スマートフォン版へ

勢い止まらず、川崎・高月賢一厩舎

  • 2020年01月21日(火) 18時00分

逆境をはねのけて活躍を見せた川崎所属馬


 NARグランプリの表彰馬・表彰者が発表され、年度代表馬にはJBCスプリントを制したブルドッグボスが選ばれた。管理する小久保智調教師にはこれがJpnI初制覇となり、殊勲調教師賞を受賞。また最優秀賞金収得調教師賞も2年ぶり5度目の受賞となった。昨年稼いだ賞金7億9千万円余りは、2010年に川島正行調教師が記録した6億6千万円余りを上回り、地方競馬における収得賞金レコードを更新ともなった。

 そして昨年、地方馬によるJpnI制覇はもう1頭、川崎のヴァケーションが全日本2歳優駿を制した。NARグランプリでは2歳最優秀牡馬に選出され、管理する高月賢一調教師も殊勲調教師賞に選ばれた。

 高月調教師には、ダートグレード初勝利がJpnIのタイトルとなったのだが、それにしても昨年秋以降の活躍が際立っていた。10月22日の鎌倉記念(川崎)をデビューから4連勝でインペリシャブルが制すると、翌週10月30日の平和賞(船橋)ではヴァケーションが圧勝。全日本2歳優駿にはその2頭で臨み、ヴァケーションが見事に制して見せた。

 その昨年秋は、日本列島に甚大な被害をもたらした台風19号の影響で、多摩川の河川敷にある川崎競馬の調教コースが冠水。10月中旬から1カ月以上に渡って使用不能になり、川崎所属馬は川崎競馬場に輸送しての調教が強いられた。鎌倉記念、平和賞は、まさにその時期にあたり、そうした逆境をはねのけての活躍だった。

 高月厩舎の勢いはさらに年明けも続き、1月15日、浦和・ニューイヤーCを大差で圧勝したグリーンロードも同厩舎の管理馬だった。当日は昼過ぎまで雨が降ってタイムの出やすい重馬場だったこと、また「追う必要もなかったんですが、今後クラシックで強い相手と戦う意味でも気合をつけました」(森泰斗騎手)ということもあり、勝ちタイム1分40秒0は、63回の歴史を数えるニューイヤーCのレースレコード(1600mでの施行は1961年の第4回から)。さらに、浦和1600mの3歳重賞にはほかに桜花賞があるが、その勝ちタイムを見ても、今回のグリーンロードより速い勝ちタイムはこれまでたった一度(2005年ミライによる1分39秒5・不良)しかない。

 そしてその高月厩舎の活躍とも一部リンクするのだが、近年、南関東の重賞戦線での活躍が際立っているのが、浦河の山口ステーブルの育成馬だ。前出、ヴァケーション、グリーンロードに、昨年大晦日の東京2歳優駿牝馬を制したレイチェルウーズ(船橋・林正人厩舎)も山口ステーブルの育成馬だった。

 山口ステーブル育成馬による南関東での重賞初勝利は2008年鎌倉記念のノーステイオーだが、活躍が目立ってきたのは、2013年東京ダービーをインサイドザパークが制したあたりから。2015年にもラッキープリンスで東京ダービーを制し(このときは2着パーティメーカーとワンツー)、これまで育成馬による南関東の重賞勝ちは30を超える。育成牧場は競馬新聞やデータに記録されるわけではないので一般にあまり目立つことはないが、山口ステーブル代表・山口裕介氏の馬主名義となっている馬も少なくない。

 制した回数では、鎌倉記念5回、ニューイヤーC3回、東京2歳優駿牝馬、戸塚記念、クラウンC、前述東京ダービーがそれぞれ2回など。2歳・3歳の重賞での活躍が際立っている。そのほか浦和・小久保智厩舎の管理馬で、2014年兵庫ジュニアグランプリを制したジャジャウマナラシや、2018・19年オーバルスプリント連覇のノブワイルドもそうだ。

 代表の山口裕介氏は、「育成牧場としての誉れは2歳戦。ちゃんとデビューして、ちゃんと競馬して、年内勝ち上がりにこだわりたい。それがいかに難しいかわかっているだけに、2歳戦にこだわりたい」と語る。そうした明確な目標を持っての、2歳・3歳重賞での活躍だ。

 さらに昨年の全日本2歳優駿ではヴァケーションが勝ったというだけでなく、アタマ差2着だったJRAのアイオライトも山口ステーブルの育成馬だった。実は育成馬の中にはJRAのジョーカプチーノ(2009年NHKマイルCなど)、ミツバ(2019年川崎記念など)など活躍馬がいるが、「南関東で2歳の頂点を目指してきたので、全日本2歳優駿でのワンツーは、ほんとうにうれしかった」と山口氏は話していた。

全日本2歳優駿を制したヴァケーション。馬の左隣が高月賢一調教師。左から3人目が山口裕介氏


 さて、高月厩舎の話に戻ると、今年の南関東クラシック戦線での動向が気になるところ。全日本2歳優駿で11着に沈んだインペリシャブル(念のため、この馬は山口ステーブルとは無関係)は短距離路線を目指すとのこと。ニューイヤーCを制したグリーンロードは京浜盃を予定。そして2歳ダートチャンピオンとなったヴァケーションは現在、山口ステーブルで休養中。復帰は、京浜盃になるか、南関東一冠目の羽田盃直行になるか、とのことだった。

 4月29日の羽田盃から、東京ダービー(6月3日)、そしてジャパンダートダービー(7月8日)へと続く南関東三冠戦線。さらに3歳の短距離路線では優駿スプリント(6月23日)。今年は川崎・高月賢一厩舎の馬たちを巡る争いとなるかもしれない。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング