▲父子二代での重賞制覇を達成した永森大智騎手
今年の弥生賞では武豊騎手がディープインパクト産駒のサトノフラッグで勝利しました。JRAでは珍しくない「父子二代騎乗」。しかし地方競馬となると、その数はグンと減ります。
そんな中、3月22日、高知競馬でも活躍したグランシュヴァリエ産駒のリワードアヴァロンが重賞初制覇。鞍上の永森大智騎手(高知)は父子二代での重賞制覇の瞬間、大きなガッツポーズをつくりました。
「苦労する馬だったので印象に残っています」という父の思い出と、その遺伝子を引き継いだ息子への思いをうかがいました。
若手時代、何度も緊張した父グランシュヴァリエのレース
3月22日、高知競馬場で行われた3歳重賞・土佐春花賞は気分よく逃げたリワードアヴァロンと永森騎手が勝利しました。
「(同馬の父)グランシュヴァリエに色々と教わって騎手を続けられているので、息子で重賞を勝てて嬉しいです」
リワードアヴァロンの父・グランシュヴァリエはJRAで3勝を挙げたのち高知競馬に移籍。重賞3勝のほか南部杯(JpnI、盛岡)3着、JBCクラシック(JpnI、大井)4着と、積極的に遠征し上位入線を果たした馬でした。
▲リワードアヴァロンの父グランシュヴァリエ(提供:高知県競馬組合)
地元で挙げた重賞3勝の手綱はすべて永森騎手ですが、移籍後しばらくはリーディングジョッキーの赤岡修次騎手が主戦を務めました。今でこそ赤岡騎手と高知リーディングを争う永森騎手ですが、当時はまだ若手で、初めて手綱が回ってきたのは2011年4月。
「初めてグランシュヴァリエにレースで乗った時は緊張しました」と振り返ります。
「それまで調教には乗っていて背中の良さを感じていて、15-15に行っても『この馬、走るな』と思っていました。でも、『なんでこのタイミングで僕?』って(苦笑)」
永森騎手の言う「タイミング」とは、「遠征に比べて相手関係が楽な地元での特別レースでのタイミング」ということ。他地区の重賞やJRA馬とのダートグレードレースでは掲示板に載ると「健闘」と称えられますが、その一方で地元では負けられない立場となり、緊張もより増したというわけです。
しかし、永森騎手はグランシュヴァリエと出会う少し前、大きな経験を積んでいました。
それは期間限定騎乗を行った金沢や福山でのこと。
「それまでは高知で一強状態だった雑賀正光厩舎の所属ということで、人気馬に乗ることが多かったです。どうしても『負けても格好のつくレース』というのを意識してしまって、今のように先行馬で出遅れて差しに構えるっていうようなことはできずにいました。でも、金沢や福山では自分で考えて好きなように調教やレースができたんです」
期間限定騎乗に出る前後は地元リーディング6位辺りを浮遊していましたが、ひと皮むけた永森騎手はグランシュヴァリエと共に、さらに伸び伸びとレースをするようになりました。
▲高知県知事賞を連覇したグランシュヴァリエ(提供:高知県競馬組合)
中でも「今ほどの賞金でなくても、年末の大一番で特別」という高知県知事賞は2012、13年と連覇。
「1年目は距離適性のある馬が(グランシュ)ヴァリエくらいしかいなくて、『誰がどう乗っても勝つ』という雰囲気でしたから、緊張しました」
しかし、グランシュヴァリエならではの難しさを抱えていました。
「気性の難しい馬で、馬とケンカすると走る気を損ねてしまいます。こちらの気持ちで抑えると一切走らなくなるので、多少早くても気分良く行きたい時に行かせました」
2年とも2着以下を大きく離して、圧勝。
2015年9月のレースを最後に引退しましたが、「ヴァリエに乗れること自体、嬉しかったです。いろんな競馬場に行っていい経験を積ませてもらいましたし、僕自身も他場で顔を覚えてもらうことができました」と振り返ります。
嬉し悲し!? 精神面が父に似たリワードアヴァロン
▲機嫌を損ねると走らないのは父譲りのリワードアヴァロン(提供:高知県競馬組合)
思い出たっぷりのグランシュヴァリエの初年度産駒の1頭、リワードアヴァロンは門別でデビューし2勝を挙げて昨年秋、父もいた高知・雑賀厩舎に移籍してきました。鞍上はもちろん、永森騎手。
お父さんに似ているところもいろいろとあるようです。
「機嫌を損ねると走らない面はアヴァロンにもあって、2走前(2月9日高知4R C2-4)で2番手に抑えたらかかってしまい、そこからまったく走らず3着に負けてしまいました。さすがに先生からも怒られてしまいました……。その後のここ2走はそういうレースはしないように心がけています。まだ僕が目いっぱい走らせられていなくて、持っている力は相当です」
この後は3歳王道路線の予定。黒潮皐月賞(5月3日)は土佐春花賞から100m延長の1400mですが、高知優駿(6月14日)になると1900mと距離延長でその辺りが鍵となりそうです。
「スタートから気分良く逃げてどこまでもつかというタイプなので、距離延長が鍵なのと、そういうレースだけでは将来的に良くないので、折り合いも大切にしながらひと皮むけないと、と思っています。走り方はお父さんに似ていますよ。まだヴァリエほどのパワーはないですけど、若馬ですから、これからしっかりしてくればお父さんに近いくらいに成長すると思います」
▲この春、永森大智騎手とリワードアヴァロンに注目!
改めて、父子二代で重賞制覇を遂げたことについてこう話します。
「高知の馬が種馬になること自体が稀なことで、父子二世代で乗せてもらえるのはすごく嬉しいですし、ジョッキーとしていい経験をさせてもらっています。お父さんが苦労する馬だったので、余計に印象が強いですね」
この春、高知の3歳路線を賑わせる存在となりそうです。