話題の熊本産馬ヨカヨカの誕生秘話とは(提供:デイリースポーツ)
今週末のひまわり賞に出走予定のヨカヨカ(牝2、谷潔厩舎)は九州産馬。夏の小倉を待たずに6月阪神の新馬戦を制し、続くフェニックス賞も逃げ切って2連勝。そんなヨカヨカを生産したのが熊本の本田土寿牧場です。現在は北海道が主流であるサラブレッド生産ですが、熊本から大舞台を目指します。
(取材・文=佐々木祥恵)
※このインタビューは電話取材で行いました。
最初に馬を手掛けたのは高校生の時
本田土寿さんと馬との出会いは小学校4年の時だった。
「その頃見た西部劇の映画の影響で馬に乗りたくなったんです」
近所にたまたま農耕馬がいた。
「その馬に餌をやったり、畔草(あぜくさ)を切って与えたりしていました」
時には馬が餌や草を食べているその背中に飛び乗ることもあった。
「温かい体温とか、馬の感触を味わっていましたね。餌を食べている時の顔が微笑ましくて癒されていました」
どうしても自分の馬が欲しくなった本田少年は、家族で食卓を囲むたびに父親に馬が欲しいと頼んだ。根負けしたのは父親だった。
「ウチは農家だったもので、牛もいたものですから、その中の4頭を売ってそれで馬を買ってこいと言われました」
そしてやって来たのが、北海道産中間種の鹿毛の牝馬だった。
「近所の畔草を切ってきたり、フスマを一輪車で買いに行っては与えていました」
こうして毎日馬と触れ合う生活が続き、やがて馬の生産を始める。驚くことに最初に手掛けたのは高校生の時だった。
「昭和51年にアングロアラブ種を買って、地元の種馬をつけて市場で売っていました。20歳くらいには、フジヨシヒメとラークサカエという2頭のサラブレッドを導入していました。これが自分の初代のサラブレッドになります」
以来、本田さんは軽種馬の生産者の道を歩み続け、毎日馬と顔を合わせて過ごしてきた。
だが、現在サラブレッドの生産は北海道が主流で、数少ない九州産の馬たちは苦戦をしいられている。その中でも本田さんの生産する馬は、昨年のひまわり賞で2着だったローランダー(現牝3・1勝クラス)など、ここのところ善戦を続けており、今年は九州産限定ではない新馬戦、続くオープン特別・フェニックス賞を2連勝中のヨカヨカを送り出したのだった。
ヨカヨカの半姉ローランダーは2戦目で勝ち上がり、ひまわり賞でも2着に(C)netkeiba.com
子馬が生まれるたび“今までで1番良いぞ! 最高、最高”
新馬戦はスタートで出遅れた。それでもすぐに4、5番手に取りついて、道中から手応え良く進み、そのままの勢いで直線でも良く伸び、一騎打ちとなった1番人気のモントライゼをゴール前でアタマ差交わして見事デビュー勝ちを収めた。
「出遅れてもヨカヨカは先行集団にパッとつけられましたからね。そのリカバリーの時点でハミをグッと噛んで、福永騎手もうまく折り合いをつけてくれましたし、これはラスト、切れるぞ、弾けるぞと、家族の前でワーワー言ったですよ。その通り、最後はマッチレースになってくれました。もうあのヤル気は誰から受け継いだんですかね。僕からもらったのかな(笑)。
結構調教の時計が良かったですし、恐らく勝ち負けになるようなレースはしてくれるだろうと思っていたんですよね。しかし、母父がDanehill Dancerなんですけど、母のDNAですかね。お母さんのハニーダンサーも結構勝ち気な馬で、ウチでもボス的な存在なんです。体も太ければ態度も太かですし(笑)」
そのハニーダンサーは、北海道浦河町の大島牧場から九州にやって来た。
「息子が北海道で獣医をしておる頃、大島牧場さんに懇意にしていただいてたんですよね。そういった流れで息子が九州に戻る時に、大島牧場の社長に譲ってもらいました」
