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ばんえい競馬の2歳能検と今後の課題

  • 2019年04月16日(火) 18時00分

“世界で唯一”であるがゆえの人手不足


 ばんえい競馬の2019年度シーズン開幕(4月27日)を前にした4月14日、能力検査が行われた。

 地方競馬では平地の競馬でも能力検査が行われているが、平地の場合はよほどタイムが悪かったり、ゲートの中で行儀が悪かったりしない限り、ほとんどの馬にとって通過点。しかしばんえい競馬の場合、ここが運命の分かれ道で、競走馬になれるかどうかの線引きが行われる。

 昨年度、開幕前に行われた能力検査では2歳馬193頭が出走し、合格は159頭(合格率82.4%)だった。しかし今年度は2歳馬177頭が出走して合格したのはわずかに72頭。合格率は40.7%と昨年から半減。かなり厳しい数字だが、それでもこれはある程度予想された結果ではあった。

 その最大の要因は、馬場。ばんえい競馬では、シーズン前に砂の入れ替えが行われる。昨年度までは最初の能力検査のあとに砂の入れ替えが行われていたが、今シーズンは能力検査が1週遅くなったことで、砂入れ替え後の能力検査となった。同時に、冬期間は撤去されていたゴール前の砂障害(ゴール前がわずかに上り勾配となる)も設置された。

 砂を入れ替えた直後、ほとんど使用されていない状態のコースは、スキーに例えると、まったく整備されていない新雪の上を滑るようなもの。加えてゴール前の砂障害となれば、デビュー前の2歳馬にはいかにも厳しい。能力検査の第1、2レースあたりはかなり苦労しているようだった。レースが進むにつれて馬場が締まってタイムも出るようになったが、気温が上がって風も出てきた昼過ぎには馬場が乾き、後半はまた馬場が重くなったようだった。

 9頭もしくは10頭立て(最終レースだけは8頭、うち1頭が3歳馬)で20レースが行われたが、中にはゴールにたどり着けたのが出走馬中2頭で、合格したのは先着した1頭だけというレースもあるほど過酷なものだった。

喜怒哀楽

能力検査で第2障害を越えられずソリを外される馬たち



 ただ今回合格できなかった馬たちが、ばんえいの競走馬になれないかといえば、そういうわけではない。能力検査は8月までに10回行われる。今回の能力検査は、例年とはかなり異なる条件での実施となった。実際に開催が始まって馬場も落ち着き、さらに馬自身の調教も重ねれば、よほど能力の足りない馬以外は順次合格となり、頭数確保にはそれほど心配はないものと思われる。

 ばんえい競馬では数年前、2歳新馬の入厩頭数の減少が問題となっていたが、ここ何年かで、徐々にではあるが持ち直してきた。今回の能力検査では2歳馬は185頭がエントリーし、取消などがあって、実際に出走したのは冒頭のとおり177頭だが、すでに250頭近くが馬名登録されているという。昨年同時期比では20〜30頭程度増えているとのことだった。

 ばん馬(重種馬)の場合、馬の確保は食肉市場との関係が切っても切れない。一時期、食肉の価格が高騰し、競走馬として取引される重種馬より価格が高くなるという逆転現象があった。それでも現在は安価な輸入肉が流通するようになり、食肉としての価格はだいぶ落ち着いたという。

 とはいえ高齢化による生産者の廃業は続いていて、ばんえい競馬における競走馬資源の減少は引き続いての課題となっている。

 そうした中でばんえい競馬では近年、『優良2歳馬導入促進対策事業対象競走』が実施されるようになり、早い時期の2歳新馬戦では賞金とは別に、いわばボーナスが設定されている。2019年度は新馬戦26レース(実施順)に、各75万円(1着馬55万円、2着馬13.75万円、3着馬6.25万円)が支給される。これによって早い時期から2歳馬が安定的に確保されるようにもなった。

 一方で、いま直面している喫緊の課題は、厩舎の人手不足だ。厩務員が不足しているのは地方競馬全体の問題だが、ばんえい競馬では騎手も足りなくなってきている。

 ばんえい競馬では、2012年にデビューした舘澤直央騎手を最後に新人騎手がいない。その間、もちろん引退する騎手が何名かいて、今年度の現役騎手は18名。ばんえい競馬では1日1人8レースまでという騎乗制限があり、騎手の確保がギリギリだ。少し前までは1日11レース施行だったが、頭数が確保できるようになったことで、昨シーズンからは土日月開催のうち馬券が売れる月曜日だけは12レース施行となり、そうなるとさらに調整が大変。騎乗停止や病欠の騎手が複数人いれば、騎手が足りないためにレースが組めないという状況にもなりかねない。

 規模がそれほど大きくない地方の競馬場では同じように騎手不足のところもあるが、平地の場合は南関東など騎乗機会を得るのが難しい地区の若手騎手を期間限定騎手として確保することができる。地方競馬はそのしくみによってさまざまにうまく回っているという状況もある。ところが世界で唯一というばんえい競馬の場合、他の競馬場から騎手を補充することができない。試験に合格して免許が発行されないと騎手が増えることはない。それも現行のシステムでは可能性として年に一度。例えばインフルエンザなどの感染症で一度に複数の騎手が休むようなことにでもなれば、騎手不足のため開催ができないという事態が実際に起こる可能性は十分に考えられる。

 ばんえい競馬では2011年度には1日平均で約6700万円にまで売上が落ち込んだが、2018年度には同1億6500万円余りにまで回復。賞金や手当はなんとか競馬開催が継続可能な最低限のところまでは回復した。しかし厩舎関係者の待遇はとても十分とはいえない。それゆえの危機的な人手不足でもある。

 馬券の売上は回復したが、将来的なことでは馬が足りなくなる可能性が大いにあり、すでに人は足りていない。ばんえい競馬は“世界で唯一”であるがゆえ、その基盤や背景事情は脆弱で、馬や人の安定的な確保が長期的な課題となりそうだ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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