スマートフォン版へ

18頭立ての接戦、思い切りのいい判断が大正解/NHKマイルC

  • 2018年05月07日(月) 18時00分


◆ほぼ一直線に伸びたこの馬だけが上がり33秒台

 直線、密集した馬群をさばけない馬が続出する大混戦となったが、ダッシュつかず後方2番手追走から、直線は大外に回ったケイアイノーテック(父ディープインパクト)の思い切りのいい判断が大正解だった。

「勝つときはなにもかもうまく展開する」といわれるが、ほぼ一直線に伸びたこの馬だけが上がり33秒台(No.1の33秒7)を記録し、抜け出したギベオン(父ディープインパクト)を首だけ捕らえて1分32秒8。15年目になる藤岡佑介騎手(32)の喜び爆発、嬉しくて仕方がないGI初勝利となった。

 予兆はあった。藤岡佑介騎手は惜しいところでどうもあと一歩GIに手の届かないジョッキー【0-7-1-77】として知られていたが、前日の土曜日には負傷休養中の中谷騎手のピンチヒッターとしてテン乗りで「京都新聞杯」に騎乗し、7番人気の1勝馬ステイフーリッシュ(父ステイゴールド)で快勝していた。

 きつい流れを2番手からの追走になり、出走馬がいたため東京にいた矢作調教師は「なにをやっているんだ」と思って見ていたら、実はそれが高速の芝を読んだ絶妙の騎乗となり、ステイフーリッシュは2分11秒0の快時計で、日本ダービー出走可能となる重賞勝ちを達成している。驚いた矢作調教師は、いたく感心していたという。

 今回のケイアイノーテックも最初の登録段階では武豊騎手騎乗の予定であり、彼が騎乗停止となったため、代わってのテン乗りだった。今年の藤岡佑介騎手は前週までにすでに2重賞を含む27勝を挙げ、ベスト10入り目前。人はいいが、ビッグレースではちょっと弱気な藤岡兄弟の兄貴ではなかった。皐月賞を9番人気のサンリヴァル(父ルーラーシップ)で2着しているので、状況によっては、ここまで【0-0-0-5】の日本ダービーに騎乗可能な馬が2頭も存在する急上昇ジョッキーである。今年、もう重賞4勝となった。

 落ち着いて静かに後検量を終えると、突然、飛びついて喜びを爆発させたシーンが印象的だった。いきなりの抱擁シーンが許せる男と、目を伏せたくなる男がいるが、彼はおそらく前者だろう。

重賞レース回顧

15年目になる藤岡佑介騎手(32)の喜び爆発、嬉しくて仕方がないGI初勝利となった(撮影:下野雄規)


 ケイアイノーテックの母ケイアイガーベラ(その父スマーティジョーンズ)は、レコード勝ちしたプロキオンSなどダート1400m以下で全9勝のパワフルなスピード型。スマーティジョーンズ(その父イルーシヴクオリティの産駒には、タワーオブロンドンの父レイヴンズパスもいる)は、2004年の米3冠1、1、2着馬。

 ディープインパクトは、母方の血を問わないからこれだけ活躍馬を量産するが、2014年の阪神JF1600mを勝ったショウナンアデラの母の父が、イルーシヴクオリティだった。また、ヴィクトリアマイルを連覇したヴィルシーナの母の父がなんとなくイメージが似ているミスタープロスペクター系のマキャベリアンなので、ビッグレース向きのディープインパクトのマイラーは、こういうパワー兼備型が多いのだろう。

 人気の、そのタワーオブロンドン(父レイヴンズパス)は、スタートでつまずき内の馬とぶつかったように見えた。予想された通り途中から牝馬テトラドラクマ(父ルーラーシップ)が先手を主張したレース全体の流れは、「34秒4-46秒3-(1000m通過58秒0)-46秒5-34秒8」=1分32秒8。

