柄とか線が細いというのはサラブレッドの場合、利点になることもある。ざっくりと言えば、見るからにスピード感があって軽快だからだ。それはワグネリアンにも言えること。「走りなんかは、まだ危なっかしいところがあるけど、あの軽さが武器だと思う」と友道調教師もセールスポイントに“軽さ”を挙げる。
野路菊Sで2勝目を狙う同馬は今回、放牧明け。普通なら成長を期待するだろうが、この馬については“常識”を当てはめないほうが良さそう。「あまり変わっていない。相変わらず線は細いけど、それでいい。軽さがいいほうに出ているのだと思うし、脚元の不安も少なくなるから」とトレーナーは変わらぬ姿を頼もしく見つめる。今思えば、父のディープインパクトもデビュー時の体重(452キロ)を引退まで超えることはなかった。ある意味で父の正統な後継者と言っていいかもしれない。
このワグネリアンとは対照的な巨漢馬が月曜(18日)の阪神ダート1800メートルでデビュー予定のハギノグランデ(牡=父ヴィクトワールピサ、母メイルストローム・松田)。「馬体重は600キロ。父も、母の父シンボリクリスエスも、母自身も500キロを軽く超えていた」(松田調教師)という“巨漢一族”だけに、この数字もある意味、納得だ。ただ、この馬には大型馬にありがちな重さがないそうだ。
「センスが良くて、ここまで何でもこなしてきた。手脚が軽くてバランスがいいし、走りに躍動感がある。稽古でも古馬1600万下に馬なりでついて行くし、ゲートも問題ない」と同師。
この世界の常識で言えば「大型馬はひと叩きしてから」なのだろうが、この馬の持って生まれたセンスが生きるなら…。初戦からその馬体に見合った、スケールの大きな走りを見せてくれるかもしれない。