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桜満開と外出自粛

  • 2020年05月06日(水) 18時00分

微笑ましい光景に漂う漠然とした不安感


 先月下旬までは肌寒い日が多く、暖房の欠かせない日々が続いていたが、大型連休に突入すると気温が急上昇し、3日にはついに日高各地の桜の名所が見頃を迎えた。

 桜は気温の積算で開花日が決まるらしいが、ようやくここ浦河でも桜が花開いたと思ったら、3日の暖気で一気に開花が進んだ印象だ。

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、政府や北海道は、盛んに「不要不急の外出を自粛して欲しい」と呼び掛けていたので、今年の大型連休はいくら何でも桜見物の観光客はここまで来ないはず...と思っていたのだが、どうも甘かったようだ。

 日高で最大の桜の名所と言えば、新ひだか町静内の通称「二十間道路」である。次いで浦河町の西舎の桜並木だろう。二十間道路は、道路幅が広くいつ見てもこの季節は圧巻の風景だが、浦河の桜並木は、それに比べると、やや小ぢんまりしている。その代わり、道路幅が狭く、満開になると両側から枝が伸びて“トンネル”に近い状態になる。現在はかなり伐採と間引きが実施されたためにそれほど密な感じではなくなったが、かつては太く大きくなり過ぎた老木が多く、文字通りのトンネル状態の景色が続いていた。

生産地便り

浦河町の西舎の桜並木


 5日の子供の日。久々に朝からよく晴れ渡ったこの日、仕事の合間にいつも通るコースを少しだけ迂回して、西舎の桜並木を走ってみることにした。自粛要請の出ている今年、どれくらいの交通量になっているのか気になったからだ。すると、やはり、コロナウイルスによる自粛疲れもあるのか、結構な数の車列である。ナンバープレートを見ると、約半分が地元の「室蘭」ナンバーで、残りの半分が「札幌」「帯広」「旭川」「函館」など道内各地のナンバーだ。中には本州ナンバーの車も混じっている。多くがカップルか家族連れであった。

 車をどこかに駐めて、カメラを肩から下げたり、携帯電話を片手に持ったりして、路肩をブラブラ歩きながら景色を楽しんでいる人も大勢いた。ほとんどがマスクを付けているが、中には顔を出したままの人もいる。例年ならば、何とも微笑ましい光景なのに、今年に限っては、そんな訪問者たちを見かけると、何とも複雑な心境ではある。

「ここ見てから、静内まで足を伸ばして二十間道路にも行くつもり」などと誰かに電話で伝えている女性がいた。浦河の西舎桜並木から静内の二十間道路までは小一時間なので、桜見物のハシゴも十分可能だ。札幌ナンバーとともに帯広ナンバーも多いのは、おそらくだが、一日かけて日帰りできるドライブコースになっているからであろう。十勝地方からえりも岬や野塚トンネル経由で日高に入り、浦河と静内で桜を見て、日高町〜平取町を経て日勝峠から十勝に戻るルート。また札幌方面からだと、日高町厚賀まで高速道路でやってきて、静内、浦河と桜を見物し、そのまま逆戻りするか、さもなくば、野塚トンネルを抜けて十勝地方に移動し、忠類大樹インターから高速道路に乗って札幌方面に帰って行くルートが考えられる。いずれにしても、楽に一日で走れるルートである。幸い、ガソリン価格が安くなっているので、燃料代もあまり気にならない。

 だが、この車列を見ていて、外出自粛などいったいどれくらい守られているのかと疑問であった。北海道では、札幌圏の感染者数が圧倒的に多く、状況としてはピーク時の東京に似ていると言われる。そのせいで、札幌ナンバーの車を見かけると、つい身構えてしまうようになった。中にはやむを得ない事情を抱えて来たくなくとも来ざるを得ない人も当然いるだろうし、物流、医療関係などの仕事に従事している人もいるだろう。しかし、桜見物は明らかに不要不急の外出だろうから、地元の我々としては決して歓迎はできないのだ。

 もちろん“自粛警察”ではないので、そんな人々に対し、わざわざ声をかけて帰宅を促したりはしない。どうかしたら、逆ギレされて思わぬ災難に遭ったりしかねない世の中だし、だいいち私にはそんな権限もない。

 さて、かくいう私も、本来ならば外出自粛していなければならないところだが、来る7月に予定されているセレクトセール上場申し込み馬の撮影があり、出かけなければならないのである。写真の締め切り日は5月13日。東京必着である。そこから逆算すると、この大型連休期間中の撮影にならざるを得ず、しかも天候優先なので、晴れると出かけることになる。今のところ、セレクトセールに関しては、延期や中止という情報は入ってきていないので、あくまでも当初の予定通りに仕事を進めなければならない。

生産地便り

上場申し込み馬の撮影は大型連休期間中にならざるを得ない状況だ


 ただ、新型コロナウイルスの感染拡大が近いうちに収束に向かうという保証はないので、自分自身が感染する可能性も含めて、日々漠然とした不安感に支配されている。馬業界のみならず、あらゆるイベントや行事、催事が中止になっており、当コラムのネタ探しにも事欠く状態だ。一日でも早く感染が終息して欲しいところだが、この連休中の交通量の多さを考えると、それはどうも難しいような気がしてくる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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