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【アイビスSD】猛然と飛ばして逃げ切るのは至難

  • 2020年07月27日(月) 18時00分

接戦の粘り強い逃げ切りは価値がある


 5歳牝馬ジョーカナチャン(父ロードカナロア)が5着まで0秒1差以内の大接戦を切り抜けて、初重賞制覇。直線1000m【3-1-0-1】となった。2着に惜敗したのは1番人気の5歳牡馬ライオンボス(父バトルプラン)。こちらはこれで直線1000m通算【4-2-0-0】。

 日本初の直線1000mのアイビスサマーダッシュは、区切りの第20回目が終了し、どんな背景を持ったレースなのか、きわめて明確になった。

▽ここまで20回の年齢別の成績は、
3歳… 25頭【2-3-5-15】3着以内率.400
4歳… 43頭【6-5-2-30】3着以内率.302
5歳… 84頭【7-8-8-61】3着以内率.274
6歳… 80頭【3-4-4-69】3着以内率.138
7上… 80頭【2-0-1-77】3着以内率.038

 もっとも好走例が多いのは、今回は1、2、3着を独占した5歳馬。特殊な距離なので出走馬は3歳馬から、上は9歳、10歳馬までが挑戦しているが、好走率がもっとも高いのは若い3歳馬(負担重量ベースは牡馬53キロ、牝馬51キロ)。ベテランになるほどどんどん好走例が減っていく。これはGIスプリンターズSと少々異なり、スペシャリストの距離ではあるものの、実際には実績は乏しくとも、わずかでも軽い負担重量が大きな意味を持つことを示している。

 今年は1番人気のライオンボスがあと一歩及ばなかったことが示すように、男馬で57キロ以上を背負った実績上位馬は【0-2-0-17】。まだ1頭も勝っていない。牝馬は次に示すように3着以内に快走した馬が32頭。素晴らしい成績を残しているが、55キロ(牡馬なら57に相当)で勝ったのは、4-5歳で連覇した2008年のカノヤザクラと、2016年のベルカントだけ。2着が1頭。29頭までが負担重量54キロ以下だった。

▽ここまで20回の牡馬(セン馬)、牝馬別の成績は、
牡馬…182頭【7-11-10-153】3着以内率.154 勝率3、8%
牝馬…130頭【13-9-10-99】 3着以内率.246 勝率10% 

 牝馬が連対できなかったのは、2002年、2012年のたった2回だけ。今年は史上最多の12頭も牝馬が出走し、1着、3着が牝馬だった。勝率、好走率ともに牝馬が大きく上回る。

 多頭数の近年になるほど「外枠有利」の傾向は強まり、馬番二ケタの馬が連対しなかったのは12頭立てだった第一回の2001年一度だけ。1番人気馬の成績は【8-4-1-7】にとどまるが、現在は8年連続して連対中。記録(実績)の信頼性が高まっている。

 勝ったジョーカナチャンは、映像の角度にもよるが途中で内のカッパツハッチ(父キンシャサノキセキ)と並んだような場面もあるが、一完歩目は速くなかったのにダッシュを利かせて一気の逃げ切り。「21秒7-32秒8」= 54秒5の時計は平凡に映るが、近年はそれほど高速の芝ではなく、接戦の粘り強い逃げ切りは価値がある。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ、撮影:園田高夫


 アイビスSDの前半400mの最速ダッシュは、2010年に逃げ切ったケイティラブの「11秒6→21秒5→」。2012年に飛ばして4着だったハクサンムーンの「11秒6→21秒5→」がトップ。次いで2005に逃げ切ったテイエムチュラサンの「11秒7→21秒7→」などが続くが、今年のジョーカナチャンの「11秒7→21秒7→」は、芝コンディションを考慮すると歴代の快速馬に見劣るものではない。最後の1ハロン11秒6も上々。近年は、直線1000mを猛然と飛ばして逃げ切るのは至難とされるだけに、大接戦をしのぎきったから立派だ。

 ライオンボスは、押しながら追走し、早めに鞍上の手が動くのはいつも通り。ジョーカナチャンをずっと射程に入れていただけに、今回は相手の充実を認めるしかない。パワフルなフットワークはいつものライオンボスだった。

 初の直線1000mを「22秒5—32秒0」=54秒5で少差3着のビーリーバー(父モンテロッソ)は残念。決して机上の計算ではなく、アイビスサマーDは最初の400mを22秒台中盤の追走になってしまうと、わずかコンマ2-3のことなのに、なかなか勝ち切れるものではない。それでいながら、この相手に頭、首差の同タイムは見事だった。

 同じく直線1000mが初めてのイベリス(父ロードカナロア)は、2015-16年に連勝したベルカントの半妹らしい好走だった。ビリーバーとは逆にこちらは「22秒1-32秒7」=54秒8。今年の芝はライオンボスの前半でさえ「21秒9→」なので、初めての1000mにしてはほんの少しだけ速かったかもしれない。だが、実績上位の5、6、7歳馬が上位を占めた中、この牝馬はまだ4歳。このあと大きく変わるはずだ。

 見せ場を作ったカッパツハッチ(父キンシャサノキセキ)は、0秒3の着差、着順以上の好内容だった。この枠順(4番)なので外には行けず、本当はほんの少し息を入れたい中盤でスパートするしかなかった。今回は枠順の不利があまりに痛かった。

 7歳牝馬ダイメイプリンセス(父キングヘイロー)は、外に寄るのをやめ、ばらけた中ほどに突っ込む好騎乗。一瞬、勝ち負けに持ち込めそうな脚をみせたが、先着を許したのは外で併せ馬になったグループだけだった。まだまだ衰えてはいない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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