つらいのは日々の厳しい訓練だけではなく…
4月上旬に入所したBTC育成調教技術者養成研修第36期生22名は、その後、これまでに4人が退学し、現在男子8名、女子10名が残って日々訓練を続けている。
このほど、研修風景を見学する機会があった。入所以来ちょうど2ヶ月が経ち、乗馬訓練は、覆馬場から、いよいよ外の各馬場へと場所を移して駈歩の訓練が始まったばかりの段階だ。
この日は14名がそれぞれ訓練馬に騎乗し、まずは覆馬場でのウォーミングアップである。常歩から速歩、そして駈歩へと移行する。しきりに教官の叱咤激励の声が飛ぶ。1人ずつ注意点を指摘しながら、教官の指示は片時も止むことがない。
馬上でのバランス感覚を体で覚えながら、指示通りに馬が操作できるようにしなければならない。しかし、まだ本格的に訓練を開始して2ヶ月しか経過していないので、見ているといかにも心もとない感じだ。
覆馬場での訓練風景
「自分の意志で馬を動かすんだぞ。前の馬にただくっついて行くだけじゃダメなんだからな」と教官が声を枯らしながら、1人ずつの姿勢をチェックして行く。
どの顔も必死である。余裕がないと言った方が近いだろうか。「番号!」と号令がかかる。すると、研修生が前から順に1人ずつ「1、2、3」と声を出して行く。
しかし、しばしば途中でその番号が途切れてしまう。自分のことで精いっぱいなので、前後の研修生の声が耳に入らないのだ。
「やり直し、もう一度番号」再び、教官から促される。「1、2、3」と最初からやり直しである。この日騎乗している14名全員が滞りなく番号を口頭で答えられるまで、それが何度も繰り返された。
繰り返し点呼が行われた
「いいか。こんなことは一度だけでピシッと普通にできなきゃダメだぞ」と教官。落ちないように、と一生懸命馬にしがみつくうちに、ついつい前の馬との距離が近くなる研修生もいる。「○○、もっと間隔を開けろ。それじゃ近づきすぎる」と教官。だが、そう言われても、馬が思うように動いてくれない。自分でチェックするポイントが多すぎて、周囲を見渡す余裕が持てないのである。
18名中4名は、現在、打撲や骨折などで騎乗停止になっている。そのうちの1人、東京都出身の川北梨央さんは左手の中指と薬指に包帯を巻いていた。「落馬した時、左手に握っていた手綱を“持って行かれて”骨折してしまった」とのこと。本人は「早く治してまた騎乗したいです」とあくまで前向きである。
「全治6週間って言われているんですけど、そんなに長くは休めないし、できる作業は病院に内緒でやるようにしています」とも口にした。他の研修生になるべく負担をかけたくないという強い思いがあるようだ。
研修生中、随一の高身長の阿部航大君は「まだまだ馬とのコンタクトが取れていなくて課題が多いです」と自己分析する。ホッカイドウ競馬の阿部龍騎手を兄に持つ彼は、宮城県出身。180センチある身長の高さゆえに、「寮では食事制限をしています」という意志の強さの持ち主だ。食べたい盛りの10代とはいえ、58キロ以内に抑えるため「半食」を自らに課している。半食とは、「定量の半分の食事」という意味である。
身長180センチの阿部航大君
食事制限も厭わない阿部航大君
「先週から、外の角馬場に出て、駈歩を始めました。まだ慣れていないのもあって、落馬が続出でしたが」と教官。角馬場での訓練に慣れた頃を見計らって、いよいよ走路に出る。1年間という限定なので、研修生に要求される騎乗レベルはどんどん上がって行く。
冒頭でも触れたように、今春22名入所した第36期生のうち、すでに4名が退学している。そのあたりについて教官は「志願者数そのものの減少にも起因していると思いますね。今期の研修生たちを見渡しても、身長差も大きいし、体力差もまた大きくて、なるべく全員がしっかりと腕力や脚力をつけるためにと、訓練が終わった夕方にランニングも取り入れています」と語る。
従来もそうだったが、1年間で必ずしも研修生全員が高い騎乗技術を習得できる、というわけではなく、やはり個人差が生じる。ただ、せっかく、馬業界を目指して入所してきた彼らなので、育成牧場での騎乗だけに特化させる必要もないような気がしてくる。
馬業界の仕事は多岐にわたり、中には生産の現場の方が向いている研修生も出てくるだろう。できるだけこの業界にとどまり、それぞれが自身の特性をいかして働けるような柔軟な受け皿が求められる。
残る18名が、来春まで1人も欠けることなく、研修を続けて欲しいと願わずにはいられない。そして、できることなら、なるべく多くの研修生が、人手不足の深刻な日高に残って働いて欲しいと思う。