▲「馬は人の感情を読み取る」という研究結果を発表した北海道大学大学院の瀧本彩加准教授(左)
2018年6月21日、英科学誌電子版に馬に関する注目の研究結果が発表されました。『ヒトの感情シグナルに敏感なウマ 〜ウマはヒトの表情と声を関連づけて感情を読みとることが明らかに〜』。発表したのは、北海道大学大学院文学研究科の瀧本彩加准教授や、東京大学大学院総合文化研究科修士課程2年の中村航介さんらのグループ。この研究テーマに大きな関心を抱いた細江純子さんと、瀧本准教授・中村さんの特別対談を9日(火)から12日(金)の4日間連続で掲載します。
(構成:不破由妃子)
馬の学習能力の研究は90年代から増加
細江 馬とのコミュニケーションを深めるなかで、今回の研究をやってみようと思ったきっかけはなんだったのですか?
瀧本 きっかけはですね、馬と人が絆を形成する上で、重要なコミュニケーションとは何だろう、どんなシグナルのやり取りが大事なんだろうと考えたときに、感情のやり取りというのがひとつの重要なポイントなのではないか、と考えたことです。
細江 そもそも、馬のコミュニケーション能力については、まだそれほどデータがないということですか?
瀧本 そうです。どんな学習能力を持っているのかというのは90年代から研究が増えてきて、彼らがルールを学んだり、そのルールを10年間覚えていたりすることも明らかになってきました。2000年代に入って、コミュニケーション能力の実験もだんだん増えてはきましたが、まだ数は少なく、馬に携わられている方たちが経験的に知っていることも、実はまだまだ科学的に証明されていないことが多いのが現実です。ただ、これまでの研究で、馬が他の馬の表情の意味を理解しているというのはわかっていました。
細江 そうなんですね。ちなみに、それはどんな研究だったんですか?
瀧本 威嚇しているような表情だったり、リラックスした表情だったり、目を輝かせた表情だったりと、様々な表情の見知らぬ馬の写真を並べて見せたときに、リラックスした表情や目を輝かせている写真には、最初に接近したり、長く見ていたりするのですが、威嚇の表情には目を向けないし、滞在時間も短い──という研究でした。
そこで、はたして馬は馬だけではなく、人の表情も理解するのだろうかということで、2016年にイギリスのチームが論文を発表したのですが、その内容は、笑顔よりも怒り顔を見せられたときに、馬がより身構えるというか、緊張からか最高心拍に達するまでの時間が短いというものでした。