▲ゴールデングローブとS.Iさん(提供:S.Iさん)
何でもいいんです。グローブと一緒に楽しめれば…
ゴールデングローブ(競走馬名トウケイゴールド)を買い取ったS.Iさんは、以前から知っている先生のいる秦野国際乗馬クラブへと人馬ごと移動した。美容関係の仕事に勤しみながら、週に3回はグローブのもとを訪れている。
「人間に対して警戒心がない感じがしますね。私がグローブの知らない人と話をしていても、その様子を見て、あっ、この人は大丈夫なんだと感じるところがあるみたいです」
馬はこちらが思っているより、ちゃんと人間を観察している。
「真面目な馬です。障害を飛ばないことがないですし、良い子ですね」
練習や競技会で、障害を飛ぶのを拒否をする馬を時々見かけるが、グローブは必ず障害を飛んだ。だが脚元が弱く、以前屈腱炎になった左前脚以外にも不安がよく出るという。
「反対側の右前脚が痛くなったり、少し前は4本の脚全部が腫れてビックリしました。獣医さんは疲れもあるのかなと。障害を飛ぶと負担がかかるので、障害はしばらくやめることにして、馬場馬術に切り替えました」
S.Iさんは、それまで乗っていた障害用の鞍ではなく、馬場馬術用の鞍で乗る練習を始めた。
「まだ私が馬場の鞍にちゃんと乗れないんです。馬が動くと跳ね上げられてしまって、うまく座れないので、その鞍に乗る練習をしています」
障害鞍は飛ぶ時に騎乗者が前傾姿勢を取りやすいようにできているのに対して、馬場馬術は深く座っている姿勢を取ることが多いため、鞍もそうしやすい作りになっている。これに慣れるのもなかなか大変というわけだ。
「脚元が弱いのでいずれは障害を飛べなくなるのはわかっていたことですし、今、馬場馬術に挑戦するのもいいかなと。馬場も結構楽しいですよ。障害と違って馬場は飛ばなくてもいいので、怖くないですからね(笑)。障害は踏切に迷った時が怖いです。そんな時は思わず馬に聞いちゃいますもんね、どうする?って(笑)」
▲迷ったときは馬に「どうする?」って聞いちゃいます(笑)(提供:S.Iさん)
以前のクラブでは当初、全日本障害馬術大会を目指すほどだったグローブだが、馬場馬術の素質はあるのだろうか。
「(素質は)ほぼないと言われ続けてきて(笑)、でも今のクラブの先生はそんなことないよと言ってくれましたし、頑張ってくれています。クラスはまだ下の方からですけど、何でもいいんです、グローブと一緒に楽しめれば。別にオリンピックとか全日本というわけじゃないですし、特に上に行きたいわけでもないですしね。一緒になんちゃって馬場ができればいいかなと思っています(笑)」
自分の馬を持つ。乗馬を趣味にしている人や、馬好きにとって、これは憧れであり夢でもあるだろう。そしていざ馬を持ってみると、特に女性の場合は、自らの子供、あるいは家族、恋人のような存在になる。S.Iさんにとっても、グローブはそのような存在になっている。
「ウチにはチワワが3匹いるのですけど、その延長上に馬という感じですね」
犬たちのように同じ部屋にいないだけで、グローブはS.Iさんにとって大切な大切な家族なのだ。だから休日になると、ほぼ1日を乗馬クラブで費やしている。
「だいたい午前中に馬に乗って、お手入れをして、お昼ご飯を食べて、会員さんたちとおしゃべりをして、またグローブのところで遊んだり…。結果、日が暮れます(笑)」
乗るよりも馬のお手入れが好きというS.Iさんは、洗い場でおよそ1時間半かけてじっくりグローブをきれいに整える。その洗い場でグローブが苦手なのは、おしっこをすること。
「私がいるとできないんですよ。前かきを始めたら、ちょっと姿を消すんですね。すると1人でおしっこをしています。元々洗い場ではできない子で、おうちに帰らないとダメなんです。できれば外でもしてほしいなと思っているので、洗い場でおしっこをするとおやつをあげて褒めています。最近わりとできるようになりました。基本怒らず、褒める作戦ですね」
▲大切な家族と過ごせる1日はかけがえのない時間
Sさんはお手入れだけではなく、馬房掃除も好んで行っている。
「掃除の邪魔をいつもしてくるお邪魔虫です(笑)。フォークを噛んできたり、服を引っ張って『ねえねえ遊ぼうよ』になったりとか。グローブは遊びのつもりでも力が強いので、鼻で押されて吹っ飛ばされる時もありますね(笑)」
好きな食べ物は、リンゴと人参。
「私もリンゴが好きなので一緒に食べています。先に私が味見して『これおいしいね』って言ってグローブにあげて、あまりおいしくないと他の子にあげたりして(笑)。なので必ずリンゴは2種類持っているんです」
自分の馬がいるといろいろと欲しくなって、馬着や馬具などが増えていくケースもよく見聞きするが、S.Iさんも例外ではない。
「以前いたクラブのレンタル馬の時から一式揃えています。ゼッケンやイヤーネットはじめ、グローブのものには一通り刺しゅうで馬名を入れています。馬着も着せ替え人形ですよね(笑)。ヨーロッパのサイトで買うと安いんです。馬着は10着にいくかいかないかくらい持っています。ゼッケンやプロテクターも、これ似合いそう! とかいって買っちゃいますね」
仕事と馬中心の日々は充実している。だが時には息抜きをしたいという気持ちが芽生えることもある。
「たまに温泉とか旅行に行きたいなと思いますね。以前『温泉行きたいんだけどな。行ってきてもいい?』とグローブに聞いたら、ハッという感じで振り向いて『何だ?』みたいな表情をしたので『あー、わかった。行くのやめよっか』というふうになりました(笑)」
以前在籍していた乗馬クラブのレンタルホースから、S.Iさんの愛馬となったゴールデングローブことトウケイゴールド(競走馬名)。馬の運命は、出会った人によって決まると言っても過言ではない。S.Iさんと出会い、彼女の愛情をたっぷりと受けたグローブは、穏やかに第二の馬生を過ごしている。
「脚が弱いので、今後はなるべく痛くならないようにしてあげたいですね。そしていずれは養老牧場で過ごさせてあげられればと思っています」
4月13日に誕生日を迎えたばかりのグローブは、まだ9歳と若い。しばらくはSさんと二人三脚で、新たに挑戦中の馬場馬術を楽しみながら頑張っていくことだろう。
▲▼グローブのお誕生日。S.Iさんからのすてきなプレゼント(提供:S.Iさん)
(了)