▲歴史的ジャパンCで有終の美を飾ったアーモンドアイ (撮影:下野雄規)
12月27日の中山、阪神開催で、2020年の中央競馬が幕を閉じた。コロナ禍の影響で2月29日から7カ月余の無観客開催を強いられるなど、一般社会同様に多事多難だったが、実りの秋の言葉通り、10月から11月にかけては歴史を塗り替える大記録が相次いで誕生。競馬界の枠を超えて大きな注目を集めた。
その決定版が11月29日の第40回ジャパンC(東京=GI、芝2400m)。史上初めて、無敗で3歳牝馬三冠を制したデアリングタクト。父ディープインパクト以来、15年ぶり3頭目の無敗の3歳クラシック三冠馬となったコントレイル。
ここに、11月1日の天皇賞・秋(同=GI、芝2000m)で、国内外GI8勝の史上最多記録を達成したアーモンドアイ(牝5)陣営が参戦とジャパンC限りの引退を表明。国内競馬界で初めて、「三冠」の肩書を持つ3頭が集結する空前のカードが実現した。
結果は周知の通り、アーモンドアイが直線残り150m付近で先頭に立ち、無敗三冠馬2頭の追撃を封じて優勝。GI勝利数を「9」に伸ばして有終の美を飾った。
2〜5着は接戦となったが、直線で外から伸びたコントレイルが、内に進路を取ったデアリングタクトをクビ差で抑えて2着。デアリングタクトもカレンブーケドールには鼻差で競り勝ち、1〜3着まで人気順通りに決着した。結果も含めて、既に「歴史的一戦」と評価されているこのレースは、国内競馬界に何を残したか?
競馬のスポーツ性をアピール
競馬は「キングオブスポーツ」と呼ばれる一方で、万人がスポーツ性を認めているとも言い難い。馬券というゲームが財政基盤を支えている点は、スポーツ性への疑義を後押しする。常に強い者が勝てば、ゲームが成り立たなくなる。
ハンディ戦や賞金別定戦で、実績馬が不利になるのは、「強い者が勝つ」という原則の作動を抑え、興行的な関心を高めるのが目的だ。GIを定量戦で行っていても、「競馬はギャンブル」という規定の根拠にされる。
だが、今回のジャパンCに集まった視線は徹底してスポーツ的だった。実戦での検証の末、圧倒的な強さを認められた複数の馬の中で、さらに「誰が一番強いか」が関心を集めた。出走15頭中8頭が国内外のGI勝ち馬だったが、世間の見立ては「3頭立て」。
4着カレンブーケドール、5着グローリーヴェイズとの差を考えれば、3頭立てとは言い難い力関係だったが、人気順通りの決着は、競走体系全体が、強い馬を選ぶという本来の機能を果たしていたことを示した点で意義深い。
たまたま、筆者はレース4日前、プロ野球日本シリーズ最終戦(ソフトバンク-巨人)をBS1で見ていたが、中継終了後に次の番組とのインターバルでジャパンCの当日中継の予告が放映されたので驚いた。かと思えば、2日前には午後9時の「ニュース9」のスポーツコーナーでも放映予告込みでジャパンCが扱われており、改めて注目度の高さを実感した。
今回は観客の入場が大幅に制限され、当日の入場者数は4604人。入場者数で「熱量」を測るのは難しい状況だったが、関東地区のテレビ平均視聴率(フジテレビ系=ビデオリサーチ調べ)は8.3%を記録した。同じフジテレビ系の日本ダービー当日の7.8%を上回り、11-19年の数値(最低5.2%=11年、最高7.1%=13年)を大きく上回った。
当日はBS1に加え、専門局・グリーンチャンネルも無料放送を行っており、実質的な視聴率はもっと高かったはず。レースの中継が「買った馬券の成否を確認する」だけにとどまらず、見るスポーツコンテンツとして意味を持っていたのだ。
馬券の売り上げは272億7433万4600円で、前年を実に47.5%上回り、今世紀最高を記録した。一方、3連複300円、3連単1340円の払戻金はともにGI史上最低だった。払戻金を手にした人が多かったのだが、こと今回ばかりは、当たり外れやリターンの額では計れない満足感を得た人は多かろう。
こうしたカードは人為的に組めるものではなく、様々な巡り合わせの結果だが、競馬が目指すべき指向点を示したのは間違いない。
「牝馬の時代」を象徴する結果
では、2着コントレイルを、アーモンドアイ、デアリングタクトの牝馬2頭が挟む形で決着した点をどう見るか?「牝馬の時代」が現在進行形であると評価すべきだろう。