ちょっとしたきっかけでグンと成長する若手騎手。高知の若武者は、気合いを入れて挑んだレースでスタートを決められず悔しさを味わった数日後、地元のレースで好スタートから単勝99.3倍の馬で逃げ切り勝ちを決めました。もしかして、あの時の悔しさがバネになったんじゃないか――そんな想像をしながら若手騎手たちのレースを見るのも楽しいものです。
若手騎手たちによる戦い「ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」のトライアルラウンドが先週5日をもって全日程が終了しました。JRA・地方競馬合わせて16名の騎手が12月24日園田競馬場、26日阪神競馬場で行われるファイナルラウンドに出場しますが、今回のコラムでは、ファイナル出場とはならなかったのものの、冒頭のようにきらりと光るジョッキーの「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
逃げると単勝回収率141.6%!
小野楓馬騎手(おの・ふうま、北海道)
▲ホッカイドウ競馬所属の小野楓馬騎手
YJSでは地方とJRAをそれぞれ東西に分け、各カテゴリーで上位4名、計16名がファイナルに出場できます。
小野騎手は地方東日本5位。大井競馬場でのトライアルラウンド最終戦を前に首位に立っていただけに、本当にあと一歩のところでファイナル進出を逃した形ですが、デビュー2年目にしてすでに重賞4勝を挙げています。驚くべきは、そのすべてが逃げ切り勝ちということ。それも、うち3勝は地方競馬の中ではコーナーが緩く、内回りコースでも1周1376mある門別コースでのこと。昨年、プリモジョーカーで逃げ切ってリリーCで重賞初制覇を遂げると、今年はアザワクでグランシャリオ門別スプリントを、クインズプルートで星雲賞を制覇後、笠松競馬場に遠征し、くろゆり賞を逃げ切って重賞4勝目を挙げました。
これについては本人も「たしかに追い込みに比べると、逃げ・先行の方が競馬をしやすいです。よくその形で勝たせていただいているので、自然と自信にはなっているのかなと思います」と話します。
先月末までのデータでは逃げての勝ち星が圧倒的に多く、単勝回収率も141.6%と高い数字をマークしています。(門別競馬場での騎乗に限る)
一方で、本人は「逃げが得意ってほどではないです」と、何が何でも逃げたいというわけでもなさそうで、実際、YJS門別第2戦では6番手外からレースを運び、残り600m手前で先頭に立っての押し切り勝ちでした。
▲YJS門別第2戦では6番手から早め先頭での押し切り勝ち
「手応えが違ったのと、それまでのレースを見ると後方から長くいい脚を使う馬だったので、無理に押さえつけるよりは流していって、しぶとく残ったほうがいいのかなと思いました。内にいた馬もみんな人気していたので、早めに仕掛けて、ちょっと潰しにいくつもりで乗りました」
入念な準備と冷静な分析が勝利につながったのでしょう。すでに雪が降り始めた北海道では競馬はオフシーズンに入りましたが、来春、門別競馬場での小野騎手の騎乗に注目です。
地方女性騎手初出場目指して
関本玲花騎手(せきもと・れいか、岩手)
▲岩手競馬所属の女性ジョッキー関本玲花騎手
お父様が騎手・調教師という環境で育ち、地方競馬教養センターに合格する前、女性騎手交流戦「レディスヴィクトリーラウンド」が盛岡競馬場で行われた日には競馬場へその様子を見に来ていた関本騎手。
昨年10月にデビューすると、インターネット上では関本騎手のファンのことを「玲花おじさん」と呼ぶ単語が生まれるほど、地方競馬ファンの間で人気を博しています。
少しずつ成績も残しはじめ、YJSトライアルラウンドでは地元盛岡で4着、門別で3着、5着と掲示板を確保。さらに、10月21日にトライアルラウンドが浦和競馬場で行われた日にはYJSの前にエキストラ騎乗を行い、浦和初騎乗・初勝利を遂げました。
800m戦で好スタートから2番手につけ、逃げる1番人気を直線でスーッとあっさり交わして完勝という内容。乗り慣れた盛岡競馬場よりも小回りの浦和コースに対応しました。
「直線に向いて、『これ、勝ったかも』と思いました」と関本騎手。
引き上げてきた人馬を迎えた元騎手の平山真希調教師も「玲花ちゃん、うまく乗ったよ」と声をかけていました。
▲同日の浦和6Rにて勝利を挙げた関本玲花騎手
同日に行われたYJS浦和は第1戦で「エキストラ騎乗の経験が生きました」と3着同着でした。
残念ながらその後、他の騎手がポイントを大幅に加算したため、ファイナル進出とはなりませんでしたが、近い将来、JRAで騎乗できる機会がくるのを楽しみに待ちたいと思います。
悔しさバネに単勝99.3倍で勝利!
妹尾将充騎手(せのお・まさちか、高知)
▲高知競馬所属の妹尾将充騎手
昨年4月にデビューした妹尾騎手は昨年のYJSが地方西日本10位、今年も西日本地区最後のトライアルラウンド(笠松)を前に13位タイに留まっていました。
「2連勝したら、ファイナルへの望みがまだありますよね!」
笠松でのトライアルラウンドを前にそう話していた妹尾騎手。しかし、ほとんどの騎手がテン乗りのため展開が読みづらく、騎乗馬のクジ運も左右する騎手交流戦で連勝することはとてもハードルの高いことです。
ところが笠松第1戦。手応えを感じながら回った4コーナーで大外に出すのではなく、脚が上がった馬の間を上手く縫いながら前へと迫ってきました。
逃げた1番人気馬が直線で粘り込みを図り、3馬身届かずの2着でしたが、外から鋭く差してくる姿には一瞬、「おっ!」というものがありました。
「もうちょっとスタートを出したかったな」と、応援に駆け付けた師匠の宮川浩一調教師が声をかけると、妹尾騎手も「言われたように、地元でもゲートを出せず負けたことが多かったので、そこを改善できたらと思います」と振り返りました。
第2戦は5着で、ファイナル出場とはなりませんでしたが、その週末の8日。地元・高知6Rで騎乗したアヴァンティは他馬を怖がったり、砂をかぶると良くない面のある馬でした。好スタートから気合いをつけハナを奪うと、道中は気分よくスイスイと逃げ、直線でも脚色が衰えることなく、単勝99.3倍という人気薄ながら見事に勝利を収めました。
不良馬場で前が残りやすかったことや、スタートを決めてこの馬の良さを生かせたことが勝因の一つだったのでしょう。
この日はお母様が広島県から応援に駆け付けていたそうで嬉しい勝利にもなりました。
「タイキパラドックスで初勝利を挙げた時以来の現地観戦に来てくれていたんですが、『勝てないかもしれない。ごめん!』って連絡していたんです。そしたら勝つことができて、嬉しかったです」
▲悔しさをバネに単勝99.3倍の馬で勝利を挙げた
YJS笠松ではスタートを決めきれず悔しさを味わったでしょうが、それが生きたレースのように感じました。