群馬県太田市にある「秋吉ファーム」(秋吉ファームFacebookより)
牧場のオーナーは元俳優!?
引退馬を預託したい人と受け入れ施設を繋ぐ「引退馬預託施設INFO」。前回このサイトに紹介されているのは28施設と書いたが、秋田県のあきた乗馬クラブが新たに加わり、29施設となった。
このコラムを連載するようになってから、全国の引退馬繋養施設について日々情報を集めているが、このサイトの中には初めて知った施設、あるいは存在は知っていたが、まだ取材をしたことのない施設が紹介されていた。関東地区の群馬県太田市にある秋吉ファームも、そのような施設の1つだ。ファーム代表の秋吉信人さんとはFacebookで繋がっていて、かねてから気になっていたので、電話で取材をした。
「ウチはそんなに綺麗という場所ではないんですけど(笑)、馬だけは幸せというところです」
電話の向こうの秋吉さんは、実に気さくで明るかった。
「乗馬クラブではないので乗る場所はあまりないのですけど、その分放牧地が広いんですね。畑で青草も栽培していて、1年中青草を食べることができます。関東でこれだけ放牧場や青草のあるところはないよと皆さんに言って頂くのですけど、ウチとしてはそれが普通だったので、そうなのかな〜という感じですね(笑)」
1年中青草を食べられるという、馬にとってはたまらない環境(秋吉ファームFacebookより)
その秋吉さん、以前は俳優を生業にしていた。それが今では牧場の代表。なぜ? と疑問が頭をもたげてくる。
「俳優をしていた20代の頃、大河ドラマに出るというので、俳優仲間と一緒に習いに行ったのが乗馬を始めたきっかけでした。その後は、大河ドラマの撮影用の馬に関わったりして、まあいろいろ渡り歩いて何だかんだやっているうちに、この牧場のオーナーと一緒にやろうという話になりました」
足利競馬場が近くにあった関係で、競馬場が閉鎖するまでは足利の馬たちの休養、育成の牧場だったという。
「この牧場自体は昭和40年頃にできたと聞いていますので、50年ほどの歴史があります。僕がオーナーと一緒にやり始めたのが10年くらい前ですね。オーナーが競走馬で、僕が乗馬を担当していました」
そのオーナーが亡くなったのを契機に、秋吉さんが牧場を引き継ぐことになった。
「馬も残されていましたので、そのまま引き継いで5年ほど経ちます。馬房は50ほどあるのですが、僕1人なので受け入れられるのは10頭前後ですね」
秋吉ファームの特徴は長期での預かり以外に、短期での預託を受け付けているということだ。
「競馬場では青草を買って食べさせているのですが、買うよりもウチに2週間でも放牧に出して青草を食べさせた方が経済的だということで放牧に来る馬もいますし、最短で1日というのもありますね(笑)。例えばレースで走って精神的にカリカリした状態でウチに来て、1泊して落ち着いてから別の場所に移動するという感じですよね。ウチに来るとなぜか皆落ち着いてしまうので、いわばガス抜きをさせるような感じで入ってくるケースが結構ありますよ。競馬や乗馬から上がってきた馬で、骨と皮だけみたいなガリガリの馬も来たりしますが、半年ほどいるとバーンと膨らみます。そういう状態になってから、自分が通いやすい施設に移動させる場合もありますね」
1年中生えているという青草をたっぷりと食し、放牧地で伸び伸びと過ごして、生まれ変わったように新天地へと移動していく。いわば秋吉ファームは、馬の再生牧場ともいえるだろう。
なかには1日だけ放牧にくる馬も!?(秋吉ファームFacebookより)
一方、馬といえば北海道。馬産地日高は、それこそ広々とした放牧地があり、馬たちにとっては理想の地にも思える。日高地区以外も含めて、北海道からは11施設が記載されており、その中には、このコラムでも紹介させていただいた浦河町の(有)渡辺牧場とうらかわ優駿ビレッジAERU、新冠町の明和牧場、新ひだか町の本桐牧場と荒木牧場、日高町のヴェルサイユリゾートファーム、岩内町のNPO法人ホーストラスト北海道が含まれている。
コラムで取り上げていない牧場で気になっていたのが、2002年の中山金杯(GIII)を勝ち、2005年の天皇賞・春(GI)で2着に入ったビッグゴールドが繋養されている静内杉下牧場(旧・静内坂本牧場)だった。この牧場は生産を続けながら養老馬の繋養も行っているのだが、なぜ養老馬を受け入れるようになったのかを知りたくて、静内杉下牧場にも電話を入れてみた。
(つづく)
認定NPO法人引退馬協会
https://rha.or.jp/index.html 引退馬預託施設INFO
https://rha.or.jp/yotaku_info/index.html