芝とダートの「二刀流」で活躍しうる血統背景
飼料添加物「グリーンカル」の影響を受け、直前の函館スプリントSは13頭のうち6頭もが競走除外になる残念なレースになったが、ユニコーンSの競走除外馬は、サトノギャロス、ロードグラディオの2頭にとどまり、通常に近いレースが行われた。
勝ったワイドファラオ(父へニーヒューズ)は、史上初の「ダート初出走」での重賞勝ち馬となると同時に、秋の中山1800mで行われた当時を含め、史上初めて「芝の重賞勝ち馬」のユニコーンS制覇でもあった。
ダート初出走ながら堂々と逃げ切ったワイドファラオ(写真右、撮影:小金井邦洋)
ダートの勝ち時計は馬場コンディションに大きく左右されるが、ここまでこの重賞(東京ダート1600m)を「1分35秒台」で勝った馬は7頭。早期に引退した2008年のユビキタス以外の6頭は、のちにもダート路線の重要レースの勝ち馬となり、2018年ルヴァンスレーヴ、2016年ゴールドドリーム、2015年ノンコノユメ、2003年ユートピアの4頭はGI(交流競走を含む)の勝ち馬となっている。
芝もOK、ダートなら一段と粘り強さが発揮できるワイドファラオは、幅田オーナーが「このあと、どっちのレースに出走したらいいのか…」と、うれしい悩みを口にするほどだった。
ファミリーには、芝の重賞好走馬もいれば、ダート重賞の快走馬も複数いる。父ヘニーヒューズ(その父へネシー)の産駒も、幅広く発展するStorm Cat系らしく、芝もダートもこなせる産駒が多い。
4月のニュージーランドT(中山芝1600m)を制した当時512キロだった馬体は、季節もあって今回は498キロ。春はボテッとした印象がなくもなかったが、今回は明らかにシャープに映った。1600m-2000m級を中心にさらに活躍する。
レースの前後半は「45秒8-49秒7」=1分35秒5。前半1000m通過「58秒4」は、改修前のダートも含め史上2番目の厳しいペースだった。ましてワイドファラオは逃げ切りなので、快速系ダート重賞勝ち馬誕生である。快速のダート巧者といえば、同じ福永祐一騎手で2005年のGIフェブラリーSを逃げ切ったメイショウボーラー(父タイキシャトル、母の父Storm cat)のイメージだが、メイショウボーラーと、「Haloの父系、Storm Catの父系の組み合わせ」を逆にしたのがワイドファラオである。
2着デュープロセス(父ダイワメジャー)は、同タイムの1分35秒5。アタマだけ勝ち馬に及ばなかったが、これでダート【4-2-0-0】。上がり36秒5は最速だった。
ほぼ互角のスタートだったが、前半は先団グループから一歩引き中団の7-8番手あたりを追走。M.デムーロ騎手の巧みなところは、3歳馬だから砂をかぶり続ける不利を避けるため、空いていた内を避け向こう正面で外に回った。この周到な判断により、4コーナーを回って外からスムーズな追撃態勢を取れた。
祖母Short Skirt(父ディクタット)の半姉には、輸入されてアサクサデンエン、ヴィクトワールピサ兄弟の母となったホワイトウォーターアフェアがいる。勝ったワイドファラオが二刀流なら、このデュープロセスも、母方を考えるとダートに限らず芝もOKかもしれない。
1番人気のデアフルーグ(父べーカバド)は、7着に凡走してしまった。芝スタートでも出負けすることなく前走大接戦だったデュープロセスの直後。ただ、今回こちらは終始外から進出してきた馬にプレッシャーを受ける形になった。
前走は最内を衝く勝負強さをみせたが、青竜Sはインが空いていた。決してデキは悪く映らなかったものの、青竜S激走の目に見えない疲れがあったかもしれない。同じオーナーの所有馬にオーヴァルエース(ダート3戦全勝)がいるので、春のローテーションの組み方も難しかったのだろう。直線、追い出したところで反応がなかった。
先手を取りたかったダンツキャッスル(父ルーラーシップ)は、芝からのスタートのためかダッシュもう一歩。ダート2勝はともに逃げ切りなので非常に苦しい展開だったが、ゴール前盛り返すように3着。これでダート【2-1-1-0】。1-2着馬には3馬身も離されたが、これからしぶとく成長するタイプ。同馬を含め3着以下のレベルも少しも低くはなかった。