今後はサラブレッドの生産に力を注ぐ
まずは、1月10日付けのこのコラム
【凱旋門賞の前哨戦が日程変更 2018年各国の主要レース】でお伝えした、仏国における凱旋門賞前哨戦の日程について、更なる動きがあったのでお伝えしたい。
仏国における競馬主催団体フランスギャロは、従来は本番の3週間前に行われていた凱旋門賞へ向けた3つの前哨戦(ヴェルメイユ賞、ニエル賞、フォワ賞)を、今年は本番の4週間前に移設することを決め、ウェブ上でもそのように発表を行っていた。筆者はフランスギャロに連絡をとり、直接確認をとった上で、これを10日付けのこのコラムでお伝えした。
ところが、重賞競走の日程変更は、欧州パターン委員会による承認が必要で、フランスギャロは17日に開催された欧州パターン委員会に、凱旋門賞前哨戦の「9月9日開催」を提案したのだが、委員会はこれを承認しなかったのである。
フランスギャロのオリヴィエ・デロワ事務総長によると、凱旋門賞前哨戦を1週間早めると、英国のヨーク競馬場を舞台とした、インターナショナルSやヨークシャーオークスが施行されるイボア開催(今年は8月22日〜24日)と日程が近づきすぎるというのが、非承認の理由とのことだ。これを受けてフランスギャロは、凱旋門賞前哨戦を従来の「本番3週間前(9月16日開催)」に戻すことを基本線に、関係各社の調整に入っている。
一方、ここ数年、凱旋門賞前哨戦と同日に開催されている、距離1600mのG1ムーランドロンシャン賞に関しては、今後改めて、今年の開催日を協議することになる模様だ。この件については、正式な決定がなされた後、このコラムで改めてお伝えさせていただきたい。
そのフランスから、今週はじめに飛び込んできたのが、「クリケット・ヘッド・マーレク調教師(69歳)引退」のニュースだった。21日に本人自ら発表したもので、2月1日に何頭かの管理馬を出走させるのが、調教師として最後の仕事になるとのことだ。
クリケット・ヘッドと言えば、2013年・2014年と凱旋門賞を連覇した名牝トレヴを手掛けたことで、日本の競馬ファンにもよく知られている。1948年11月6日に、元調教師で、現在はケネイ牧場の所有者としてサラブレッドの生産と所有に携わる、仏国競馬界の重鎮アレック・ヘッドの長女として生まれたクリケット。元名ジョッキーで、現在はトップトレーナーとして活躍するフレディー・ヘッドは、彼女の1歳年上の兄である。
アマチュア騎手として活躍した後、父の厩舎でアシスタントを務めた期間を経て、自ら開業したのが1977年だったから、調教師生活は足かけ42年にわたったことになる。この間に制したG1競走の数は60を超え、ベーリングで仏ダービーを制した1986年にはフランスのチャンピオントレーナーになるなど、華々しい活躍を見せた彼女は、欧州競馬史における歴代最高の女性調教師と讃えられている。
ことに、牝馬を育てることにかけては、無類の手腕を発揮したことで知られているのが、クリケット・ヘッドである。そもそも、初めて手掛けたG1勝ち馬が、牡馬を蹴散らし1978年のアベイユドロンシャン賞を制した牝馬シジーであった。翌1979年には、彼女の母親ギズレイン・ヘッドが所有する牝馬スリートロイカスで、凱旋門賞を制覇。ちなみにこの時、手綱をとっていたのは兄のフレディー・ヘッドであった。仏ダービー制覇は、前述したベーリングによる1度だけだったが、仏オークス制覇は、1982年のハーバー、2000年のエジプトバンド、2013年のトレヴと、3度に及んでいる。
もっと極端な差があるのがギニーズで、2000ギニーに相当する牡馬のプールデッセデプーラン制覇は、1994年のグリーンチューン、2004年のアメリカンポストの2度に留まっているのに対し、1000ギニーに相当する牝馬のプールデッセデプーリッシュは、1979年のスリートロイカス、1985年のシルヴァーマイン、1986年のベイゼルヴォーレ、1988年のラヴィネラ、1995年のマティアラ、1997年のオールウェイズロイヤル、2010年のスペシャルデューティと、実に7度にわたって制覇しているのである。
なおかつ、お隣り英国の1000ギニーも、1983年のマビッシュ、1988年のラヴィネラ、1992年のハトゥーフ、2010年のスペシャルデューティと4度も優勝しているから、クリケット・ヘッドが牝馬に関して、何か特別な感覚を有していたことは、間違いのないところだ。
今後は、ファミリーが営むケネイ牧場が彼女の活動拠点となり、サラブレッドの生産に力を注ぐことになる。彼女のマジックタッチが、繁殖牝馬に対しても発揮されるかどうか、クリケット・ヘッドとケネイ牧場の今後に、大きな注目が集まりそうである。