 全体に緩みのない速めの平均ペースなので、あわてることなく中間地点ではちょうど10番手前後のイン追走。ロスを最小限にとどめると、4コーナーを回るとインを狙った。ルメール騎手の馬群を前にしたイン狙い策は、スキあらばこじ開けて入ろうとする姿勢ではなく、静かに待つ流儀なので、だいたいハラハラさせ、弱気なように映る。坂で内から3頭目くらいのスペースに入ろうとした瞬間、両脇から来られ、そのあとさらに挟み撃ちになるように前が詰まった。

 ほかにも他馬と接触し、交錯するように立ち上がりかけた馬が何頭も出現し、レース後の制裁は、抜け出したギベオン(M.デムーロ騎手)の内斜行と、レッドヴェイロン(岩田騎手)の内斜行にペナルティーが科されたが、ともにそんなにアンフェアーな騎乗というほどの斜行とはいえないように思えた。みんながヨレている。

 タワーオブロンドンは少なくも2度狭くなり、2度目はもうあきらめざるを得ない位置なので敗戦を受け入れたが、18頭立ての接戦(混戦)のイン狙いがうまくいく可能性は乏しかった。他馬の進路の取り方ではなく、幸運が巡ってこなかっただけである。ちょっと弱気に、イン狙いが頭をかすめたとき、このレースの勝機は逃げたのだろう。3コーナー手前でインに入ったとき、巧みなコース取りと映ったが、それは、その3〜4馬身ほど後方にいたケイアイノーテックが逆に進路を外に決めた瞬間だった。

 2着ギベオンはずっと先行馬の直後にいて、自身は「58秒3-34秒5」=1分32秒8。もっとも厳しい形をしのぎきる寸前までいって惜敗したのが、この馬。陣営はレース直後に「日本ダービー」挑戦もほのめかしたという。母方はスピード色の濃いファミリーであり、だからここに出走したが、まだ若さが前面に出てしまうので…という理由もあった。母の父ゴーストザッパー(祖父デピュティミニスター)は、米年度代表馬でありBCクラシックの勝ち馬。2400mはこなせるように思える。混戦の今年は侮れない。

 3番人気のテトラドラクマは、1分33秒7で押し切った2月のクイーンC「34秒6-46秒0-57秒8→」より数字上のペースはきつくないが、メンバー全体のレベルが異なるから、息を入れる地点がなかった。近年はマイペースの逃げ切りもある東京のマイル戦だが、早めに並ばれては苦しい。どこかでマークが緩む形にならないと…。

 4番人気のパクスアメリカーナ(父クロフネ)の全姉ホエールキャプチャは、桜花賞2着など春のオークス終了時点まで【3-3-2-0】だった。秘める素質は互角と思えるが、弟はまだ姉ほど(見た目ではなくその内面が)たくましくなかったかもしれない。直線、狭くなる不利も痛かった。2走前に負けたケイアイノーテックに再び遅れたのだから、秋に向け、姉に追いつきやがて追い越せの成長に期待したい。

 3着レッドヴェイロン(父キングカメハメハ)は、一瞬、勝ったかというシーンもある善戦だった。さすが、エリモピクシー【7-4-9-23】産駒。「リディル5勝、クラレント7勝、レッドアリオン7勝、サトノルパン5勝、レッドアヴァンセ4勝…など」の下らしい3着であり、みんな、だいたい10回くらいは馬券に絡んでいる。これからもマイル路線を中心にずっと長く付き合いたい、そういうレッドヴェイロンのアピールだったろう。

 ミスターメロディ(父スキャットダディ)は、16番枠が嫌われて7番人気だったが、外からかかり気味に「58秒1-34秒9」=1分33秒0。残った記録の中身は、2着ギベオンとほとんど互角だった。東京のマイルをこなしたのは素晴らしい。

 5着プリモシーン(父ディープインパクト)は、出負けしたが、やっぱり侮れない能力があることを改めて示してくれた。強引に動いて8着のカツジ(父ディープインパクト)も含め、今年のNHKマイルC組は、悔しい不利があった馬が多いせいか、「次も買わなければ…」と思わせる馬ばかりだった。いいレースだったのだろうか。あとを引きそうな気がする。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング