【有馬記念】もっと強くなるとき、広がる世界が見える
真のチャンピオン決定戦
例年以上にチャンピオンの揃った今年は、年末のグランプリにとどまらず、チャンピオン決定戦に近い。断然の支持を受ける牝馬アーモンドアイの最大の魅力は、もうGIを6勝もしているのに、まだ頂点を極めた印象がないこと。国枝調教師も、ルメール騎手も「本当の強さはもっと高いところにある。まだ、奥がありそうに思える…」。そういう予感が最大の自信につながっている。
限定戦を別にした、秋の芝の古馬3冠は「天皇賞(秋)、ジャパンC、有馬記念」。長い歴史の中、伏兵としての快走ではなく2000年以前にこれらのビッグレースを1番人気で制した牝馬は、まだ競走馬資源が極端に乏しかった当時の、1938年の天皇賞・秋(当時は帝室御賞典)を勝ったヒサトモ1頭だけ。ヒサトモは1993年の有馬記念を制したトウカイテイオーの6代母。
ところが、日本馬のレベルが上がり、「強い牝馬」の時代が訪れた21世紀になり、ウオッカが「天皇賞(秋)とジャパンC」、ブエナビスタが「天皇賞(秋)」、ジェンティルドンナが「ジャパンC」、ダイワスカーレットが「有馬記念」を1番人気で勝っている。
そして出現したのが現在のアーモンドアイ。1番人気で3歳時にジャパンCを圧勝し、4歳の今秋は天皇賞(秋)も完勝している。もし、有馬記念を制するなら、3歳時の牝馬3冠に続き、牝馬としては歴史的な「秋の古馬3冠対象レース全制覇」も達成することになる。もっとも高い支持を受け、真の実力馬として。
高い支持を受けたからといって、さすがに至難は至難。強敵は多い。でも、驚異のレコードは別にして、3歳秋の時点でジャパンCを圧勝したのは、1998年、同じ7戦目に、2馬身半差で完勝したエルコンドルパサー(のちに凱旋門賞少差2着)と同格ランクであり、陣営が凱旋門賞を展望したのは当然だった。
アーモンドアイは、ちょっと控えすぎた新馬戦と、スタートで挟まれる不利を受けた安田記念を負けているが、まだ他馬に交わされたことは一度もない。上がり3ハロン平均は計測なしのドバイを別に「33秒6」。今回の16頭の中にほかに平均33秒台の馬はいない。
ゴール前、まだいっぱいの脚色になったことがない。細面の少女なのに、エンジン全開になると鼻の穴がラッパのように広がる。それが大きな排気量を生み、ジャパンCや天皇賞(秋)のような先行策をとっても簡単にはバテない。差されない。
残念ながら、今年の凱旋門賞は断念、香港遠征も中止になったが、逆に活力は保たれた。有馬記念制覇が達成されるとき、史上最多タイのGI7勝。歴史的名馬となるが、陣営はこれで目標達成などとは考えていない。だから、引退の話は出てこない。まだ4歳。もっと強くなるとき、さらに広がる世界が見える。アーモンドアイの可能性に期待したい。
強力な牝馬の時代。GIを連勝中のリスグラシューを筆頭に、打倒アーモンドアイを期するライバルは多い。人気を考慮しての相手妙味は、やっと本物になったスワーヴリチャード、タフな底力勝負歓迎のキセキ、意外性こそが真価、ステイゴールドの1勝馬エタリオウ。怖い3歳馬のなかでは、もっとも人気薄のヴェロックス。