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衝撃の世界レコードで、ドバイでも負けが考えづらい/ジャパンC

  • 2018年11月26日(月) 18時00分

6着までがJRAレコード更新に相当する超高速レース


 アーモンドアイ(父ロードカナロア)は、強烈に差した桜花賞より、楽々と抜け出した。オークスより、猛然と追い込んだ秋華賞よりも、さらにもっと強くなっていた。

 驚異のレコード2分20秒6を前にして、芝状態や、レースの流れをいう必要はないだろう。驚くべき牝馬の出現である。レースを終え2コーナーからスタンド前に戻るC.ルメールは、激走したアーモンドアイを気づかい、大切な宝物の息が少しでも早く戻るようにゆっくり戻ってきた。そうではない。ジャパンCのアーモンドアイのレースを見るために、スタンドの一番前に朝から位置していたファンに、この素晴らしい馬をもっと近くでよく見てもらえるように、ゆっくり近づいた。そういう配慮だったかもしれない。

重賞レース回顧

牝馬三冠時よりも遥かに強いパフォーマンスを披露したアーモンドアイ(撮影:下野雄規)


「2分20秒6」。距離2400mの世界レコードに相当する勝ちタイム表示を見ながら、かつて、世界の強豪が毎年のように来日した当時のことを思い出した。1990年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを制し、チャンピオンを自負する3歳牡馬ベルメッツ(父エルグランセニョール。オーナーはモハメド殿下)を連れて来日したイギリスのH.セシル調教師は、管理馬200頭をかかえる世界トップのトレーナーだった。

 しかし、S.コーゼンのベルメッツはあえなく1番人気で7着(0秒8差)に沈んでしまった。その結果に、H.セシル(2013年没)は、わたしたちは自分たちの英国馬の強さに自信がある。誇りもある。だが、こういう高速レースに遭遇すると「馬の強さの尺度は、多様であることを認めざるをえない」というトーンの談話を残したことがある。

 そのベルメッツの父エルグランセニョール(父ノーザンダンサー)は、アーモンドアイの祖母ロッタレース(父ヌレイエフ)の半兄である。

 ベルメッツの芝12Fの最高タイムは2分30秒台だった。当時、まだ枯れて茶色の東京の芝2400mを、自己の最高タイムを6秒以上も短縮する2分24秒0で乗り切った。だが、勝ったベタールースンアップ以下に遠く及ばなかった。今年の愛のカプリ(父ガリレオ)も、英のサンダリングブルー(父イクスチェンジレート)も、時計を5秒も6秒も短縮したが、上位ははるか前方だった。これはレースの形態(芝)があまりに異なったから仕方がない。トップホースは3〜4秒なら時計は短縮できるが、2分20秒6は、わたしたちにとっても想定外の超高速レースだった。

(ちょっと余計なことかもしれないが、パドックでイレ込んだ招待馬は前の馬とだいぶ離れた。そこに、撮影用のスマホを手にした日本のオーナーの知り合いと思える人びとが何人も前を横切って入ったのは、慣れない長時間のパドックを考えると、招待競走のホスト側としてスマートではなかった。非礼にも近かったろう)

 3歳牝馬アーモンドアイには、これではっきり世界展望が広がった。「まずは、ドバイ」という声が上がったが、アーモンドアイは多くの会員が支えるクラブ法人の所有馬なので、賢明な展望と思える。招待レースのドバイなら問題は生じない。オーバーホールして体調が整えば、GIドバイシーマクラシック2410m、あるいはGIドバイターフ1800mなら、おそらく負けないはずである。

 そのあとの展望は、来年は5歳牝馬となるエネイブル(父ナサニエル)の待つ凱旋門賞だろう。ロンシャンの芝2400mは、2分25秒0前後になる高速の芝の年もあれば、オルフェーヴルの2012年のように渋って2分37秒も要する年もある。アーモンドアイには、極端に馬場が悪化しない限り、エルコンドルパサー、ディープインパクト、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴルを上回るようなレースを展開し、万能にも近い能力を発揮して欲しい。

 2011年のドイツ育ちの牝馬デインドリーム(父ロミタス)は、ドイツのバーデン大賞を2分37秒52で圧勝の直後に、仏ロンシャンの2400mを2分24秒49で独走している。

 大レコード更新の立役者となった4歳牡馬キセキ(父ルーラーシップ)は、迷うことなく主導権を主張し、自身は「1分11秒7-1分09秒2」=2分20秒9で乗り切った。天皇賞(秋)は、2000mなのでもうちょっとだけ速いペースで「59秒4-57秒6」=1分57秒0だった。ところが、今回の2000m通過も1分57秒2。同じスピードを保ったまま2400mを乗り切ったからすごい。川田騎手のペース判断は素晴らしかった。今回のキセキは、ひときわ馬体が光輝いていた。このキセキの快時計の中身は、天皇賞(秋)2000mはハロン平均「11秒70」。そして今回のジャパンC2400mも微差の「11秒74」である。

 こういう記録が生まれたとき、勝ったアーモンドアイのロンジンの自動計測タイムは「2分20秒60」なのか、あるいは「2分20秒69」だったのか。日本のレースだからあえて消している部分に興味がある。さすがにもうパートI国日本の時計表示は100分の1秒単位の方がいいだろう。香港だって、シンガポールだって、水泳も、陸上競技も、スキーも、各種スポーツ競技はみんな100分の1秒単位(ときには1000分の1秒単位の判定)でないと公式記録にならない時代である。だから、アーモンドアイの記録を世界レコードとは公言できない。いい加減だろう…となる。また、馬体重の2キロ単位もいまはJRAだけである。

 マッチレースになったアーモンドアイとキセキのあとは、あまりに高速すぎて離れてしまった。3着スワーヴリチャード(父ハーツクライ)、4着シュヴァルグラン(父ハーツクライ)、5着ミッキースワロー(父トーセンホマレボシ)、6着サトノダイヤモンド(父ディープインパクト)は、懸命に自己最高タイムを大幅に更新して2分21秒台で健闘したが、今回は仕方がない。従来のコースレコードが05年アルカセット(2着ハーツクライも同タイム)の2分22秒1なので、みんなJRAレコード更新に相当する。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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