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【福永祐一×藤岡佑介】第3回『福永騎手は何故、メディアの取材から距離を置くようになったのか』

  • 2019年03月27日(水) 18時02分
with 佑

▲コラムを通じて、取材を通じて、情報発信の意義と苦悩を考え続けた福永騎手


昨年の3月までnetkeibaで、4年間にわたって連載コラム『祐言実行』を担当した福永騎手。騎手ならではのメッセージを発信し続けてきました。その役割を後進の佑介騎手らに託し、自身のコラムの終了を決断。「情報を積極的に提供するのは義務」と思ってきた福永騎手の心に変化をもたらした出来事とは? 新旧コラムニストが「騎手による情報発信」を議論します。

(取材・文=不破由妃子)


発信を辞めたきっかけのひとつはチャンピオンズC


──福永さんがダービーを勝ってから早10カ月。ダービーを勝つ前と後では、やはり気持ちの面で違いますか?

福永 当然違いますね。今は楽しんで乗りたいという気持ちが強いです。でも、こうやって「楽しみたい」とか言うと、誤解する人が多くて。

佑介 わかります。「楽をしたい」と履き違える人がいますからね。

福永 そうそう。本気で楽しむためには、それ相応の努力が必要だということをわかっている人が少なくて。「楽しむ」ということに限らず、自分の意図が上手く伝わらないこともあるけど、最近はそれでも仕方がないかなと思ってる。

佑介 なにか心境の変化があったんですか? 祐一さんといえば、netkeibaのコラム『祐言実行』をはじめ、僕たちの先頭に立って発信し続けてきてくれた代表的な存在だと思うんですけど。

福永 きっかけはひとつではないんだけど、ひとつ例を挙げれば、チャンピオンズCで負けたときに(ケイティブレイブ11着)、レース後のコメントで「直線に向くと西日が当たって、それを嫌がっている感じだった」って言ったでしょ。俺からすると、これは面白いと思って話したんだよね。なぜなら、これだけ長く馬に乗ってきて、馬が西日を気にすることを初めて知ったから。

 もちろん、それまでにも西日を嫌がって能力を発揮できなかった馬がいたんだろうけど、ケイティブレイブにはずっと乗っているからこそ気づけた。そういえばパドックや返し馬のときも様子がおかしかったなと考えたら、全部西日が直で当たるときだった。でも、そのコメントをして以来、パドックとかで「西日は大丈夫かぁ〜」とか野次られるわけで。

佑介 ジョッキーにしかわからない情報として、ファンのためにもなるだろうという気持ちで伝えたのに。

福永 そうそう。だってさ、西日が力を発揮できない要素になるって、生き物ならではじゃない? そういうことを踏まえて競馬を観たほうが面白いんじゃないかと思ってコメントしたんだけど、それを茶化されたりすると……。

佑介 「もういいや」ってなりますよね。

福永 うん。関係者だけに伝えればいいかなって思ってしまう。だって、「今日は残念でした。調子はすごく良かったし、4コーナーまでは手応えも抜群だったんですけどね」とかで済ませることもできるんだから。

with 佑

▲ケイティブレイブの生き物らしさを情報として伝えたかったけども、茶化される歯がゆさ (C)netkeiba.com


情報を積極的に提供するのは義務だと…


佑介 そうですよね。当然、そんなこともあるんやなって素直に受け止めてくれているファンもたくさんいると思います。でも、ネット上も含めて、声に出すのはそうではない人たち。そういう人たちの声が表に出てきてしまうのが今の社会なんですよね。

福永 そういうことが繰り返されると、自分が感じたことを発信する意味を感じなくなるわけよ。だって、そういう人たちには「新手の言い訳を考えたな」くらいに思われているわけでしょ(笑)。

──ジョッキーがファンに対して言い訳をする必要性はまったくないんですけどね。

福永 そうなんですよ。ケイティブレイブの話だけじゃなくて、これからの参考にしてもらえれば…というつもりでいろいろ発信してきたけど、そう受け止めてもらえないとなると、どうしても発信する意味について考えてしまいますよね。

佑介 祐一さんは十分発信してきたと思いますよ。長い間、「ファンにもっと競馬を知ってもらうためには、もっと競馬を楽しんでもらうためにはどうすればいいか」という責任感を持って。

福永 どれだけ貢献できたかはわからないけど、そうすることが責務だと思ってた。俺たちが発信する情報は、ファンにとって予想ファクターのひとつになるわけでしょ。それを加味して馬券を検討し、実際に買ってくれることで売り上げが生じる。そこから俺たちの賞金が出ているわけだから、情報を積極的に提供するのは義務だと思ってたよ。

 でも、年齢的に残されたジョッキー人生はそう長くはないわけだから、このあたりで自分が楽しむことに専念したいと思った。だから、コラムを辞めたこともそうだけど、今はメディアの取材からもちょっと距離を置いてる。ただ、誰かがやらなければいけないことだとは思うから、佑介がこうしてコラムとかをやってくれていることも大きいよ。俺はもういいかなって思えたから。

一部の人たちのせいで情報を得るチャンスを失うのはもったいない


佑介 僕もこのコラムを初めて丸3年になりますけど、今と比べて成績が伴っていない頃に始めたので、最初の頃は「なに偉そうなことを言ってんだよ」って実際に言われたこともありました。

 ただ、僕の場合は、この対談を通して自分が成長していく姿を見てほしいという思いもあって始めたことなので、逆に「今に見てろよ」と思えましたけどね。当然、祐一さんのような考えになるのもわかるし、僕自身、同じように思っていた時期もあります。でも、よく考えたら、茶化したりするのってほんの一部の人たちなんですよね。

福永 そうなんだよね。ネットでいうと、実際に書き込みをする人って人口の1パーセントくらいらしいから。

佑介 ですよね。多くの競馬ファンが情報を求めているはずですし、素直に受け取ってくれる人もたくさんいるはずなんです。それに、僕はまだ発信することを止めようと思う年ではありませんからね。だから、祐一さんのように、疲れた人たちの代わりになれればと(笑)。

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▲「茶化したりするのってほんの一部、素直に受け取ってくれる人もたくさんいるはず」


福永 うん、頼むよ、佑介。さっきも言ったけど、誰かがやらなければいけないことだと思うから。

佑介 競馬って、“点”ではなく“線”で考えないと、コンスタントに馬券を当てるのは難しいと思うんです。“線”で捉えるには、やっぱりジョッキーが発信する情報って重要で、一部の人たちのせいでその情報を得るチャンスを失ってしまうのはもったいない。

 それでなくても閉鎖的な社会なので、祐一さんの代わりになれるかどうかはわかりませんけど(笑)、僕なりに発信し続けていきたいと思っています。

──さきほどメディアとは距離を置いているとおっしゃっていましたけど、ダービーを勝ったときのように、“ここぞ”のときは取材を受けてくださるんですよね?

福永 ダービーのときはさすがに受けましたね。でも、“ここぞ”のときなんて、もうないんじゃないですか(笑)? 自分の言葉できちんと発信しなければいけないのは、あとは引退するときくらいかな(笑)。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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