この牝系なら、実績不足は死角にならない
ジャパンCが創設されたころ、多くのファンの海外のビッグレースに対する注目が高まった。輸入種牡馬がどんどん増えた時期でもある。1982年、第2回ジャパンCの2着馬は、フランスの3歳牝馬オールアロングだった。父ターゴワイスはすでに輸入され、1981年から日本で供用されていた。オールアロングは4歳の翌1983年、凱旋門賞を快勝している。
そのときの2着が3歳牝馬サンプリンセスだった。その父イングリッシュプリンスも、1981年からの日本の輸入種牡馬になる。春の英オークスを勝ったサンプリンセスは、そのとき3戦目。なんと未勝利馬だった。それなのに大差で勝っている。
しばらくして、1996年の日本ダービーを勝ったのは、デビューしてわずか3戦目のフサイチコンコルド。2歳戦が組まれるようになった1946年以降、キャリア2戦の馬が勝ったのは初めて。数々のデータを粉砕する歴史的な快挙だった。
フサイチコンコルドの母バレークイーン(父サドラーズウェルズ)は、サンプリンセスの産駒だった。祖母と同じ3戦目の快挙である。フサイチコンコルドの半弟ボーンキングも3戦目に2001年の京成杯を制して評価を上げた。さらにその弟のアンライバルドは、実績不足とされながら、5戦目に2009年の皐月賞を制している。
また、07年の皐月賞を人気薄で制したヴィクトリー(祖母バレークイーン)は、そのとき史上最少出走タイの4戦目だった。
輸入されたバレークイーン(その母サンプリンセス)の一族は、キャリア不足でも、実績は乏しくとも、素質全開の大仕事をするファミリーとなった。
今秋の秋華賞の伏兵エスポワール(父オルフェーヴル)は、3代母がバレークイーン。4代母になるのがサンプリンセス。もう魔法のような快挙は達成できないかもしれない。今回が初オープン。それでいきなりGI挑戦。「穴人気買うべからず」の金言が当てはまりそうな気もするが、デビュー当時よりひと回り身体が成長し、休み明けの2走前も着差以上の完勝(上がり33秒1)なら、重馬場の前回も実にパワフルな圧勝だった。この牝系なら、実績不足を死角にしなくていいだろう。
未完成で激走するため、フサイチコンコルドを筆頭に活躍期間の短い一族の印象はあるが、サンプリンセスは6戦目に秋の英セントレジャーを制している。つづく凱旋門賞を2着し、翌年の26頭立ての凱旋門賞は9着にとどまったが、人気のサドラーズウェルズが8着、のちにサクラローレルの父となるレインボークエストは、この年は18着だった(翌1985年にサガスの降着で1着)。
重馬場で上位に入れなかった馬の凱旋門賞着順は(やめているので)あまり意味を持たない。サンプリンセスは通算【3-4-1-2】。3勝はすべてGI。早い時期に快走しただけの牝馬ではなかった。
オルフェーヴル産駒のエスポワールはここまで【3-1-1-0】。いま本物になりかけたばかり。これから本物となる秋シーズンを迎えている。