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ハルウララのいる食堂

  • 2017年10月17日(火) 18時00分


◆高知競馬の歴史が沁み込んだ、らーめんとやきめし

 地方競馬では今や馬券売上げ全体の90%以上が場外発売で、ネット(電話)投票もそのうち67%を占めるまでになった。つまり競馬場にはお客さんが来なくなったということ。それにともない競馬場もリニューアルされるところが多く、人で溢れた昭和から平成初期の面影を残す競馬場もだいぶ少なくなってきている。しかし改修が進んでいない競馬場では、かつてのにぎわいを思い起こさせる屋台街や食堂街が残っているところもあって、当然のようにそのほとんどはシャッターが下りている。

 高知競馬場は前年比130〜140%で毎年売上げを伸ばしていて、その伸び率は全国でもトップ。売上げ全体に占めるネット(電話)投票の87.72%という割合も全国でダントツだ。一方、高知競馬場の1日平均の入場人員654人というのは全国で最少となっている(いずれもデータは2017年4〜8月)。

 そんな高知競馬場のスタンド裏には、かつてはにぎわっていたであろう食堂街があり、そのほとんどはシャッターが下りているのだが、その中でひっそりと営業を続けているのが岡林食堂だ。

斉藤修

高知競馬場のスタンド裏でひっそりと営業を続けているのがこの岡林食堂


 正直、この外観からは積極的にここで何かを食べようという気にはあまりならないかもしれない。ところがしかし、知る人ぞ知る、ここ岡林食堂のメニューで1番人気と思われる、らーめん・やきめしセット(800円)がめちゃくちゃおいしいのだ。

斉藤修

知る人ぞ知るらーめん・やきめしセット(800円)がめちゃくちゃおいしいのだ


 らーめんは、今時の豚骨魚介のアミノ酸を何乗にもしたようなこってりダブルスープとは対極をなす、昔ながらのあっさり醤油ラーメン。ラーメンというより、中華そばといったほうがしっくりくるかもしれない。鶏ガラだろうか、スープはしっかりとダシがとってある。もやしの下に隠れているチャーシュー2枚も、相当に時間をかけて煮込まれ、漬け込まれているのだろう。醤油がしっかりしみ込んでいる。

 そして色鮮やかな、やきめしだ。チャーシュー、玉ねぎ、にんじん、玉子、ネギなどの基本的な具材に加え、赤と緑が色鮮やかなのは、赤ピーマンと青ピーマン。量的には、いわゆる半チャーハン。これを、注文ごとに材料を刻むところからつくっているのは、元気なおばあちゃん。

 現在の高知競馬場は1985年4月に移転してきたが、それ以前は高知港近くの桟橋通というところにあり、“桟橋競馬場”とも言われていた。その旧高知競馬場の時代から、そのおばあちゃんは岡林食堂を切り盛りしていたという。そんな高知競馬の歴史が沁み込んだ、らーめんとやきめしだ。サラダも付いて、これは日によってポテトサラダだったりマカロニサラダだったり。

 壁に貼られたメニューの下にある大きな写真パネルは、ハルウララに騎乗した武豊騎手。

斉藤修

壁に貼られたメニューの下にはハルウララと武豊騎手の写真が


 ハルウララといっても、もう10年以上も経つので、ご存知ないという方もいるかもしれない。デビュー以来一度も勝てず、負け続けることで世界的に有名になった馬だ。“世界的に”というのは誇張でもなんでもない。CNNなども取材に来て、実際にぼくはその映像をドバイで見たときには驚いた。

 100戦目には、信じられないほど多くのファンが競馬場に押しかけ、消防法で定められている定員を超えたところで入場がストップ。パブリックビューイングも用意されたほど。ハルウララ専用の単勝馬券窓口も設置された。

 ハルウララに武豊騎手が騎乗したのは、同日に交流重賞の黒船賞が行われた106戦目のこと。1998年11月のデビューから2004年8月のラストランまで113連敗で引退した。

 通年ナイターの高知競馬場だが、岡林食堂の営業は、17時ごろ、12レース施行なら第5レースのあたりまで。夜の時間帯に行っても、すでに営業していない並びの店舗と同じようにシャッターが下りている。早めの時間帯にどうぞ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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