▲1週前追い切り直前のキタサンブラックと辻田義幸厩務員
現役最強馬がラストランを迎える。決して良血とはいえず、セリで億超えの期待馬でもなかった。しかし健康で丈夫なキタサンブラックは、鍛えられることで元々持っていた能力をさらに高め、自ら王者に登り詰めた。強い心肺機能も持ち合わせていた。デビュー前からかかりつけ医として診てきた清水靖之獣医師は「安静時の心拍数が1分間に30回以下になるとすごくいい心臓と言われますが、キタサンブラックは28〜30回でした」と話す。獣医師の目にキタサンブラックの強さはどのように映るのか、改めて強さの秘密に迫る。(取材・文・写真:大恵陽子)
キタサンブラックは3回、体を大きく変化させた
3歳の頃は、母の父サクラバクシンオーという血統から「日本ダービーや菊花賞は長いのではないか?」という意見があった。ところが3000mの菊花賞を制覇。この直前、獣医師の立場から清水靖之獣医師は状態に自信を持っていた。
「最終追い切りが終わった後、最後のチェックの時に『勝てるで、たぶん』って答えました。相手関係とかは分からなかったけど、キタサンブラックの変わり身と筋肉のパンプアップがすごくて、思わず言ってしまったんです」 言った相手は実兄の清水久詞調教師。率直な意見を言える間柄にして、強い自信を持って発した言葉だった。
▲清水久詞調教師の実弟、清水靖之獣医師
「前走のセントライト記念から馬体重は減っていましたが、すごく良くなっていて、研ぎ澄まされた体になっていました。コップ一杯の量で比べた時、筋肉の方が脂肪より約3倍重いと言われています。キタサンブラックも脂肪だけが落ちていたらもっとマイナス体重だったでしょうが、実際は-2kg。トレーニングで鍛えられて筋肉がついたんでしょうね。
キタサンブラックが大きくなって変わったな、と感じたのは3回。その菊花賞前と、昨年と今年の天皇賞・春の前でした。昨年の天皇賞・春の前に見た時も『すごい!』って思わず言ったのを覚えています」 清水靖之獣医師はトレセン内の開業医として兄・清水久詞厩舎の他にも多くの厩舎の馬を診ている。擦り傷や風邪を引いた時の治療だけでなく、追い切り後などには馬体を触って筋肉や脚元に異常がないかもチェックする。そうしてデビュー前からずっとキタサンブラックの馬体を触り続ける中で、感じることがあった。