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【日本ダービー】ディープインパクトの最良の後継馬になる

  • 2020年06月01日(月) 18時00分

求められるのはここ一番での確かな性能


 圧倒的な1番人気に支持されたコントレイル(父ディープインパクト)の、決定的な3馬身差の完勝だった。2007年ウオッカが「3馬身差」。2005年ディープインパクト、1998年スペシャルウィーク、1994年ナリタブライアンの3頭が「5馬身差」で勝っているが、近年の良馬場ではこういう着差はめったにない。

 コントレイルは、落ち着き払っていた。日本ダービーの1番人気馬は、ふつうは存在をアピールするくらい気迫を前面に出すことが多い。しかし、無観客、レースの重要性を分かっていないのかと映るほど静かだった。品性あふれる身体つきは、逆に非力な幼ささえ思わせたが、これこそディープインパクトの真価。時おり見せる眼光だけはどの馬より鋭い。

 競走時のディープインパクトは、他馬のオーナーに「そんなに抜けた存在とは思えないのだが…」と、レースのたびに嘆かせる少年のような存在だった。ミニ父ディープインパクトは何頭も輩出したが、ディープと同ランクか、ひょっとすると父を超える面もあるのではないか、と思わせる本当の後継馬は、父が光りすぎていただけに少ない。すでに結果を出しているキズナとともに、ディープインパクトの最良の後継馬になること必至、そんなムードに満ちた日本ダービー制覇でもあった。

写真提供:デイリースポーツ


 このペース「3分割すると(49秒4-48秒6-46秒1)=2分24秒1」なら、レイデオロやエイシンフラッシュの年のように最後は32-33秒台になっても不思議なかった。福永祐一騎手の勝利騎手インタビューに出てきたが、まだ本気で走っていないのがその理由か。案外、平凡な馬に見せる一面もディープインパクト系のすごさかもしれない。ハデな見映えより、求められるのはここ一番での確かな性能である。

 サンデーサイレンス直父系産駒は、直仔登場の1995年以降の26年間で日本ダービー16勝。同じ東京2400mのオークスも13勝。ジャパンCは24回(一度は中山)で10勝。東京芝2400mのGI計76レース中、実に半数以上の39レースを制したことになった。

 慎重に大事に乗ったサリオス(父ハーツクライ)が3馬身差の2着。ただし、ディープインパクトとは自身の成長曲線も、産駒のそれも異なるハーツクライは、3歳クラシックはワンアンドオンリーとヌーヴォレコルトが、日本ダービーとオークスを勝っただけ。最初のころ、野獣のように見えた武骨なサリオスも、すっきり見せる好バランスの素晴らしい馬体に整ってきたばかりだった。陣営が最初のころ、クラシックではなくNHKマイルCの路線をほのめかしたように、今回は距離適性の差も大きく感じさせた。

 確かに惜しい2着ではなかったが、それは完成度も軽快なスピードも重要な3歳春時点だから、ともいえる。リスグラシュー、ジャスタウェイ、スワーヴリチャード、シュヴァルグラン…などが示すように、ハーツクライ産駒の3歳時は案外なことが多い。サリオスの今後の路線は2000m級以下と思われるが、4歳後半-5歳時になったらまたベストの距離は変化する可能性がある。コントレイルがディープの有力後継馬なら、これから本物になるはずのサリオスも、ハーツクライの最良の後継馬の1頭となって不思議ない。

 ハーツクライ産駒では、横山典弘騎手のマイラプソディも同じ。前後半の1200mに2分すると「1分13秒5-1分10秒6」=2分24秒1のスローバランス。緩い流れを読んで途中で動いたが、後半失速するようなペースではない。前2戦のスランプは脱しつつあったが、まだまだ成長の途上か。母方に重ねられた種牡馬から、マイラー型の可能性もある。

 文句なしにデキ絶好に映ったのは、3着にがんばったヴェルトライゼンデ(父ドリームジャーニー)。前回あたりまで、父とはまるで異なるずんぐり体型にみせることがあったが、陣営が早くから「5月末の日本ダービーこそが最大目標」と公言していた通り、意欲的に追って仕上げた今回は体型まで変わったように見えた。終始、コントレイルと前後する位置で先行し、ペースが上がると手応え一歩になる場面もあったが、最後までがんばって3着死守。皐月賞とは一変の快走だった。1-2着馬と異なり、東京は初コースだった。

 4着サトノインプレッサ(父ディープインパクト)は、最近では珍しいNHKマイルCからの挑戦。のびやかに見せる体型ながら、母サプレザも、その父Sahmサームも短距離での活躍馬だけにいきなりは苦戦と思えたが,祖母の父はタップダンスシチーで知られるPleasant Tapプレザントタップ。母と同じく輸入馬の半妹スタイルプレッサは短距離タイプではない。毎年のように好走馬を送る1番枠を利した坂井瑠星騎手の好騎乗もあった。これから大きく成長するだろう。

 3番人気のワーケアは、勝負どころではコントレイルの直後にいたが、上がりの速い展開になって切れ味負け。この馬もハーツクライ産駒。今回の独特のローテーションは実を結ばなかったが、秋になって確実に変わる。トモの発達した馬体は光っていた。

 巻き返しを図ったサトノフラッグ(父ディープインパクト)は、見せ場を作れなかった。皐月賞より気迫もあり、身体全体の作りも良かったが、上昇カーブに乗ったところで日本ダービー、という望ましいサイクルになれなかった。

 伏兵視されたガロアクリーク(父キンシャサノキセキ)は、コントレイルを射程に入れての正攻法。伸びてはいるが、この距離だと一連のレースでみせた意外性発揮とはならなかった。こなせる距離の幅は広いが、2000m→2400mはプラスではなかったのだろう。

 ダーリントンホール(父New Approachニューアプローチ)は、前半から流れに乗れなかった。レース後半の1200mは1分10秒6。上がり34秒7。どんどんラップが上がる流れは、父も祖父も英ダービーのこの馬にとってもっとも歓迎できないペースだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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