▲競馬小説『ザ・ロイヤルファミリー』の制作に協力した川島信二騎手 (C)netkeiba.com
10月30日に新潮社から上梓された競馬小説『ザ・ロイヤルファミリー』。競馬ファン歴30年の小説家・早見和真氏が5年の歳月を費やして、生産者、馬主、調教師、騎手……数々のホースマンに取材を重ねた大作です。
昨日の作者インタビューに続き、今回は構想段階から制作に協力してきた川島信二騎手が登場。川島騎手の助言が実際に活かされたシーンや、現役騎手の視点からのお気に入りシーンなど、制作の舞台裏を語ります。
【作品紹介】
継承される血と野望。届かなかった夢のため――子は、親をこえられるのか? 成り上がった男が最後に求めたのは、馬主としての栄光。だが絶対王者が、望みを打ち砕く。誰もが言った。もう無理だ、と。しかし、夢は血とともに子へ継承される。馬主として、あの親の子として。誇りを力に変えるため。諦めることは、もう忘れた――。圧倒的なリアリティと驚異のリーダビリティ。誰もが待ち望んだエンタメ巨編、誕生。 (取材・構成=不破由妃子)
自身が騎手で叔父が馬主、その背景でつながった縁
──競馬界における血の継承を描いた『ザ・ロイヤルファミリー』が、10月30日に新潮社から上梓されました。作者である早見和真さんに執筆過程など詳しく伺ったのですが、川島さんは構想段階からご協力されたそうですね。まずはそこに至った経緯を教えていただけますか?
川島 知り合いの記者さんから、「早見和真さんという小説家が、競馬を題材にした物語を書きたいとのことで、協力してもらえないか」と連絡をいただいたのが最初です。それで、連載が始まる前に、新潮社さんで初めて早見さんにお会いして。
──その時点で川島さんに白羽の矢が立ったのは、どういった理由だったのでしょうか。
川島 僕の叔父(佐々木完二オーナー)が、インパルスヒーローやベルルミエールを所有していた馬主だったことが大きいと思います。もともと、ジョッキーの話も馬主の話も聞けるような、そういう人物を探していたみたいで。
すでに叔父は亡くなっていたんですが、叔父の息子(佐々木政充オーナー)、僕にとっては従兄弟になりますが、その彼も一緒に取材を受けました。
▲左から早見和真氏、川島騎手、梶原守人氏、佐々木政充オーナー(提供:川島信二騎手)
──その取材をきっかけに、連載が始まってからも毎月原稿をチェックされていたとか。
川島 はい。毎月読ませていただいてました。競馬についてものすごく詳しく書かれていたので、僕が口を挟んだり、何かを指摘するようなことはなかったですけど。
僕だけではなく、僕の知り合いの競馬関係者も読んでくれていたので、毎月、彼らの感想もまとめて早見さんに伝えていましたね。
──毎月やり取りするなかで感じた、早見さんのこだわりは?
川島 本のなかでもたくさん出てくるフレーズですが、やっぱり“継承”を物語として描くこと。主人公たちと競走馬たちの血のドラマにいろんな人間がかかわって、思いや血が継承されていくという。それがすごく丁寧に描かれていたと思います。
──確かに全編を通して、その早見さんのこだわりが貫かれていたように思います。ご自身が取材でお話されたことが生きたなと思う印象的なシーンはありますか?
川島 父から息子に代替わりするエピソードで、「相続馬主」という制度が出てくるんですけど、さきほどお話した叔父が急逝したときの実体験をお話したんです。
一緒に取材を受けた僕の従兄弟は、馬主の息子といっても、個人馬主登録の要件を満たしていない。そんななか父親が急逝して、当然、馬の行く末を心配しますよね。
そこで(ベルルミエールを管理していた)高橋亮先生やJRAの職員さんにいろいろ伺ったところ、どうやら「相続馬主」という制度があると。もちろん最初から盛り込む予定だったのかもしれませんが、もしかしたら書いてくれたのかなぁって。
▲川島騎手の手綱で新馬戦を勝利した際のベルルミエール (C)netkeiba.com
▲叔父の愛馬での勝利に笑顔の川島騎手 (C)netkeiba.com
何より競馬を美しく書いてくださったのがうれしい
──そのほか、現役のジョッキー目線で印象に残ったシーンは?
川島 やっぱりレースのシーンですね。臨場感がすごくあって、騎手の目線から見ても何の違和感もない。むしろ、読んでいるこっちがワクワクするくらいでしたよ。よく文字だけでここまで伝えることができたなって思いました。
──現役ジョッキーをもワクワクさせる競馬小説。早見さんにとっては何よりの褒め言葉であり、ファンにとってはこれ以上訴求力のある言葉はないかもしれません。
川島 嘘がないし、こんなに美しい物語はありませんからね。牧場の風景描写もすごく美しくて、目をつむったら風景が浮かび上がってくるようでした。競馬場の空気感もリアルで、ホントにその現場にいるような感覚になりましたしね。
物語自体が面白いのはもちろんですが、何より競馬を美しく書いてくださったのがうれしくて。
──そうですね。でも、華やかさや美しさだけではなく、現実もきちんと描かれていて。
川島 そうそう、引退馬のその後のことにも触れてくれていて…。そこは気持ちがないと書けない部分であり、そういう現実にも目を向けることができるのは、早見さんの力だと思います。
──ちなみに、川島さんのお気に入りの登場人物は?
川島 ほんの一瞬しか出てこないんですが、「大平騎手」。寡黙で営業下手で…みたいな人なんですけど、なんかいいなって。
──もしかして、ご自分と重ねたり?
川島 いえいえ、そういうわけじゃないです(笑)。なんていうのか、「あ、こういう人いる!」っていう感じでね。華やかな騎手ばかりではなく、そういう職人肌的な騎手もいるということを少しでも入れてくれたあたり、なんか早見さんらしいなって。
──早見さん、「たぶんもう競馬の小説は書かない」とおっしゃってました。それくらい書き切ったと。
川島 そうでしょうねぇ。本当に大変だったと思います。なにしろ、関係者が読んでいても「?」となる部分がないですもん。違和感が一切ない。小説の題材にするには、競馬ってホントに難しいと思うんです。でも、よくぞここまでというくらい細かく、そして美しく綴ってくださった。競馬界の人間としては、本当にありがたいなって思います。
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