ヨカヨカの勝ち気な性格は母ハニーダンサーから受け継いだDNA(ユーザー提供:アハテルケさん)
その時、ハニーダンサーはトゥザグローリーを宿しており、翌年生まれたのがローランダーだった。
ハニーダンサーにスクワートルスクワートを付けた理由を聞いてみた。
「ハニーダンサー自体が筋肉質でパワフルな馬なので、サラっとしたスピード体型がほしかったんですよね。スクワートルの子は結構脚の回転もきくし、仕上がりがまず早いということと、肩とかトモがきれいな形で、スピードありそうなきれいな体型を出してくれるので選びました」
そしてヨカヨカが誕生した。
「安産で生まれてくれましたし、可愛かったですね。健康で生まれてくれましたから、それでもう問題ないと。牝馬が生まれたらいつも、桜花賞、オークスっていう気持ちになります。子馬が生まれると、今まで生まれた中で1番良いぞ、最高、最高とウチの嫁さんに必ず言うもんで『あんたはそれを何十年と言い続けてる、いつも最高の馬が生まれているけんね』とからかわれます。
ヨカヨカは優等生で、まず手のかかった病気とか変な癖はなくてですね、たまにちょっと暴れる程度で可愛いもんですよね、それがまあ日に日に変わっていってくれて。1歳の6月までウチにいて、その後JRAさんの宮崎の育成に7月から行きました。次に私が見たのが2歳の4月ですからね。その時はビックリするくらい体型が良くなっていました。
宮崎育成場におる中でもひいき目抜きで、1、2位の馬に見えたんですよね。馬っぷりも良いし、すごく肩先の角度がきれいだし、手足も柔らかいし、こりゃあ一発仕事をするなと思ってですね。育成場で騎乗供覧を見せてもらった時に、これは行くばい! という気持ちになりました。そんなに脚の回転が速いようには見えなくて、ペースもそんなに速くは感じなかったのですけど、トビが何しろきれいで、あの時の1番時計でしたね」
何しろ無事に、結果はその後についてくる
ヨカヨカは本田さんの期待通りに新馬を勝ち、2戦目は小倉競馬場に舞台を移してフェニックス賞に出走。初戦で退けたモントライゼが、2戦目の未勝利戦で2着馬に大差をつけて逃げ切り勝ちを収め、ヨカヨカの評価もさらに上がり、当日は単勝1.4倍と堂々の1番人気に推されていた。
スタートは少し遅い程度で、そこから二の脚でハナに立ち、直線でも後続を寄せ付けずに見事逃げ切り勝ちを収めた。
「600mが確か32秒台で、ラップがちょっと速いかなと思ったんですけど、最後まで渋太かったですし、ラストも伸びていた感じでしたからね。応援にも気合が入りましたし、見ていて気持ち良かったですね」
断然人気に応え、熊本産馬初の平地オープン勝利となったフェニックス賞(提供:デイリースポーツ)
九州産限定戦ではなく、一般の馬に交じっての戦いで2連勝を飾ったヨカヨカは3戦目で初めて九州産限定戦のひまわり賞に出走することとなる。そして本田さんにとっては、2018年のカシノティーダ、2019年のイロゴトシに続いて、生産馬のひまわり賞3連覇がかかっている。期待のほどを尋ねると、謙虚な答えが返ってきた。
「何しろ無事に走ってもらうのが先決であって、勝ち負けはその後についてくると思います」
ヨカヨカ。九州の方言で、いいよ、いいよの意味だ。
「もう最高の名前ですよね。ヨカヨカっていうのは、九州ではほっこりするような嬉しい名前ですからね。オーナーに感謝ですよ。熊本産馬にベストマッチですね」
本田さん、オーナー、そしてファンの思いを乗せて、ヨカヨカはまた走る。九州産馬の星として、この先もさらに大きな舞台を目指してヨカヨカという馬名の通りの結果を残してもらいたいものだ。
(※文中敬称略)