▲哲三氏が「豊さんの語り継がれるレースの中でも上位」とまで言う天皇賞(秋)を解説!(撮影:下野雄規)
今週は武豊騎手のエスコートにファンが痺れた天皇賞(秋)をピックアップ!出遅れからの切り替え・道中での挽回・直線の進路取りなど、各ファクターで武豊騎手のファインプレーがあったこのレースの中で哲三氏が注目したのは、3コーナーにあった田辺騎手との攻防。武豊騎手の技術に裏打ちされた判断力と、絶妙なコーナーワークを解説します。(構成:赤見千尋)
「田辺君の内をすくって行くこだわり」に感服
道悪の宝塚記念で負けたキタサンブラックが、秋の天皇賞では力強い走りを見せてくれました。前回の敗因がはっきりしているわけではない中で、馬の走りというベースで考えると、立て直して来たというか、修正してきた(武)豊さんはさすがだなと感じました。
同じ負け方を2回繰り返したくないという考えがあるだろうし、もちろんキタサンブラックがそれに応えられる馬ということもあります。そして、休み明けでもしっかり仕上げた陣営の努力も重なって、ああいう馬場でもどんな馬場でも勝つというのが本当にすごいなと思いました。
■10月29日(日) 天皇賞(秋)(7番:キタサンブラック)
スタートした時、「あぁ!」と思った方はたくさんいらっしゃったと思います。豊さんもさすがにあの形の競馬になるとは思っていなかったんじゃないでしょうか。休み明けだとゲートの中でチャカつく馬がいるんです。
僕が騎乗していたタップダンスシチーもそうだったんですけど、今回キタサンブラックは中で少しチャカチャカしていつものような好スタートにはならなかった。それでも、慌てることなく勝負を決めに行くというのが豊さんらしいなと思いました。
3コーナーで田辺(裕信)君のグレーターロンドンが上がって行った時、キタサンブラックも一緒に上がって行きました。豊さんもあそこは狙っていたと思うんですけど、田辺君も勝負をかけて動いて行きましたよね。その田辺君の動きに瞬時の判断で一緒に上がって行ったのはさすがでした。
さらにすごいのは、コーナーの立ち上がりで田辺君の内をすくって行くというこだわり。外に振るのは直線を向いてからで、コーナーは絶対にロスさせたくないと考えたのではないでしょうか。
前にいるのが田辺君ならフラフラと内に切れ込むことはない、真っすぐ走るだろうという判断もあったと思います。これまでのいろいろな経験と、馬の脚色や他の騎手の騎乗ぶりなどを総合して、コーナー立ち上がりまではとにかく距離損をなくすことにこだわった。あの馬場ですし、コーナーでの距離ロスは1馬身2馬身違ったと思います。
直線を向いた時にはすでに先頭に立っていて、あの馬場でのキタサンブラックの加速力はすごいなと。そこから中途半端なところではなく外に行って、豊さんが走らせたいところまで持って行った。最後はサトノクラウンが迫っていたけれど、あのまま行っても抜かれなかったのではと思わせる手ごたえがありましたね。
今回のレースはかなりの不良馬場で、距離のロスを削るのか、馬場の悪いところを通らないのか、各ジョッキー難しい判断だったと思います。その中で、良馬場の時計勝負とはまた違った、白熱したレースを見せてくれました。豊さんは語り継がれるレースをたくさんしているけれど、その中でも上位に来るレースだったと思います。
▲「豊さんは語り継がれるレースをたくさんしているけれど、その中でも上位に来るレースだったと思います」(撮影:下野雄規)
先週に続いて馬場が悪くなったので、今回も道悪での騎乗について少し触れたいと思います。先週はムチの使い方の話題を中心に、ミルコ(・デムーロ)がいつもより若干手綱を長くして騎乗しているように見えるというお話しをしました。
それに繋がることなんですけど、結果的にリーチを長く使えるジョッキーが穴を開けていました。これは昔から思っていたことなんですけど、レース結果を見て改めて実感したんです。
もちろん一概には言えないですけど、(松田)大作、黛(弘人)君、柴田大知君など、身長が割とある方で、手綱を短く持っても自然とリーチを長く使えるジョッキーが、いつも以上に目立って穴を開けていた印象です。以前だったら(武)幸四郎もそのタイプでしたよね。道悪で穴を開けているイメージが強いです。
▲松田大作騎手は7番人気のエリモジパングで鳴滝特別を勝利 (c)netkeiba.com
ミルコは身長は高い方ではないかもしれないけれど、肩甲骨を上手く使える、上手く利用して乗れるジョッキーなんです。手綱の長さって拳からって思うじゃないですか。"手綱を持っているところが接点"だと思いがちですけど、ミルコは肩甲骨からハミに向けて手綱のように使うことが出来る。
これを詳しく話すのはなかなか難しいのでまた改めての機会にしますが、そういう風にリーチを長く使える騎手の方が、ここまでの荒れた馬場になると好結果を出しているということを再確認しました。乗る馬にもよりますが、豊さんもそうだし、田辺君もそうですよね。
もちろん、身長の低いジョッキー、手綱を短く持って乗るジョッキーの良さもありますから、あくまでもかなりの不良馬場になった時、という前提で、参考にしていただければ嬉しいです。
“エスポくん”の産駒が活躍!
▲哲三氏が現役時代に主戦を務めたエスポワールシチーの産駒がデビュー勝ち! (c)netkeiba.com
そしてもう一つ、注目していた新馬戦の話題にも触れたいと思います。エスポくん(エスポワールシチー)とヤマトマリオンの仔であるマリオが、日曜日の京都4レースでデビュー勝ちを飾りました!
エスポくんにはとても想い入れがありますし、ヤマトマリオンも重賞4勝した名牝で、さらにその2頭を手掛けた安達昭夫厩舎の管理馬ですから、勝ってくれてすごく嬉しいし、これからも頑張って欲しいです。
エスポくんの子供たちは今年デビューして、中央・地方でがんばってくれています。武器は効率のいい走りができること。それが最初からできる馬は先行するし、マリオのように外に出したところでスピードアップする形になる馬もいます。
それに、最初の頃のエスポくんより頑固そうではないところもいいですね(笑)。もちろん、一頭一頭個性が違いますから、それぞれの良さを活かして成長していって欲しいです。
今週の注目コンビ
▲オーナーの心意気で実現した中央馬×地方騎手のコンビに注目!(撮影:高橋正和)
今週金曜日はいよいよJBC開催です。中央・地方のダート猛者たちが集まりましたが、注目しているのはコパノリッキーに騎乗する森(泰斗)君。豊さんも大井に行っている中で、森君にリッキーの背中を感じて欲しいというオーナーの心意気で今回騎乗が決まったそうで、そこをどう感じて乗るのかというところに注目しています。
すでに地方のトップジョッキーですが、中央のGI馬の背中を知ることは貴重な経験になると思います。今回の騎乗ぶりはもちろん、今後の財産にもなると思うので、どんなレースを見せてくれるか楽しみです。
(文中敬称略)