これまでの歴史を振り返る
先週の本コラムで、『(NARグランプリ)4歳以上牝馬では、(中略)グランダム・ジャパン古馬シーズン女王となったクレイジーアクセルが、明日(12月11日)のクイーン賞JpnIIIの結果次第では候補として浮上してくるかもしれない』と書いたが、まさにそのクレイジーアクセルがクイーン賞を見事に逃げ切って見せ、ダートグレード初制覇を果たした。すでに枠順が出ているJpnIIの名古屋グランプリには牝馬の出走がなく、GIの東京大賞典にも牝馬の登録がないことから、クレイジーアクセルが4歳以上最優秀牝馬に選出される可能性がかなり高くなった。
そして気がつけばグランダム・ジャパンは今年でちょうど10年目。2歳シーズンは最終戦の東京2歳優駿牝馬を残しているが、それを待っていると年が明けてしまうので、ここまで10年のグランダム・ジャパンを振り返ってみたい。
まずは3歳シーズンから。以下が優勝馬一覧(所属は、対象レース最終出走時の所属地)。
10 笠松・エレーヌ
11 兵庫・マンボビーン
12 兵庫・メイレディ
13 笠松・エイシンルンディー
14 兵庫・トーコーニーケ
15 兵庫・トーコーヴィーナス
16 船橋・クラトイトイトイ
17 大井・ステップオブダンス
18 川崎・ゴールドパテック
19 浦和・トーセンガーネット
まず所属地の規則性が興味深い。笠松・兵庫・兵庫という順番を2度繰り返したあと、近4年は南関東が続き、その南関東では4場で一度ずつ優勝を分け合っている。
古馬シーズンも含めてだが、東海・兵庫に優勝馬が多いのは、立地的に遠征しやすい範囲に対象レースが多いことが挙げられる。また3歳シーズンの優勝賞金400万円は、これらの地区の重賞の1着賞金と比較しても魅力的。それゆえ当初から東海・兵庫では本気でグランダム・ジャパンのタイトルを目指している馬が目立つ。
一方で有利なのは南関東。牝馬三冠がすべてシリーズに組み込まれており、三冠で上位を狙える馬は、目指していなくとも結果的にグランダム・ジャパンでも上位に入る。
特に近3年はいずれも他地区に遠征することなく、グランダムの対象レースとしては南関東牝馬三冠しか出走していない状況での優勝だった。今年のトーセンガーネットこそ三冠で1着・1着・3着と圧倒的に強かったが、昨年のゴールドパテックは7着・3着・2着、一昨年のステップオブダンスは5着・3着・3着と、シリーズで勝ち星がなくとも優勝となった。
これは2017年から導入された最終戦のエクストラポイントの影響も大きい。最終戦の関東オークスで上位に入り、それが地方馬最先着であれば、それだけでかなりのポイントが稼げるからだ。実際、この3頭は関東オークスで地方馬最先着だった。もちろん南関東以外の馬でも関東オークスで最先着すればかなり優勝が近くなるのだが、遠征に加えてJRA勢が相手となるとやはりハードルが高い。
そうした中で異色の存在は16年の船橋・クラトイトイトイ。南関東牝馬三冠いずれにも出走せず、グランダムのタイトルを目指して遠征を続け、名古屋・若草賞1着、名古屋・東海クイーンC1着、園田・のじぎく賞2着という成績で優勝。同じ3レースに出走した高知・ディアマルコはそれぞれ2着、2着、1着と、2頭で1・2着を分け合うという一騎打ちだった。
続いては古馬シーズン。
10 兵庫・キーポケット
11 笠松・エーシンクールディ
12 笠松・エーシンクールディ
13 船橋・アスカリーブル
14 船橋・アスカリーブル
15 北海道・サンバビーン
16 兵庫・トーコーヴィーナス
17 大井・ララベル
18 高知・ディアマルコ
19 大井・クレイジーアクセル
古馬シーズンでも3歳シーズンと同じように東海・兵庫地区の活躍が目立つが、近年では南関東所属馬へという推移が見て取れる。総合3位までの所属を見るとその傾向はさらに顕著で、10〜12年の3年間の3位以内9頭では東海・兵庫が6頭に対して南関東はゼロ。13〜16年の3位以内12頭では東海・兵庫3頭に対して南関東4頭とほぼ互角。そして17〜19年の3位以内9頭では、大井所属馬がなんと7頭を占め、東海・兵庫はゼロ。ここでもやはり、17年に導入された最終戦のエクストラポイントが地元南関東勢に有利に働いているようにも思える。
なお北海道所属馬の優勝は15年サンバビーンだけだが、それ以外にも2位3回、3位2回と、立地的にかなり不利であるにもかかわらず健闘が目立つ。
連覇は、見てのとおりエーシンクールディとアスカリーブルだが、トーコーヴィーナスは15年3歳シーズンからの2年連続優勝だった。なお3歳馬も古馬シーズンに挑戦できるが、ここまでのところ3歳馬による古馬シーズン優勝はなく、10年の3歳シーズンを優勝したエレーヌが同年の古馬シーズンで2位、16年の3歳シーズン2位だったディアマルコが同様に3位という記録がある。
最後は2歳シーズン。
10 船橋・クラーベセクレタ
11 大井・ショコラヴェリーヌ
12 笠松・カツゲキドラマ
13 北海道・カクシアジ
14 愛知・ジュエルクイーン
15 川崎・モダンウーマン
16 川崎・アップトゥユー
17 北海道・エグジビッツ
18 大井・アークヴィグラス
19 ??・?????
北海道の優勝がカクシアジ、エグジビッツの2頭と少ないように思えるが、ほかにクラーベセクレタ、ジュエルクイーン、モダンウーマン、アップトゥユー、アークヴィグラスを含めると優勝馬9頭中7頭がホッカイドウ競馬のデビュー馬で、やはり2歳馬は北海道が圧倒的。最終戦の東京2歳優駿牝馬は、ホッカイドウ競馬のシーズンが終了して1カ月半ほどもあとのことになるので、所属の違いは移籍するタイミング次第ということになる。
ポイントの高いエーデルワイス賞、東京2歳優駿牝馬の勝ち馬が有利なように思えるが、意外なことにそうでもない。昨年までの9年間でエーデルワイス賞を制した地方馬は4頭(いずれも北海道)だが、そのうちグランダム・ジャパンでも優勝したのは昨年のアークヴィグラスだけ。東京2歳優駿牝馬を勝って優勝したのも、クラーベセクレタ、モダンウーマン、それにアークヴィグラスの3頭だけ。なお昨年のアークヴィグラスは、この2戦を制したほかローレル賞も制しており、対象レース3戦に出走して全勝と、圧倒的な成績での優勝だった。
北海道所属として優勝した13年カクシアジは、園田プリンセスC、プリンセス特別(笠松)、プリンセスC(水沢)で勝利、17年エグジビッツは、金沢シンデレラC、プリンセスC(水沢)で勝利と、遠征しての活躍で優勝。ホッカイドウ所属馬の場合、地元で頂点を狙うにはやや力不足だが、他地区に遠征してグランダム・ジャパンのタイトルを狙うという馬も少なくない。