▲レース後の大柿一真騎手(兵庫所属、写真左)と川原正一騎手(同所属、写真右、ダート板を角度をつけて使用)
時代で変化したダート板の使用目的
netkeiba.comをご覧の皆さん、こんにちは。競馬リポーターの大恵陽子(おおえ ようこ)です。関西を拠点に取材、執筆、競馬番組やイベントに出演しています。
これまでnetkeiba.comではGI有力馬コラムや地方競馬関連の特別コラムを書かせていただいていましたが、今回からはコラムを連載させていただくことになりました。トレセンやJRA・地方競馬場で見つけたちょっとだけ「馬ニア」な話題をお届けしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、このあいだ園田競馬場の検量室に足を運ぶと、騎手がメンソレー○ムを手にしていました。あぁ、やっぱり騎手も手肌の乾燥が気になるのか〜と思っていたら、塗ったのは手ではなくてダート板。
「油だから、これを塗っておくと砂をはじいてくれるんですよ」とニッコリ。
なるほど! 水分を含んだ砂がベタッと貼りつかないように工夫しているんですね。なんだかおばあちゃんの知恵袋みたいですね。
ちなみにある元騎手は、間違えてゴーグルの内側に塗ってしまい、レース中、目がスース―して仕方なかったそうな(笑)。
ところでこのダート板。ゴーグルの上から着ける透明な長方形の板で、近年はJRAのダートレースでも当たり前のように見かけるようになりました。前の馬が蹴り上げた砂が顔に当たるのを防いでくれますが、その昔、地方競馬ではちょっと事情が違ったようです。
1973年にデビューし、「園田の帝王」と呼ばれた田中道夫元騎手(現調教師)は
「私がデビューした頃はゴーグルが高かったからね〜。砂でゴーグルが傷まんように、ダート板をつけてたんよ」という理由。
時代が変われば、使用目的も変わるんですね。
地方競馬の騎手たちはダート板の硬さや大きさを自分好みに合わせて手作りしています。
硬さは主に2種類。
硬めに分類されるのは、下敷きやクリアファイルを切り取って作られたもの。居酒屋とかでメニューが1枚挟み込まれているような、3辺が閉じられたクリアファイルの硬さのイメージです。
柔らかい方は、テーブルクロス。手持ちのダート板で型をとって、ひたすらチョキチョキ切っていきます。
そしてパンチで穴を空けて、ヘアゴムを括りつけたり、不要になったゴーグルのゴムを付けたら出来上がり。
勝負服に合わせたおしゃれも
ダート板の硬さは騎手個人の好みだけでなく、競馬場の特徴が関わっていることもあります。
金沢競馬所属の青柳正義騎手は
「金沢の騎手はほとんどが柔らかいダート板を使っていますね。落馬した時に割れて危ないから、という騎手もいますし、冬は寒いので硬いダート板だとすぐに割れてしまうんですよ。それに金沢は砂自体も粗いですし、みぞれと混じると粒になって飛んでくるんです」 と、気候と砂質を理由に挙げました。
▲金沢所属の青柳正義騎手
韓国で騎乗経験のある倉兼育康騎手(高知)も同様の理由。
「韓国は寒すぎて、ダート板がカチコチになるんよ。僕は高知に帰ってきてからも柔らかいのを使っています」▲韓国で騎乗経験もある高知所属の倉兼育康騎手
同じ高知所属の赤岡修次騎手は騎乗する競馬場によって枚数を変えているとか。
「南関東ではいつもより1〜2枚多くつけますね。特に雨で水分を含んだ砂になると、ベッタリつくんですよ。大きいダート板と小さいダート板を重ねづけして、道中でちょっとずつズラして使います」▲同じ高知所属の赤岡修次騎手
また、理由は不明ながらも
「今の佐賀はほとんどの騎手が柔らかいダート板を使っていると思いますよ」と教えてくれたのは山口以和騎手(佐賀)。
▲佐賀所属の山口以和騎手
ちなみに、兵庫(園田・姫路)は比較的自由というか、騎手それぞれの好みの硬さです。
中田貴士騎手は
「硬い方が砂をはじいてくれる気がして使っています。でも、初めて硬いダート板をつけた時は砂が当たる音がすごくてビビリました」 と、思わぬ落とし穴があったようです。
何気なく目にしていたダート板にもそれぞれの好みやこだわりがあるんですね。
騎手によってはダート板の上辺を勝負服に合わせたカラーにしている人もいるので、チャンスがあれば見てみてください。
▲大柿一真騎手、上辺が勝負服と同じオレンジで下辺にはマジックで型をとった形跡が
JRAでも和田竜二騎手や三浦皇成騎手などバレットさんが1枚1枚手作りしている騎手が多いと聞きます。
馬具屋さんでも買える物ですが、硬さや大きさなどのちょっとしたこだわりがレースでの騎乗につながるのかもしれませんね。