数千万円や億を超える高額馬を競り落としたオーナーがガッツポーズをし、関係者と握手を交わす。落札者と馬名、金額が掲示されると、その前に立って自身の名を指さし、満面の笑みで記念撮影をするオーナーもいる。
買えて嬉しい、購入者となることがステイタスとなるサラブレッドのセリ、それがセレクトセールである。
第1回が行われたのは1998年。今年で21回目となるセレクトセール2018が近づいてきた。来週の初め、7月9日(月)は1歳馬、10日(火)には当歳馬のセリが開催される。
昨年は2日間で462頭が上場され、88%ほどの406頭が落札された。落札総額は173億2700万円と、5年連続で過去最高を更新。平均落札価格は4268万円で、1億円以上の値がつけられた馬は32頭と、一昨年の23頭を上回った。
1頭の平均価格で都内にファミリーマンションが買える。落札総額となると、この金でどんなことができるのかを想像するのも難しい。
さて、今年の当歳セールの見どころのひとつは、ドゥラメンテ、モーリス、ミッキーアイルといった新種牡馬の産駒がどう評価されるかだろう。これらが今年の三羽ガラスとすると、昨年のそれは、エピファネイア、キズナ、ゴールドシップだった。
セリそのものが面白いのはもちろん、落札後の写真撮影も、私は好きだ。
生まれて数カ月の仔馬が、独特の熱気が渦巻く人間たちの前に出て、自分の価格を告げる鑑定人の声が響くなか、しばらくの間立たされる。最後に「カーン」とハンマーが打ち下ろされるとビクッとする。その直後に「写真を撮るからジッとしてね」と言われても、できるわけがない。
そんな仔馬に正面を向かせ、四肢の並びを綺麗に整えたうえで、耳をぴんと立ててもらうため、カメラに写っていないところで、スタッフがぬいぐるみを見せたり、ガラガラみたいなものを回したりしている。その効果がちゃんと出て、写真には澄まし顔で写ってしまうところがまた可愛いのだ。
さらに、何年か取材をつづけるうちに、上場された馬の口を持つスタッフの技術が非常に高いことを知った。野性をとり戻し、恐ろしくパワフルで我の強い種牡馬たちを普段から扱っている社台スタリオンステーションのスタッフは、立ち上がろうとしたり体の向きを変えようとする上場馬を、熟練の「曳き手綱さばき」で御し、何事もなかったかのように見せている。簡単に押さえているように見えるのは、彼らの腕がいいからなのだ。
そのほか、「この人が鑑定人をやると馬の値が上がる」と言われている、ノーザンファームの中尾義信さんが、いつまで鑑定人をつづけるかも気になるところだ。長らく事務局として取材対応などをこなしてきた中尾さんは、定年が近づき、現在は営業部長となっている。2006年の当歳セールで「トゥザヴィクトリーの2006」(牝、父キングカメハメハ)が日本のセール史上最高額の6億円で落札されたときも中尾さんが鑑定人だった。「中尾さんのいないセレクトセール」というのは、ちょっとイメージできない。私があれこれ言うべきことではないが、個人的には、ずっとつづけてもらいたいと思っている。
八戸市場、オジュウチョウサンの平地挑戦、セレクトセール、セレクションセール、そして相馬野馬追と、7月も忙しい。さらに、どのタイミングになるか微妙だが、的場文男騎手による地方競馬通算最多勝利記録更新というビッグイベントも控えている。
私は、セレクトセールのあと、すい臓がんになった父を入院させるため、しばらく札幌に滞在する予定だ。
母方の家系図づくりもずいぶん進み、私のはとこに、北海道新聞の論説委員がいることもわかった。この前、同紙の別の記者から競馬関連の取材を受けたとき、それを話したら驚いていた。
「金の貸し借りは、貸して喧嘩するより、貸さずに喧嘩しろ」というのも、造船業で繁盛していた母の実家で格言のようになっていたという。
「なるほど」と思ったと同時に、「借りる側ではなく貸す側だったんだ」とあらためて思った。
やがて陸運に押され、事業は尻すぼみになっていったのだが、没落した金持ちの家からは物書きが出ることが多いようだ。自分の家の話をするだけで、いろいろな人が興味を持ってくれるからかもしれない。それだけ、世間は、サクセスストーリーより転落物語に興味を示すということか。
大雨で、造船所のあった千歳川が合流する石狩川が増水しているようだ。被害が拡大しないことを祈りたい。