netkeiba Books+ から「思わず応援したくなる!マイナー血統の魅力と“今”」の1章、2章をお届けいたします(写真:2017年共同通信杯、撮影:下野雄規)
2018年、ここまで行われたすべてのGI優勝馬の血統表には偉大な種牡馬・サンデーサイレンスの名前がある。2011年の日本ダービーは出走馬全頭がそのサンデーサイレンスの孫だった。近年ではそう珍しい光景ではなくなっているが、時には「こんな血統の馬がGIを勝つとは」というシーンを見てみたいファンも多いだろう。
そういった「マイナー血統」の馬の魅力や、応援する喜びというものは、何物にも代えがたいもの。折しも昨年、今年にかけて、マイナー血統を応援するファンにとって嬉しい出来事も多く、今後さらに大きな喜びが待っているような予感すら感じる。昨今のマイナー血統・種牡馬事情や、その魅力を探っていく。(文:『netkeiba Books+ 編集部』)
第1章 出走全馬が“サンデーサイレンス持ち”だった2011年のダービー
2011年の日本ダービーが象徴的だった。のちの三冠馬・オルフェーヴルが制したこの一戦、出走全頭が“サンデーサイレンスの孫”。名種牡馬・サンデーサイレンスの存在感を改めて印象づける一戦だった。ここまで極端になることは稀とはいえ、近年の大レースではしばしばこれに近いことが起きている。
だからこそ、主流ではない血統の種牡馬や、サンデーサイレンスの仔の中でも、種付け頭数も多くなくランキングでも上位ではない種牡馬から大物が出現したりすると、人目を引き、応援の声も高まる。そして実際にそういった馬が実際に現れてくれるのが、競馬の魅力の一つだろう。
もちろん、血統がマイナーであれば無条件に人気馬になるという訳でもなく、その馬が強さと魅力を兼ね備えているからこそではあるが、血統背景というものは、競走馬の人気を後押しする大きな要因ではある。
ここでは、そういった血統背景を持つ馬たちの活躍にスポットライトを当てていく。
明確に定義づけることが難しい「マイナー血統」という言葉については、ニュアンスを比較的自由に取らせてもらった。「実は母系が良血」「海外ではこの馬の産駒は走っている」「父(もしくは母)の競走成績自体は優れている」など、「これはマイナー血統ではない」という理由は往々にしてどの馬にもあるのと同時に、「これはマイナー血統と言っていいのではないか」という感覚も、競馬ファンの中である程度共通しているものがあると信じている。それによって大きな違和感は生まれないだろう。また「マイナー血統」と「マイナー種牡馬」もそれぞれ微妙にその意味するところが違う言葉だが、両者ひっくるめて書かせていただこうと思う。それ故、時折「マイナー判定」に異議があることも出てくるかもしれないが、そこはお許し願いたい。
2011年の日本ダービー馬はオルフェーヴル。父はステイゴールドで、その父はサンデーサイレンス(撮影:下野雄規)
2011年の日本ダービーの出走全頭が“サンデーサイレンスの孫”だったことは既に書いた。もう少し詳細に見ていくと、父の父がサンデーサイレンスである馬、つまりサンデーサイレンス直系の孫が16頭と、そのほとんどを占めていた。一方、母の父にサンデーサイレンスを持つ馬はわずか2頭だった。
それから6年、昨2017年を振り返ってみる。ダート・障害を含む全GI・26競走の優勝馬にサンデーサイレンスがどのように関わっているか調べてみると、まずサンデーサイレンスを父に持つ種牡馬の仔だけで、
・ブラックタイド=4勝
・ディープインパクト=3勝
・ステイゴールド=3勝
・ハーツクライ=2勝
・ゴールドアリュール=2勝
・ダイワメジャー=1勝
と、直系の孫が全GIの半数を超える15勝を叩き出している。どの種牡馬もサンデーサイレンス産駒の中でもランク上位に位置する馬だ。ブラックタイドも、GI・4勝すべてをキタサンブラック1頭が叩き出したことを加味しても充分上位と言える。
2017年年度代表馬のキタサンブラック。父はあのディープインパクトの兄・ブラックタイドで、その父はやはりサンデーサイレンス(撮影:下野雄規)
そして「母父」がサンデーサイレンスという2頭を加えると、65%超が“サンデーサイレンスの孫”。さらにキセキ、ディアドラ、アエロリットの3頭は「母父父」がサンデーサイレンス、高松宮記念を勝利したセイウンコウセイは「父母父」がサンデーサイレンスなので、全GIホースの実に73%がサンデーサイレンスの血を持っていたのが2017年だった。ちなみに、本稿が公開された時点で終了している2018年のGIの勝ち馬4頭も“サンデーサイレンス持ち”だ。2011年からさらにサンデーサイレンスの存在感が増しているとすら言える。
一方、サンデーサイレンスの血を持っていないのはわずか“4頭”。
エリザベス女王杯:モズカッチャン
宝塚記念:サトノクラウン
日本ダービー:レイデオロ
オークス:ソウルスターリング
この4頭はサンデーサイレンスの血を持たない、昨今の大レースの勝ち馬では珍しくなった血統。
とは言えこの4頭にマイナー血統と呼べるような馬がいたかと言えば、そうではない。レイデオロの父は日本を代表する種牡馬であるキングカメハメハ。ソウルスターリングにいたっては父が英国の怪物フランケル、かつ母は仏オークス馬スタセリタと、むしろ“世界的良血”だ。
