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憧れ、尊敬、目標――“ぼくのヒーロー”叔父・和田竜二騎手の宝塚記念勝利

  • 2018年07月03日(火) 18時01分
馬ニアックな世界

▲17年ぶりのGI制覇を遂げた和田竜二騎手に、甥っ子・岩崎翼騎手も大興奮 (C)netkeiba.com


宝塚記念はミッキーロケットとコンビを組んだ和田竜二騎手が17年ぶりのGI制覇を遂げ、勝利騎手インタビューでは「(今春亡くなった)テイエムオペラオーが後押ししてくれたんだと思います」と声を震わせました。1999年の皐月賞で人馬共にGI初制覇から始まり、GI7勝。その姿を当時、幼稚園児だった甥っ子は目を輝かせて見つめていました。「ぼくも“きしゅ”になる!」――叔父に憧れ、背中を追いかけ、同じ職業に就いた甥っ子・岩崎翼騎手。昨年末に通算100勝を達成しフリーになった彼は、オリジナルのある道具を身に付けて日々の調教に励んでいます。そこに込められた思いとは。

競馬学校入学前に和田騎手から受けたアドバイス


 1999年、クラシック追加登録料を払い皐月賞に出走したテイエムオペラオーは、デビュー以来コンビを組む和田騎手とともにGI初制覇を果たしました。翌年にはGI5勝を含む年間無敗を達成し、勝利騎手インタビューでの「シャーッ!」という和田騎手の雄叫びは恒例行事となっていました。

 大観衆の注目を一身に浴びる叔父の姿を幼稚園児だった岩崎騎手は憧れのまなざしで見つめていました。

「競馬のルールも分かっていなかったけど、『すげーな』って思って見ていたんです。テイエムオペラオーに乗っているのが叔父だっていうのは分かっていました。祖父母と一緒に、叔父とテイエムオペラオーの応援に競馬場に行ったことも覚えています。すごくお客さんが多かったです」

 当時の岩崎騎手にとって、ヒーローはテレビの中の戦隊レンジャーではなく、大レースを1着で駆け抜ける叔父さんだったのかもしれません。身近な存在から受ける影響は大きかったことでしょう。

「家には騎手が使うような木馬があって、何もわからぬまま乗っていました(笑)。幼稚園の卒園アルバムには将来の夢は『きしゅ』って書いていました」

 小学5年生からはトレセン横の乗馬苑に通い始め、本格的に騎手を目指しました。

「競馬学校を受験する頃、叔父から言われたのは『とりあえず挨拶と朝起きるのはちゃんとしときなさい。技術は学校に入ってから、さらに言えばデビューしてからついてくるものだから、まずは競馬学校に受かって卒業すること』とアドバイスを受けました」

 2013年、騎手デビュー。

 2年目には重賞初騎乗となるマーメイドS(ハンデ戦)で最軽量50kgを活かし、ブービー人気のコスモバルバラで2着に粘りました。

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▲13番人気のコスモバルバラ(14番)で2着に食らい付く健闘 (C)netkeiba.com


 その一方で、まだ減量の恩恵がある頃から「減量があるからといって積極的なレースをするだけじゃなくて、5年後10年後、自分がどんな風になっていたいかをイメージしながら技術を向上させたい」と話していました。

 競馬学校入学前に和田騎手からアドバイスされた「技術はデビューしてからついてくるもの」という言葉に沿うように、週に1回、叔父と一緒にトレーニングを積んでいます。

一目で分かる「翼」ヘルメットの理由


 全休日明けの火曜日。

 追い切る馬はほとんどおらず、騎手の姿がまばらな調教スタンドに岩崎騎手はポツンと立っていました。

「特に今日は調教に乗る予定はないんですが、来ました」

 そう話す彼のヘルメットに目をやると達筆で「翼」の文字。

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▲ヘルメットに大きく「翼」の文字が


「昨年末にフリーになって厩舎服を着なくなったので、トレセンで誰が見ても一目で分かるようにと思って、自分でデザインしたんです。このペガサスの絵も自分で描いたんです」

 昨年12月に通算100勝を達成し減量が取れ、フリーにもなりました。減量騎手を積極的に起用する栗東ですが、裏を返せば減量が取れると環境は厳しくなります。そんな中で1頭でも多く調教に騎乗し、自分をアピールしていく手段となることでしょう。

 そういえば、先日の宝塚記念のレース後には検量室内で叔父・和田騎手と並んで笑顔でリプレイを見る岩崎騎手の姿がテレビに映っていたそうです。

「みんなから『テレビに映ってるでー』っていっぱい連絡がありました(笑)。叔父とは『直線長かったわ〜』『シビれました』って話していました。その後、Twitterに『おじさん、おめでとう』って投稿したら通知が鳴りやまなくて。ホント、すごいですよね」

 叔父さんの話になると、少年のように目を輝かせました。憧れ、尊敬、目標――とにかく岩崎騎手にとって大きな存在なのでしょう。

 さぁ、次は岩崎騎手の重賞初制覇が期待されます。

 重賞初騎乗2着から4年。今週末には七夕賞にプラチナムバレットとのコンビで挑む予定です。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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