イブニングレースの恩恵は
地方競馬のナイター・薄暮化はどんどん進んでいて、2015年にナイター開催が始まった船橋競馬場では、今年度から南関東では初の通年ナイターとなる。年明け1月からは大井・川崎がデイ開催となっても船橋だけはナイター開催が続く。また照明設備を整えた盛岡競馬場では今年9月29日から薄暮開催が、佐賀競馬場では11月10日から“イブニングレース”がスタート。
「薄暮」「イブニング」と言われてはいるものの、メインや最終レースは日没後のため、実際には真っ暗。盛岡競馬場も佐賀競馬場も周囲にほとんど何もなく、あえて言うなら山の中にあるため、上空からの写真を見ると競馬場のコースだけが明るく浮かび上がる様は幻想的でもある。
今や地方競馬で完全デイ開催(夏季には時間帯的に薄暮で実施するところもあるが、ここでは日没前の意味)の競馬場は、水沢、浦和、金沢、笠松、名古屋(復活すれば姫路も)だけとなった。
どこもかしこもナイター・薄暮で、開催時間帯が重なれば、地方競馬同士でファンを食い合ってしまうのではないかと考えていたのだが、どうもそうではないらしい。開催場が重なれば売上はたしかに分散はするが、それ以上に週末開催の地方競馬では、中央競馬と時間帯をずらすことによる売上のほうがはるかに大きいようだ。
それが如実に示されたのが盛岡のJpnI、マイルチャンピオンシップ南部杯(10月8日)。昨年までは発走時刻が日没ギリギリの16時40分だったのが、照明設備による薄暮開催で今年は17時30分になった。結果、南部杯1レースの売上は初の10億円超えとなる11億4897万3500円で、従来のレコード(2017年)の9億1385万円余りを大きく上回った。
南部杯だけでなくある程度の期間で見てもそれは数字に現れている。前年度とほぼ同じ条件で行われていた4月から9月までの岩手競馬の今年度の1日平均は2億7374万円余りで前年同期比111.0%。それが薄暮開催が可能になった10月の盛岡開催だけを見ると、今年度の1日平均は3億7497万円余りとなって、前年同期比で実に151.6%という伸びを見せた。
一方の佐賀競馬は、これまで日没の時刻に合わせて開催ごとに発走時刻を少しずつずらしていたのだが、それはむしろファンにとってはわかりずらいものでもあった。それが照明設備が完成して“イブニングレース”となった11月10日からは、最終レースが概ね18時10分前後とほぼ固定された。
結果、佐賀競馬の昨年11月(8日間)の売上の1日平均が1億5634万円余りだったのに対し、イブニングレースが始まった今年11月10日から25日まで6日間の1日平均では2億2377万円余りと、やはり大きな伸びを見せている(今年11月の開催成績については、まだNARから発表されていないため著者調べ)。
岩手競馬では薄暮開催の恩恵があるのがほぼ秋の盛岡開催だけ、佐賀競馬は日本で最西端の競馬場だけにそもそも日没の時刻が遅く、イブニングレースの恩恵は晩秋から冬にかけて。いずれも期間は限定的だが、照明を設置した効果は十分にあったといえそうだ。また将来的に状況が許せば、設備的にはナイター開催も可能だろう。
今後しばらく地方競馬では状況が許す限り、ナイター・薄暮化が進むと思われる。2022年には名古屋競馬場が現在の弥富トレセンに移設され、ナイター競馬も行われる予定となっている。さて、そこまで今のような競馬の好景気は続いているのかどうか。2020年の東京オリンピック後、社会全体の景気が後退しないかも気になるところだ。