2020年11月29日、アーモンドアイを見つめる根岸真彦調教助手(撮影:下野雄規)
本日行われたジャパンCで、1頭の名馬が現役生活を終えました。その強さと愛らしさで、たくさんの人々に感動を与えてくれたアーモンドアイ。どんな時も、誰よりもずっと1番近くにいたのは担当の根岸真彦調教助手でした。芝GI9勝目となったラストランを無事に終えた今日、彼女との思い出を綴っていただきました。
(構成=東京スポーツ・藤井真俊)
ついにお別れの時が近づいてきてしまいました。ラストランとなったジャパンCを終えて、美浦トレセンで一緒に過ごすのもあとわずか。大好きな青草を頬張る姿がもう見られなくなると思うと寂しくなりますね。
しかし改めてアーモンドは本当にすごい馬です。今回のジャパンC。もちろん勝って欲しいと思っていましたが、それよりもまずは無事に帰ってきてほしいと思っていたので…。そんな中で素晴らしい強豪たちを下してGI9勝目。本当にすごい。これ以上の言葉が見つかりません。
歴史的一戦となったラストランを終えて…(撮影:下野雄規)
アーモンドに初めて会ったのは2歳の夏のデビュー前。大人しい馬で、普通キャンターあたりでは、それほど目立った印象はなかったです。ただ追い切りに行って、いざ出してみると、古馬を相手にいくらでも伸びてしまいそうな反応で…。その時に初めて、この馬は上のステージで活躍できる馬かもしれないと感じました。もちろんGIをいくつも勝てるとまでは思いませんでしたが(苦笑)。
2019年5月29日、追い切り後のお手入れタイム(C)netkeiba.com
あとは新馬戦当日の鞍付けも忘れられないですね。国枝先生が前に立って装鞍していたのですが、アーモンドに後肢で蹴られてしまったんです。普通なら蹴られないような場所にいたんですよ? 残念ながら先生は少し怪我をしてしまったんですが(苦笑)、その可動域の広さに2人で驚いたのを覚えています。
その後の活躍は皆さんもご存じの通りですが、個人的に1番自信があったのはオークスですね。桜花賞の内容から同世代では力上位だと思いましたし、折り合い面から距離の不安もなかったので。レースでも期待通りに結果を残してくれましたが、その後にトラブルが起こったんです。レース後に体が熱くなって、熱中症のような症状を見せたんですよね。レースに行くと、すべてのエネルギーを燃やし尽くしてしまうのでしょう。このオークス以降は、しばしばレース後にこういう様子を見せるようになり、昨年の天皇賞・秋のように表彰式を辞退するようなこともありました。普通の馬ではまずこんなことはありませんから、改めてアーモンドはすごい馬なんだなと思いますね。
2019年10月27日、天皇賞・秋。主役のいない表彰式(撮影:下野雄規)
逆にレース前にすごく緊張したのは秋華賞の時。牝馬三冠がかかっていたことはもちろん、レース前に蹄を痛めた時期があって、かなり調整には苦労をしました。そういう中でどんな競馬をしてくれるか…と祈るような気持ちだったのですが、こちらの不安をよそに、あっさりと三冠を達成してくれましたね。
その後もタイトルを重ねて、歴史に残る偉業を達成してくれたアーモンド。自分にとっては二度と出会えないであろう本当に特別な存在です。
そうそう。自分は父がJRAの元職員で、両親ともに競馬が好きなんですが、彼女のおかげで色んなところに連れていってあげることができました。京都や阪神、はてはドバイまで。そういう意味で、アーモンドは自分に親孝行もさせてくれましたね。
2019年3月30日、ドバイターフ。最初で最後の海外レース(撮影:高橋正和)
これからは北海道に帰って、繁殖という大切な仕事が待っています。いつまでも無事に、そして健康な子供を産んでほしい。そして贅沢な希望を語らせてもらうなら、その子供をまた自分が担当させてもらえたらな…なんて思っています。これはあくまで願望というか、夢のような話なんですけどね(笑)。
おつかれさま、アーモンド。本当にありがとう。
(アーモンドアイ担当助手=根岸真彦)
「おつかれさま、アーモンド。本当にありがとう。」(C)netkeiba.com
根岸 真彦(ねぎし まさひこ)
美浦・国枝栄厩舎 調教助手。
1982年12月6日、千葉県出身の37歳。AB型。趣味はゴルフ。