◆大スランプのダービー馬はもう大丈夫 2006年から「定量」のGIIになって今年で13回目。夏のローカル重賞にとどまらないさまざまなレースパターンが生まれている。GIIなので、どういうパターンになっても夏の伝統の重賞らしく盛り上がるが、やはりGI馬、あるいはGI級が今年のように上位を争うと、明らかに迫力がちがう。良馬場には回復せず勝ちタイムは平凡だったが、レースレベルは非常に高かった。
中間の雨でタフな芝だったところへ、飛ばす馬がいたので全体のペースバランスは「59秒1-62秒0」=2分01秒1。前半1000m通過59秒1のきつい流れのあとも、後続の追い上げは早く、中間地点からも「12秒4-12秒0→」。流れの落ち着く場所がなかった。そこで上がりタイムがかかり「49秒6-37秒6-12秒5」。結果、ハイペースを察してひかえた馬と、底力(総合力)に勝るGI級の争いになった。
マルターズアポジー、何発も出ムチを入れたアイトーンの先行に、ネオリアリズム(こんなに2頭が飛ばして行くとは思わなかったモレイラ)まで積極的に先行したから、追走の馬まできびしい流れに巻き込まれることになった。
距離に心配のあったサングレーザーは、デキの良さとともに、絶妙なスパートが重なっての勝利。道中は少し行きたがったが、3コーナーすぎからインで待っていた。前が狭くなったのはたしかだが、結果、これが勝利のコース取りになった。ゴールの瞬間はマカヒキかと見えたが、最後は前が開かなかった分だけ、逆に脚が残っていた。
GI馬2頭との叩きあいを制したサングレーザー(撮影:高橋正和)
2歳時のホープフルSを5着のあとずっと1600m以下に出走。本来、2000m級くらいは楽にこなせるタイプとしても、洋芝で2分01秒1も要するレースはきびしかったろう。きわめてタフである。母の半妹にロフティーエイム(福島牝馬S)、メーデイア(JBCレディスクラシックなど)をもつ輸入牝馬ウィッチフルシンキングの牝系は、年ごとに軌道に乗ってきた追分ファームを代表するファミリーとなった。
大スランプ脱出に、それこそ入念に立て直したマカヒキは、この2着でようやく立ち直ったとしていい。パドックの気配がこれまでよりずっと良かった。中間の動き以上に、迫力と待望の存在感が戻っていた。最後は絶好調サングレーザーにインから差されたが、大外を回ってハナ差なら、もう大丈夫。次の出走は天皇賞(秋)。日本ダービーを制した舞台で完全復活が期待できる。
流れを読んで追い込みに徹したモズカッチャン(デムーロ)は、わずかに及ばなかったが、不利な枠順、定量55キロ、休み明けを考えれば納得の3着。直線、決してスムーズな追撃とは映らなかったが、上がり3ハロン「36秒0」はマカヒキの36秒4を上回って最速だった。牝馬ながら休み明けに良績がない叩き良化型であり、これでエリザベス女王杯連覇がみえた。
疲れが取れ、珍しくデキが良かったサウンズオブアースの4着はさすが。再三再四GIで快走(2着3回)してきた底力がタフな舞台で生きた。だが、これでこの秋もGIで好勝負可能という立場でもなく、GI級と、そうとはいえないグループを、サウンズオブアースの4着好走が分けて示した印象があった。
ただ、ミッキースワローは昨秋の素晴らしいデキにはなかったうえ、狭くなった直線の交錯でムリせずに断念したレースなので、真価発揮はこの次か。モズカッチャンと同じで、ここまでの成績から休み明けで能力全開タイプではない。
デキの良さが光った上がり馬マイスタイルは、好位でなだめて流れに乗っていたが、強気に出てこその挑戦者とはいえ、(馬場状態を考慮すると)明らかにハイペースで飛ばしていたマルターズアポジーを3コーナーで捕まえに出てしまった。田中勝春騎手は「さすがにスパートが早かったかな…」と振り返ったというが、たしかに強気すぎた。
3歳の挑戦者だったゴーフォザサミットは、正攻法で0秒6差の7着。善戦したものの最後は力つきた。ただ、こちらは初の古馬相手の休み明けであり、同じ着順でも日本ダービーの7着よりずっと中身はあった。この秋に注目したい。
4歳スティッフェリオは、早め早めに動いて、直線はぶつかったりしながらがんばって5着。格上がりで、この相手の定量戦で見せ場を作った。ステイゴールド産駒。母は競走成績こそスプリント戦だが、母の父ムトト(その父バステッド)からくるスタミナを秘めていて不思議はない。渋馬場で大仕事をするかもしれない。「右手前だけで走っていた」という丸山騎手のコメントもある。
連覇を狙ったサクラアンプルールは、テン乗りの不利はなく中位で流れに乗っていたが、昨年よりレースの中身も、相手も厳しかったという印象が残った。
2016年につづく2勝目を目ざしたのは7歳ネオリアリズム。モレイラ騎手を配してきたが、今回はちょっと覇気に欠け、完調手前と思えた。2000mはベストだが、こういうきびしい流れを押し切るタイプではなく、先行馬壊滅のペースも苦しかった。不利を受けたときはすでに脚もなかった。