モズカッチャンの父ハービンジャーは競走生活においては歴史的名馬の一頭だが、産駒のデビューから数年間はGI馬を出せておらず、その父のDansiliも日本で目立った産駒成績を残せていなかった。そのため、こと日本においては少なくとも主流とは言えない1頭だったが、2017年秋、このモズカッチャンを含めて一気にGI・3勝を挙げて名実ともにトップ種牡馬となった。
サトノクラウンだけは微妙なところがある。父のMarjuは英GI馬だが、サトノクラウン以前にほとんど産駒が日本で走っておらず、一番目立つところで香港馬・インディジェナスが1999年のジャパンCに参戦し2着になったことくらい。日本国内ではほとんど見ることのない、確実に珍しい血統だが、残念なことに(?)サトノクラウンは英GI馬のライトニングパールを全姉に持っており、こちらも良血と言わざるを得ない血統背景となっている。この馬のファンも「マイナー血統だから」という理由でファンになった人は少数派だろう。
マイナー血統を応援してしまう判官贔屓なファンにとって、2017年はGIという最高峰の舞台では喜びを味わうことのできなかった1年となった。しかし、もう少し視野を広げてみると「思わず応援」してしまうような馬たちが印象的な活躍をしていたことが思い出される。
キーワードは「夏」。
第2章 思わず応援したくなった2017年、夏 Part.1
第1章で昨2017年のGI優勝馬とその血統を振り返ってみたが、昨年はマイナー血統ファンにとってなかなかに厳しい結果だった。ただ、GIレースにこだわらなければ嬉しい出来事も少なくはなかった。特にメジャーなサンデーサイレンス種牡馬の産駒など、主流血統の有力馬が休養に入っていた夏場のレースを振り返ってみると、「思わず応援したくなる」ような馬たちの活躍があったことが思い出される。 昨夏、重賞を2勝して一躍知名度を上げたタツゴウゲキの父はマーベラスサンデー。確かにサンデーサイレンスの直系種牡馬ではあるのだが、2001年の産駒デビューから平地のGI勝利はなく、2013年からは産駒の重賞勝利も遠ざかっていた。現役時代は全レースで武豊騎手が騎乗し、全15戦中12戦で1番人気となった一流馬だが、しのぎを削ったサクラローレル、マヤノトップガンらと同じく、産駒から平地のGI勝利馬はまだ出ていない。
タツゴウゲキと同世代となる5歳(昨年時)のマーベラスサンデー産駒の中で、中央競馬で走った頭数はわずか17頭で、勝利を挙げたのはさらに少数となる5頭。そんなマーベラスサンデーの産駒タツゴウゲキは8月の小倉記念、9月の新潟記念を連勝し、「サマー2000シリーズ」のチャンピオンにまで出世した。小倉記念では3着を3馬身離すサンマルティンとのマッチレースをハナ差で制し、新潟記念はハンデ戦らしい大接戦をクビ差でものにするという渋い勝ちっぷりもまた魅力的だった。
タツゴウゲキが活躍したことで、久々にマーベラスサンデーの名前がクローズアップされた(撮影:下野雄規)
この2戦での鞍上はともに秋山真一郎騎手。小倉記念ではリーディングジョッキー争いをするM.デムーロ騎手の落馬負傷で急遽秋山騎手の出番となり、タツゴウゲキを勝利に導いた。新潟記念が行われた9月3日は、このレースのみの騎乗という“一球入魂”。そんな仕事人らしい、いぶし銀コンビも相まって、この夏のタツゴウゲキの飛躍には温かい声援が送られた。
その後同馬は休養に入り、復帰戦となる舞台は2018年4月現在まだ訪れていない。しかし、このサマー2000王者があの夏よりもさらに大きな舞台で、良血馬たちを相手に勝利し、「マーベラスサンデー産駒は初の平地GI勝利」とメディアに書かれるその日を、ファンは期待している。父は2016年6月に死没している。産駒の平地GI勝利に残されたチャンスは、ほぼゼロと言って過言ではない状況だが、心のどこかでそれが実現する期待を持っていたい。そんな1頭がマーベラスサンデー産駒のタツゴウゲキだ。
現役時代のマーベラスサンデー。産駒から平地GI勝利馬はまだ出ていないが…
思えばマーベラスサンデーの現役時代のライバル、マヤノトップガンもGI馬の父とはなれず今ではマイナー血統と扱われがちな種牡馬ではあるが、その産駒であるホッコーパドゥシャも同じように大激戦の新潟記念を制し、2009年にサマー2000チャンピオンに輝いた。その時の鞍上は江田照男騎手、やはりいぶし銀コンビだった。夏はそんな人馬が輝く季節なのかもしれない。
(続きは
『netkeiba Books+』 で)
- 思わず応援したくなる!マイナー血統の魅力と“今”
- 第1章 出走全馬が“サンデーサイレンス持ち”だった2011年のダービー
- 第2章 思わず応援したくなった2017年、夏 Part.1
- 第3章 思わず応援したくなった2017年、夏 Part.2
- 第4章 良血のハイセイコー、マイナー血統のオグリキャップ Part.1
- 第5章 良血のハイセイコー、マイナー血統のオグリキャップ Part.2
- 第6章 地方競馬の“ダービー”を勝つ種牡馬たち
- 第7章 2018年に抱く期待