その年の世相を漢字で表す「今年の漢字」は「北」と発表された。京都の清水寺で、森清範貫主が大きな和紙に「北」としたためるニュース映像を見た人は多いだろう。公益財団法人「日本漢字能力検定協会」に15万3594票の応募があり、「北」は最多の7104票だったという。同協会のプレスリリースに、選出理由がこう記されている。
「北」朝鮮ミサイルの「北」海道沖落下や九州「北」部豪雨などの災害から、平和と安全の尊さを実感した年。スポーツ界では、「北」海道日本ハムファイターズの選手に期待が集まり、「キタ」サンブラックが大活躍した。
競馬界も、というか、キタサンブラックも、「今年の漢字」決定に貢献したわけだ。ということは、競馬界の「今年の漢字」も「北」ということになるのか。
ほかで考えられるとしたら――
ミルコ・デムーロ騎手がGIを6勝、クリストフ・ルメール騎手が4勝するなど、「外」国人騎手の活躍が目立ったので、「外」。
秋華賞が重馬場、菊花賞と天皇賞・秋が不良馬場と、つづけて道「悪」でGIが行われたので、「悪」。
北島三郎氏のキタサンブラックに加え、佐々木主浩氏のヴィブロスとシュヴァルグラン、Dr.コパ氏のコパノリッキーなど、「有」名人馬主の馬が活躍したので、「有」。
モズカッチャンがエリザベス女王杯、ペルシアンナイトがマイルチャンピオンシップを勝つなど、「三」歳馬が強かったので、「三」。
阪神ジュベナイルフィリーズを「新」種牡馬オルフェーヴル産駒のラッキーライラックが勝った。今週の朝日杯フューチュリティステークスでの「新」種牡馬ロードカナロア産駒の走り次第では、「新」も候補か。
と、あれこれ挙げてはみたが、やはり「北」で決まり、という感じがする。
さて、武豊騎手が「2017年度ロンジンIFHA国際功労賞」を受賞したというニュースも舞い込んできた。国内外において、長年にわたり競馬の発展に多大な貢献を果たした競馬関係者に贈られる賞で、2013年に創設されて以来、騎手が受賞するのも、日本人が受賞するのも初めてになる。
武騎手は、英米仏など世界8カ国で通算100勝を超える勝利を挙げており、1994年にスキーパラダイスで勝った仏ムーランドロンシャン賞から、2016年にエイシンヒカリで制したイスパーン賞まで、海外GIを9勝している。
また、彼は、仏レトロワゼトワル協会の国際優秀騎手賞で1998年度の世界一に認定されたこともある。これは、先日ジャパンカップを勝ったヒュー・ボウマン騎手が獲得したロンジンワールドベストジョッキーと同じように、認定されたレースのポイントによって決定されるものだった。1998年というと、春にはスペシャルウィークでダービー初制覇を遂げ、夏にはシーキングザパールで仏モーリスドゲスト賞を制し、日本調教馬初の海外GI制覇を達成した年だ。
あれから20年近く経った今も、内外の第一線で存在感を示しているのだから、すごいとしか言いようがない。
札幌から都内の仕事場に戻ると、小桧山悟調教師から新著が届いていた。12月1日発行の『馬を巡る旅〜遙かなる旅路〜』(三才ブックス)で、「週刊競馬ブック」の連載をまとめた、シリーズ2冊目だ。
せっかく献本していただいたのに、時間がなくて積読状態になっている作品がほかにもある。『女騎手』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した蓮見恭子さんの駅伝小説『襷を我が手に』(光文社)と、女性騎手を主人公とした、古内一絵さんの『風の向こうへ駆け抜けろ』(小学館文庫)と、続編の『蒼のファンファーレ』(小学館)である。『蒼の〜』は、キャスターの瞳ゆゆさんも「面白いです」と言い、持ち歩いていた。なんと、コビさんの本と、古内さんの2冊の帯の推薦文はすべて藤田菜七子騎手だ。
時代は昭和の初めまでさかのぼるのだが、『宮本武蔵』『三国志』などで国民的作家となった吉川英治の『かんかん虫は唄う』(吉川英治歴史時代文庫)も面白かった。吉川作品には珍しい現代物で、根岸競馬場のシーンも描かれている。そこに、人気とカリスマ性では「明治時代の武豊」とも言える神崎利木蔵をモデルにした「島崎」という騎手が登場する。それに関して、吉川は自叙伝『忘れ残りの記』(吉川英治歴史時代文庫)にこう書いている。
<その神崎騎手の名を、もう遠い過去だからと思って、実名のままぼくの“かんかん虫は唄う”の中に登場人物としてつい書いた。ところがその後、神戸市在住の神崎氏の系縁の人から、「神崎は決して貴著のなかにあるような女たらしの道楽者ではなかった。家庭人としても厳正だったし、ジョッキーとしては、内外人の称讃をうけて、裏切ったことはない」と、たいへん恨みがましく抗議されて来た>
その後、吉川は、丁寧な詫び状を出し、自身の誤りであったと認めている。「神崎」を修正して「島崎」にしたようだ。
私も、言わなくても誰がモデルかわかるように、『絆〜走れ奇跡の仔馬〜』に「武原豊和」を登場させた。武騎手には、ほかの作品で「武田豊吉」になってもらったこともある。「武」と「豊」が名前に入っていると、クールでクレバーな天才騎手を読者に想起させることができる。これからは、例えば「藤村菜津美」とすれば、美形の女性騎手をイメージさせることができるのかもしれない。
いつもながら、とりとめのない話になってしまった。