▲NAR塚田理事長インタビューの後編 矢野アナがJBCの今後の展開に迫る
――NAR(地方競馬全国協会)・塚田修理事長へのインタビュー企画。前編では11月に京都競馬場で行われるJBCに地方の有力馬を出走させるため、“出て欲しい馬”をファンに投票していただきたい、というところまで話が及んだ。後編はその続き。今、地方競馬は、さまざまな取り組みを模索している。(取材:矢野吉彦)
29年度から導入― 『強化指定馬制度』とは
矢野 私も、ファンに後押ししてもらえるような、地方競馬生え抜きの馬が現れたらいいなぁ、と思っています。それに関することで、JBCからはちょっと逸れますが、最近スタートしたオリンピックの強化指定選手のような制度についてお話いただけますか?
塚田 要は、地方で有力とされている馬がちゃんとしたレースに出なければ、レースの活性化もないし、お客さまにとっても面白くない。で、その前に、どうやったら地方の強い馬を作れるか?そこが問題で、それを何とかするために“強化指定馬制度”を始めました。ご承知のように、地方とJRAさんとの差ってすごくありますよね?
矢野 賞典費、つまり賞金とか施設とか?
塚田 それに預託料なども。だから当然、入ってくる馬についても初めから力の差があります。さらに、馬を鍛えるにしても、坂路とかプールとか、さまざまなトレーニング施設が整ったところに地方の馬を持って行けるかというと、なかなか難しい状況にある。そこで、地方の2歳馬でトップ5くらいの馬をそういう施設に出した場合には金銭面で支援するという、いわゆるオリンピックの強化指定制度みたいなシステムを昨年度から導入しました。
その中で、ハセノパイロが東京ダービーを勝ちましたし、サザンヴィグラスが北斗盃を制しました。手始めに4頭指定して3頭くらいが活躍しています。強い馬を指定してお金を出してるんで、それは当たり前かもしれませんが、ちょっとうれしいなと思います。
▲昨年から施行された『強い馬づくり計画』・強化指定馬のハセノパイロらが活躍(撮影:高橋正和)
矢野 いきなり効果が現れたわけですね。
塚田 そうです。そこで今年は、2歳馬に加えて3歳馬も5頭指定します。それから各主催者ごとの強化指定馬。主催者が12ありますから12頭ですね。こうして“強化指定馬制度”を拡大しようと思っています。(注:2歳5頭、3歳10頭、2歳時指定馬5頭+3歳新規5頭、主催者指定12頭、計最大27頭)
矢野 そういう馬たちがJBCに集結する?
塚田 理想的にはそうですね。もうじきJDD(ジャパンダートダービー)ですが、登録馬を見ると、各地のダービーを勝った馬が4頭エントリーしました(※最終的に3頭出走)。実はこれ、珍しいことなんですね。われわれとすれば、いろんなところに声をかけたり、出走奨励金を出したりしてますけど、やっぱりそうやって少しずつ刺激して、こういう流れに持っていかないといけない。JDDをやるんだったら、もちろんJRAさんと地方の対決もあるけど、地方の"ダービー馬"ではどれが一番なの? っていうのがあるじゃないですか?
矢野 秋のダービーグランプリみたいな?
塚田 ダービーグランプリの創設趣旨はそうでしたね。JDDで地方最先着馬になったら、もしかしたら地方で一番強い“ダービー馬”かもしれない。そのためには、やっぱり“ダービー馬”がいっぱい出なくちゃいけない。そう思っていたので、今回は出てくれてよかったなと思っています。
JBCに2歳&ばんえいカテゴリを新設!?
矢野 それはまた、各場で選定する指定強化馬の話にもつながりますね。アメとムチのアメですか?
塚田 まあ、お金だけじゃないと思いますけど、やっぱりJRAさんと比べて賞典費が低いのは事実ですし、各主催者の間でもバラツキもありますので、それを前提にいろいろ知恵を絞らないと。JBCに話を戻していいですか?
矢野 どうぞ。
塚田 JBCで2歳戦をやりたいなと思ってるんです。実行委員会でもそういう話が出てるし、もともとJBCを作るときから2歳戦をやりたいという発想があったので、ぜひと思って検討しています。ただ、ご存知のように11月上旬には北海道2歳優駿がある。そこにJBCの2歳戦を作るとバッティングするので、関係団体を含めてそこを整理をしなくちゃいけない。
それから2歳戦を作ると、JBCで4レースやることになるんですよね。これらを一緒にやるっていうのはなかなか大変。でもせっかくのお祭りなんだから、一緒にやったほうが面白いかなと。そのあたりを今、検討している状況です。
矢野 全日本2歳優駿との整合性というか、どっちがトップか、という問題もあります。あれはJpnIですから。
▲JBCの2歳カテゴリ新設案…、歴史ある既存レースの価値で議論に
塚田 これは、たぶん全日本がトップだと思います。JBCっていうのはダート競馬の祭典としてやって、2歳シーズンの最後でやる全日本のほうが、もしかしたらみんなそろって出てくるので、そちらがトップかなと。
そういう感じで、あんまり堅いことを言わずに、JBCはJBCとしての価値を認めてもらって、今まで長らく12月中旬にやってきた全日本は、2歳馬の最高峰を決めるレースという位置づけでいい。これは揺るぎないと思います。
これまで各主催者が自分の競馬場の宝物として育ててきたレースの位置づけを変更するなんてことは、大きなレースになればなるほどできません。だからわれわれは、それらを尊重しつつ、新たなものをどう組み入れるか、お客さまにわかりやすいものにするかっていう部分の微調整をすることが大事だと思っています。
矢野 NARはJRAのような主催者ではないですからね。
塚田 そうです。それはそうと、ばんえいのJBCみたいなのもやりたいんですよ!
