◆チャンピオン級とは思えない内容、かかえる闇は深いか 比較の難しい組み合わせに加え、週初めから天候による一転、二転の馬場変化も大きかった。稍重で出発した芝はなかなか回復しなかったが、勝ち時計「59秒4-(12秒0)-60秒2」=2分11秒6(稍重)が示したのは、心もちタイムを要した程度であり、どの馬にも不利のない「良馬場」に近いコンディションだった。
17年ぶりのGI制覇(ほんとにテイエムオペラオーのGI競走7勝は、そんなに遠い時代だったのか…)を達成した和田竜二騎手(41)も、渋馬場向きではない5歳ミッキーロケット(父キングカメハメハ)の勝因にまず馬場の回復をあげた。
晴れてGI馬となったミッキーロケット(c)netkeiba.com
ミッキーロケットは、必ずしも距離が合うとは思えない3200mの天皇賞(春)を0秒2差の4着(9番人気)で好走したあとも、放牧をはさんで好調キープ。最終追い切りでは調教は動く同厩の4歳馬ダンビュライト(父ルーラーシップ)を軽くあしらったほど状態が良かった。晴れてGI馬となり、管理する音無調教師は早くも秋の展望に「ジャパンC」を掲げた。宝塚記念2200mを快勝し、2400mの日経新春杯(17年)を制しているから長めの中距離ベストである。牝系はもう4〜5代血統表からはみ出す遠い時代になったので気づかれないが、6代母マルガレーゼンから発展する牝系は、世界でも日本でもきわめて著名なファミリー。トリリオン、トリプティク、トレヴ、ジェネラス、ディーマジェスティなど、ずっと長く世界のビッグレースに連動する牝系である。
ちょっと脱線するが、ミッキーロケットも、2着ワーザー(父はモンズーン直仔のタヴィストック)も、この宝塚記念の定量58キロに慣れていた。だから快走できた。さらに飛躍すると、軽い芝の日本で56〜57キロ級の経験しかないのに、タフな芝の欧州のビッグレースに挑戦し、いきなり未経験の「59.5キロ〜60キロ」の別定重量をこなして勝ってほしい、というのは大きな無理があるのではないか、という声がずっと以前からある。安田記念(古馬牡馬の定量58)の際にもいわれるが、この宝塚記念(古馬牡馬の定量58)の結果を振り返ってそう思った。
地力強化中なので、(いつもの相手なら)経験なしの負担重量くらいこなせるが、相手が強化するGIのビッグレースで初の58キロとなると、死角が倍化していた。今回もそんな馬がいた気がする。
ワーザーは、おとなしすぎるほど落ち着いていた。変にイレ込んで汗をかいた気配もない。だが、木曜計測で「前回の香港(2日前計測)よりマイナス19の454キロ」で驚かせた馬体重は、阪神競馬場滞在で金曜→土曜日を経過して戻ると思えたのに、さらに8キロ減って「446キロ」。550キロ近い香港のスピード馬が日本に輸送され、マイナス10数キロで快走した例は再三あるが、ワーザーは中距離タイプで、いつもは馬体重470キロ前後。落ち着いているのではなく、急に約30キロも身体が減って元気がないようにみえた。あっという間に単勝オッズは10番人気にまで急落している。
だが、香港を代表する名トレーナー=J.ムーアが「ハートで走る」と称えるワーザーは、外枠から控えてインに入って我慢し、4コーナー手前でスパートすると、とても急な馬体減の7歳馬とは思えない鋭さで伸びた。上がりは最速の35秒3。
これで、NZ→豪州→香港→日本、芝コンディションもコースもさまざまなのに、経験した1800m〜2500mの芝は通算【7-7-2-0】。一度も凡走していない。たしかにミッキーロケットには首差及ばなかった。ここまでの国際レーティングも119にとどまっているが、ボウマン騎手は「この馬は、世界レベルだと思う」と評価する。その通りであることを納得した。
すると、4着に追い上げ能力十分を改めて示した牝馬ヴィブロス(父ディープインパクト)はともかくとして、1番人気のサトノダイヤモンド(父ディープインパクト)、2番人気のキセキ(父ルーラーシップ)、サトノクラウン(父マルジュ)など、世界のビッグレースで注目されて不思議ない馬はいったいどうしたのだろう。
4コーナーで見せ場を作ったサトノダイヤモンドは、あれは一応の形作りだったのか、それとも勝ち負けできそうな手ごたえだったのか、そこまでルメールはコメントしないが、実にいい感じで上がってきた。でも、終わったら「約5馬身差」の6着である。
キリッと締まって、毛づやはピカピカ。もう体調は少しも悪くないと思えるが、打ちのめされて15着だった凱旋門賞のショックを引きずったままなのだろうか。
後方追走となったキセキは、道中はワーザーをマークしているのかと映ったが、本来はマークされるのは自分の方であり、相手はマイナス27キロの挑戦者。そのワーザーのスパートについて行けず、仕方なくインを衝いたものの見せ場もなく8着の凡走。
非常に難しいレースのため、サトノダイヤモンドはC.ルメールの、キセキはM.デムーロの人気も重なって上位人気に押し出されたところがあり、ほとんどのファンが過信禁物は承知だったが、それにしてもチャンピオン級とは思えない内容だった。
果たして、秋には立ち直ってくれるだろうか。かかえる闇は深い危険がある。
10番人気で2着の目黒記念につづき、12番人気で3着のノーブルマーズ(父ジャングルポケット)は、今回の55→58キロはふつうなら凡走のパターン。それで2戦連続の好走は、本物のパワーアップを示している。ただし、58キロでGIを3着してしまったから、もう軽ハンデは望めない。
パフォーマプロミス(父ステイゴールド)は、負担重量を考えなければ好勝負必至のデキの良さだったが、いきなり58キロはノーブルマーズと同じで、勝ち負けまではきびしかったということか。ただ、次走のためにはなまじ善戦の3〜5着より、今回の9着のほうがいいこともある。