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【四位洋文騎手・引退特集】「アグネスデジタルとモズアスコット 両調教師の共通点が二刀流の鍵」/第1回

  • 2020年02月18日(火) 18時01分
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▲芝・ダートでGI6勝を挙げたアグネスデジタル (撮影:下野雄規)


2/29の阪神開催で、30年に及ぶ騎手生活にピリオドを打つ四位洋文騎手。当日の最終レース後に、引退式が行われることも発表されました。netkeibaでは全3回の「四位洋文騎手・引退特集」を実施します。

初回の今回は、四位騎手が騎乗した名馬を振り返ります。今週末に行われるフェブラリーS。芝のGI馬、モズアスコットの参戦が注目されていますが、元祖オールラウンダーといえばアグネスデジタルです。

アグネスデジタルはどうして二刀流として成功したのか? デジタルを管理した白井調教師、モズアスコットを管理する矢作調教師の共通点に、そのヒントがあるようです。

(取材・構成=不破由妃子)


素晴らしい馬だったのはもちろん、面白い馬でした


──今週はいよいよフェブラリーSです。前走初ダートの根岸Sを制したモズアスコットの挑戦が注目を集めていますが、オールラウンダーといって真っ先に思い浮かぶのは、やはり芝・ダートでGI6勝を挙げたアグネスデジタルです。四位さんはGI5勝含む16戦でコンビを組んだわけですが、改めて、あの馬の強さというのはどこにあったと思われますか?

四位 とにかく無駄なことは何もしない馬でしたね。普段もそうだけど、競馬でもゴール板を過ぎたら自分で勝手に止まるし。ホントにエコですよ、エコ(笑)。当然、エンジンもいいものがあったけど、やっぱり強さの源はあの気性だったのかな。トップクラスの馬で、あんなにおっとりした馬は珍しいですからね。

──GIとなると、目一杯仕上げるぶん、当日はピリピリしている馬も少なくないと思いますが、デジタルの場合「今日はちょっとうるさいな」とか、レース前に心配になったことは一度もない?

四位 うん、一度もないです。逆におとなしすぎて心配になることは多々あったけど(苦笑)。返し馬の時点でも、「今日、ホントに走る気あるのかなぁ」っていつも不安でした。ゲートが開いても自分からバーッと行くタイプでもないから、道中も「大丈夫? 走る気ある?」って思いながら乗っていた感じですね。

──でも、直線に向くと、力強く伸びてくる。

四位 結果的にそうなんだけど、こっちの感覚としては、気づくと先頭に立っていたような。毎回「はいはい、わかってますよー」みたいな感じで勝ってくれてましたね(笑)。

──頼もしいんだか何だか(笑)。でも、そういう馬だからこそ、消耗が少なかったんでしょうね。そうじゃなければ、地方、中央、海外を股にかけての連勝なんてできない。

四位 あの馬の場合、どこに行っても変わらなかったし、自分を見失うことがなかったですからね。素晴らしい馬だったのはもちろんですけど、面白い馬でした、ホントに。

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▲「あの馬は自分を見失うことがなかった。ホントに面白い馬でした」 (C)netkeiba.com


──2002年のフェブラリーSは1番人気。GI4連勝なるかという一戦でしたが、あの頃は四位さんご自身の“負けられないプレッシャー”もピークにきていたのでは?

四位 そうですね。勝って当たり前だったから、少なくともワクワクする感じではなかったです。道中もハラハラドキドキで…。

──そうなんですね。道中も中団の外目、誰にも邪魔をされないところを余裕綽々で回ってきて、直線もものすごく余裕を持って抜け出してきたような印象がありますが。

四位 そんなことないですよ。馬はいつも通りのんびりしていたから、今日はスイッチが入るのかどうか、追い出すまでは不安でいっぱいでした。直線もね、もう必死(苦笑)。

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▲2002年のフェブラリーSで、JRAダートGIを初制覇 (撮影:下野雄規)


モズアスコットのダート挑戦に思うこと


──そのあとドバイ(ドバイWC6着)に挑戦したんですよね。そこで連勝はストップしてしまったわけですが、1年間の休養を経て、安田記念で復活Vを飾って。すごい馬です。

四位 その安田記念が、一番思い出深いレースかもしれません。今では珍しくないけど、前の年にドバイ、香港(クイーンエリザベスC2着)と使ってね。さすがにダメージがあったなかで、1年間のブランクを経て勝ったわけだから。すごい馬だなぁと思いましたよね。

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▲四位騎手が一番の思い出に挙げた2003年の安田記念 (撮影:下野雄規)


──しかも、走破タイムの1分32秒1は、当時のコースレコードでした。こうして振り返ると、二度と現れないんじゃないかと思えるほどの「真のオールラウンダー」でしたよね。

四位 確かに、芝もダートもトップクラスで勝負できる馬というのは、なかなかいませんよね。ただ、二度と現れないかというと、そんなことはないと思う。要するに、レースに出走させる側がどう判断するかですから。

──確かにそうですね。その点、白井調教師は柔軟だった。

四位 そうですね。デジタルの場合、使い出しがダートだったこと、あとはちょうど交流レースが盛んになってきた時期だったこともあって、使えるところは使いに行くというスタンスでね。

 ただ、マイルCSを勝ったような馬を、地方交流に持っていって負けるようなことがあれば、「何やってるんだ!」と非難を受ける恐れもあったと思うんです。実際、トップクラスまで上り詰めると、なかなか路線変更はできませんから。

 でも、白井先生はそういうことを臆せずにね、信念を持って取り組んでいらっしゃったんでしょうね。アグネスデジタルという馬は、そういう先生の信念と決断力、何よりオーナーさんの理解があったから、あれだけの成績が残せたんだと思いますね。

──モズアスコットにとっても、根岸Sを使うことは挑戦だったと思います。この挑戦について、四位さんはどう思われましたか?

四位 さすがだなと思いましたよ。意外に思った人も多かったと思うし、ダートがマッチするのかどうかは賭けだったと思うけど、実際にああやって結果が出たわけで。ルメールの騎乗もさすがだったし、やっぱりビジョンを持って使ってきた矢作先生はすごいですよね。

──ダートがマッチするかどうかは、やはり賭けなんですね?

四位 もちろんフォームだとか血統だとか、いろいろ適性を計るファクターはあるけど…。調教の感触から「ダートが良さそうだね」となっても、いざ使ってみたら走らない馬もいっぱいいますからね。

──フットワークや血統はダート向きでも、砂を被るのを嫌がって力を発揮できない馬もいたり?

四位 そうそう、キックバックが嫌な馬もいるし。そうやっていろんなファクターがあるなかで、どれかがピタッとハマってこないと走らないと思いますよ、ダートって。

──デジタルは、芝もダートも複数のファクターがハマったタイプということですか?

四位 そうですね。珍しいタイプだと思いますよ、やっぱり。

──はたしてモズアスコットがどれだけの可能性を秘めているのか。フェブラリーSを勝ったら、面白い存在になりますね。その後の選択肢も広がりますし。

四位 当然、矢作先生の狙いはそこにあるでしょうね。フェブラリーS次第では、ダートでもデカいところを獲りに行くよっていうね。面白いチャレンジだと思うし、トップクラスの馬だけに、普通ならなかなか冒険できないところ、ダートにシフトしてきた判断力と決断力は、やっぱりすごいと思います。どういう走りを見せるのか、僕も楽しみです。

(次回は2/25に公開予定です)

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