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ライフライン断絶から信ぴょう性のないデマまで… 至る箇所で見受けられる地震余波

  • 2018年09月12日(水) 18時00分


震源地から近い門別競馬場、最大のネックは断水


 北海道胆振地方東部を震源とする震度7の強い地震が発生したのは、今月6日(木)の未明午前3時過ぎのことであった。私の住む浦河でも震度4を記録したが、もともとこの町は地震多発地帯なので、ある程度の揺れには慣れている。横になりながら、揺れ方の振幅などから、やや離れた道内(例えば釧路沖あたり)のどこかが震源であろうとぼんやり考えていた。

 ところが、それからほどなく停電になり、全ての電源が止まった。当初は、すぐに停電は復旧するものとばかり思っていたが、なかなか回復してくれない。やむなく、携帯電話でネットの情報を収集してみたところ、どうやら停電が北海道全域に及ぶらしいことが判明し、震源地が胆振地方東部の厚真町や安平町あたり、そして最大震度6強という情報も分かってきた。

 6日は、終日停電したままの状態で過ごした。朝6時過ぎ。最も近くの(といっても距離にして我が家からは3キロ離れている)コンビニに買い物に行くと、自動ドアを開放にしたまま、自動車のバッテリーから電源を引き、営業を始めているのが分かった。車が数台止まっており、店内では、お弁当やおにぎり、パンなどを買い求める客の姿が目についた。商品棚はすでにかなりスカスカになり始めている。

 この日は好天で、近くの漁村では昆布取りが行なわれており、手伝い要員のためのお弁当やおにぎりなどを買う漁師のおかみさんが次々にやってきては、どんどん品薄になって行く商品棚を見て、「何かすぐ食べられるものはないの?」と店主に尋ねるが、「もう、今日はたぶん配送車は来ないと思います」との答が返ってきて、肩を落とす場面を間近で見た。

 そのうち、苫東厚真火力発電所が運転休止に陥ったことが原因で全道一斉に停電したこと、この火力発電所だけで道内の電力需要の半分近くをまかなっていること、運転再開の目途が立たないこと、少なくとも電力復旧まで1週間程度はかかるだろうということ、などをテレビニュースで知り、今度は一斉に、人々がガソリンスタンドへ走り出した。

 言うまでもなく、北海道は極端な車社会で、特に郡部ではなおのこと車への依存度が高い。停電が長引きそうだという情報が流れ、まずはタンクを満タンにしておかねばならぬ、とみんなが考えたわけである。それで私も3キロ離れたスタンドに向かったが、すでに長い車列ができていた。幸い、それほど待たずに満タンにできたので助かったが、待っている間に私の後ろにもどんどん給油する車の列ができた。

 後で見たニュースでは、札幌などの都市部のスタンドに延々と続く車列の映像や、1人1000円分限定、あるいは10リットル限定などという制限をする店も多かったという。車は、移動の手段だけではなく、携帯電話の充電をしたり、テレビやラジオで情報を得たりするために不可欠であり、車を動かすには燃料が要る。誰しも災害時には同じことを考えるのである。

 そうこうしている間に、今度はLINEなどを通じてのデマが飛び込んできた。曰く「浦河も午後には断水が始まるらしい」また、「今夜、もう一度大きな揺れが発生する」等々。

 結局、浦河の断水も、震度7クラスの揺れもガセネタに終わったが、こういう時には、そんな根拠のない情報でも妙に説得力を帯びて聞こえるために、無駄に振り回されたりもしてしまう。

 浦河は、翌日夜には電気が復旧した。また断水は一度もなかった。ただ、同じ日高でも、震源地に近い日高町や平取町などでは揺れも大きく、とりわけ影響を受けたのは門別競馬場であろう。

生産地便り

門別場内風景(見たところ破損個所は見当たらず)

 今日の午前中、所用があり、鵡川町まで行って、帰り道、門別競馬場に立ち寄ってみたが、すでに発表されているように、今週と来週の開催は中止することが決まっている。

 スタンドやパドック、走路などのファンエリアには見回したところ大きく破損している箇所はなさそうだが、門別競馬場一帯は未だに断水が続いており、今のところ復旧の目途が立っていないという。厩舎エリアの北東角に立つ大型タンクから各厩舎へ配水する方式だそうで、そのタンクが破損したために水が供給できなくなったというのである。各厩舎への配管は、水を通してみなければ、破損しているかどうかは確認できない、ともいう。

生産地便り

門別競馬場スタンド


生産地便り

門別競馬場の給水タンク

 厩舎ではかなり大量の水を使用する。馬の飲み水だけではなく、調教後に馬を繋いで洗うのにも多くの水が要る。幸い、馬や走路などには被害がなかったので調教は普通に行なわれているらしいが、地震発生から3日間ほどは停電が続いたために、ウォーキングマシーンも稼働できず、厩舎スタッフが手でマシーンを回したりする厩舎もあったという。

 断水は、走路の東側に隣接する厩舎関係者の居住地区も同様で、近くの駐車場には自衛隊の給水車の姿が見られた。また、スタンドの一部のガラスが破損しており、板をあてて応急処置を施しているのも確認できた。

生産地便り

門別競馬場関係者用住宅

 それ以外に、建物には被害らしい被害が確認できないものの、やはり最大のネックなのが断水であろう。スタンドも断水しているということは、当然、トイレや飲食店などにも水が供給されないわけで、それが解消しないことには、やはり競馬開催は難しいということなのだ。

 鵡川市街地の通り沿いには、1階部分が潰れたり、全体が大きく傾くように破損している建物が目についた。すでにテレビニュースで見た光景だが、実際に自分の目で見ると、言葉を失う。鵡川市街地は門別競馬場の約10キロ西側で、震源に近い分、それだけ被害もまた甚大なのだろう。

生産地便り

鵡川市街地の破損した建物

 日高自動車道はすでに全線開通しているが、富川インターから鵡川インターにかけては、波打っている箇所が目についた。応急処置をして取りあえず通行できるようになったとはいえ、時速50キロに制限されている。あちこちで段差や亀裂が生じたようで、補修の跡が見られた。

 被災地の復旧が最優先であるのはもちろんのこと、門別競馬場も何とか早く再開できるようにと願わずにはいられない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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