▲塚田理事長から仰天アイディア「ばんえいのJBCもやりたい!」
矢野 ええっ!? 私はもう、ずっと昔からそれを思っていて。
塚田 なんでできなかったの?
矢野 それはこちらが伺いたいところです!
塚田 ばんえいも生産者とすごく近いじゃないですか。重種の生産者の方と全国の主催者がみんなで盛り上げて、1つの祭典みたいな形にするんです。矢野さんは前から考えていたんですか?
矢野 はい。ばんえいもれっきとした地方競馬なんだから、JBCからのリレーでビッグレースをやるとか、レディスクラシックとスプリントの間にそれをやるとか。同じ競馬場でやるわけにはいかないでしょうが、一緒にできないかな、って。
塚田 いや、別の日でもいいんですけど。ばんえい記念が最大のお祭りなんでしょうが、生産地の方も入り、全国が支援できる形で、できれば地元の方々も含めて、“ばんえいの日”っていうようなものができたらいいなぁと思います。ばんえいだから、“BBC”か。
矢野 いいですねぇ。ぜひお願いします。それにしても、いろいろなプランが出てきますね。これも、馬券の売上が好調だからでしょうね。せっかくの機会なので、こういう取り組みもしていますよ、というものがあれば、お聞かせください。
塚田 1つ挙げれば施設改善です。スタンドだけでなく、厩舎などが老朽化しているので、ここ5年間で大きく直していこうということで、各主催者も計画を作っていますし、われわれもそれに対して補助金を出して行こうと思ってます。これから先、末永く安定して地方競馬を開催していくという視点で非常に重要なのが、インフラの整備です。
矢野 今、日本中、あらゆるところで人手不足が起きています。競馬に携わる働き手を確保するという意味でも、職場環境を整えるというのは大事ですね。
塚田 最重要課題です。馬主さんにとっても、自分の愛馬を預けてもいいと、最低限思っていただかなくちゃいけないんで、そこは大きいんですよね。
▲根幹を支える従事者たちの職場環境に危機感「最重要課題です」
矢野 自場でのJBC開催をきっかけに施設改善を進めた競馬場もあります。だからこそ、JRA京都開催はあくまでも今年限りなんですね?
塚田 そのとおりです。そういう意味で言うと、来年のJBCは初めて浦和競馬場で開催されます。で、浦和さんは今言った長期的投資ということで、これを契機にスタンドも直しますし、走路も直すんですね。カーブも直したいっていうことで、長期的視点の投資とJBCをうまいこと合致させてやってくれています。
矢野 再びJBCに話が戻りましたね。それなら、全国の地方競馬場で持ち回りでJBCを開催すれば、すべての主催者がそれをきっかけに"投資"ができるんじゃないですか?もともとJBCには、各地の持ち回りで、という構想があったはずです。
塚田 それはそうですけど、実際には厩舎の馬房数とかスタンドの収容能力とか、いろいろな問題があって、実施していない場もあります。さらに今年はJRAで、ということになったので、「地方はJBCをどうしたいのか?」という見方をする人が出てきてもおかしくないとは思います。
矢野 でもそれは誤解?
塚田 南関東は浦和でやればひと回り。盛岡、名古屋、園田、金沢でもやりましたからね。北海道でもやったほうがいいと思いますが、門別の収容人員が3000人程度というのが課題でしょうね。それに、交通アクセスの問題も。
▲JBCの持ち回り開催も競馬場の収容人員・交通面がネックに
矢野 とにかく、最初におっしゃったとおり、地方競馬が「JBCを京都でやってください」と言えるまでになったのは、大きな変化ですね。
塚田 「40億円をフイにしてどうするんだ」なんだけど、やっぱり将来のことも考えなきゃいけない、ってことですよね。だから長期投資もしましょう、強い馬づくりもしましょうよと。
矢野 そうですね。ところで、今年の11月4日、JBCの開催日に全国の地方競馬場やJRAのウィンズとして馬券を発売しているところで、パブリックビューイング的なイベントを展開するというのはいかがですか?
塚田 必要でしょうね。要は11月4日、京都のJBCの時に、われわれ地方競馬もその馬券を売っているわけですよ。この点が、JBC創設時とは明らかに違う。
ですから、それをどうやってPRして、どうやってお客さまに馬券をご購入いただくか?さらに、その時にどういった情報を提供できるか?それは、私どももJRAさんにお願いした以上、地方競馬も一生懸命売りますよというのは、当然のことだと思うので、よく考えていろいろ手を尽くしたいと思います。
矢野 期待しています。
塚田 まだありますよ。せっかく京都競馬場で開催するわけですから、地方競馬ブースみたいなものを作らせてもらって、JRAさんにもご協力いただいて、地方競馬のこととか、JBCのこととかをお知らせするようなことをやってみたいと考えています。JBC、それから地方競馬のことを広く知ってもらう機会にしたいなと思いますね。
矢野 今までにないJBCになりそうで楽しみです。
塚田 今年のJBC京都開催、ぜひ大勢のファンの方々にご参加いただきたいと思っています。
でもこうなってきたのは、本当にお客様に馬券を買っていただいたおかげです。それでやっと、当たり前のことを考えられるようになった。お客様に感謝、感謝です。だからもっと、ファンの方から「こういうことをやったら面白いよ!」っていうアイディアがあればドンドン言っていただいて、われわれとしても本当にいろんなことをしていきたいなと思っています。
▲「ファンの皆様からのアイディアを楽しみにしています」
矢野 この企画をその“橋渡し役”にしたいですね。今回は、今後の地方競馬についてもいろいろなお話を伺うことができました。ありがとうございました。
※次回の掲載は9月予定です
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